風土病にはご用心3
近場の山といっても、結構遠いんだよ。目の前に見える小山。でも、周りは果てしない麦畑。遠くがよく見える自然豊かな田舎。
そう田舎なんだよね。多分かれこれ1〜2時間は歩いている。でも、まだ麓にも着いてない。
暗くなる前にとは言われたものの、これは行って帰って来るだけで、家に着く頃には、完全に日が落ちてると思うんだよね。
昔にお母様が取りに行ったとはいえ、女一人で向かう所じゃないよね。そこの所も詳しく聞きたかったけど、時間もないし詳しくことは聞けずじまい。
また暫く歩くことでようやく目指すべき山の麓に到着した。お天道様が真上にあるので、もう12時になったんだよ。山中では、休憩するのに良い場所があるかどうかは分からないので、ここで一息お昼休憩である。
走ってはいないけど、長時間の歩行で足はちょっとくたびれてるんだよ。お父様の命の掛かっている状況なので、弱音は吐かないが、休むべき時はしっかりと休む。
ここからの山登りが今日の本番である。
「マッシュ兄さんもキャロットちゃんも簡単に摘めるものを持ってきたのでどうぞ。」
「あの短い時間でよくこれだけ作ったね。ありがとうあかね。」
そう言って、マッシュ兄さんは、トンカツを挟んだ丸パンをガブリと齧りつく。
「お姉様、ありがとございます。私はこれを頂きますわ。」
フルーツと砂糖がほぼ入ってない、生クリームで作ったフルーツサンドを少しずつ挟んでキャロットちゃんが食べ始める。
「ここで一息着いたら、一気に薬草を取りに行くぞ。二人とも大丈夫か?なんならここで待っててもいいんだぞ。」
「マッシュお兄様。私は、大丈夫ですわ。日頃、学校の鳥人や獣人のお友達と遊んでますもの。このくらい全然大丈夫ですわ。」
えぇー、キャロットちゃんが勇ましいわ。お姉ちゃん眩しくて目が潰れそう。私は、正直毎日そこまで体力を使ってないので、多分着いて行くのがやっとなんだよね。
山で体力不足で、足を引っ張るよりかは、ここで待って、最後に一緒に帰った方が、みんなにとっていい気はするけど………。
「私も少し休憩すれば大丈夫だよ。足手纏いになる様だったら置いてって大丈夫だし、私もお父様の為に頑張りたい。」
「アカネ、もし、登っている先で辛かったら言ってくれ。その時は僕がなんとかするから。」
「えぇ、マッシュ兄さん。その時はお願いしますわ。」
こんな時ティムがいてくれれば、ペガサスの姿になってビューンと飛んでいけるんだけど。あいにく、故郷で家族に捕まったみたいで帰ってこれないんだよね。
そんなこと言ってるから体力つかないんだよね。ははっ、もう少し体力つけなきゃ、いざという時に本当に足手纏いになっちゃうわ。
「さっお昼も食べたし、もう一踏ん張りするぞ。」
マッシュ兄さんの一声で、私達は、山に入って行った。
山道のない獣道を歩いていく。マッシュ兄さんは、なんでそんなにすらすらと地図を見ながら歩いて行けるのだろう?
目印なんて、そんなに見当たらないのに。わたしは、マッシュ兄さんの後を追いかけるだけで精一杯である。足元は、土と葉っぱで埋まっている為、足が埋まり、ふわふわとして、また少し滑りやすくなっているので、注意しながらあるかないと危険なんだよね。
これが平野育ちと山育ちの差なのだろうか?キャロットちゃんもマッシュ兄さんと同じく足を取られることなくすいすいと進んでいく。
「おっと」
ちょっと考え事をしていたら、足元が掬われ、バランスを崩してしまったが、後ろから
「お姉様大丈夫ですか。」
キャロットちゃんが支えてくれたので、転ぶこともなかった。
「うん、キャロットちゃんが支えてくれたおかげで大丈夫だよ。ありがと。」
なんとか二人にフォローしてもらいながら山道を進んできたんだけど……
「あった。あったよ。アカネ。ほらあそこに母さんが言ってた薬草が。」
マッシュ兄さんの指刺す方向には、切り立った崖とその棚に咲いている小さな花。あの花の葉っぱが今回手に入れるべきもの。
話には聞いていたものの、あの絶壁は私には登れない。鳥人なら、スーッと飛んでプチっと取って終わりなんだけどなー。
「マッシュ兄さん。お願いしますね。」
「あぁ、任せとけ。二人はここで待っててくれ。」
マッシュ兄さんがロッククライミングばりになにもない絶壁をゆっくりと上に上がって行く。分かる人には、手をつく場所や、足をかけてもいい場所が分かるみたいだけど、私にはさっぱり分からない。
「アカネお姉様。もしもの時に備えて、下で待機してましょう。」
「そうだね。」
荷物は、移動メインを考えてあまり持ってきていない。ローブも有れば命綱になったかもしれないけど、あいにく家には、該当する長さのものはなかったし。ちょっと薄手のシーツを持ってくるのがせいぜいだったんだよね。
クッション性や強度を考えれば毛布なんだけど、そのボリュームを持って移動は流石に難しいので断念した。
私とキャロットちゃんは、マッシュ兄さんが運んできた薄手のシーツを広げて下で広げて待ち構えようとした。
この時、中央から後ろにバックなんてしなければよかったかも。まさかそこにあんなものがあるなんて………
後ろに、一歩ずつ下がり、シーツが張るまで下がっていく。
何歩目か後ろに下がった時、足が地面を踏む感覚がなく、そのまま、バランスを崩してしまった。
「きゃっ」
気づいた時にはもう遅い。落ち葉で縦穴が隠されていたみたいだ。