風土病にはご用心2
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皆でお父様を寝室に運び、水で濡らしたタオルを額にあてた所で、お母様が手に書物を持ってやってきた。
「みんな、これを見て頂戴。」
お母様が広げた書籍に兄妹3人が囲む様にして集まる。
「これがお父さんが今罹っている病名よ。」
「えっと、モスクラテアート?」
なんだか、コーヒーが飲みたくなってくる病名だね。
「なになに、この病は、ふむふむ……。どうやら特殊な蚊を媒介にして、感染する病気ですね。ほとんど感染者から他の人間に感染することはない……か。ひとまずは安心だけど、これの症状は、感染部分が赤く腫れ上がり、高熱が1週間ほど続く。最悪の場合死に至る。」
そんなに危険な病気なの、確か地球でも蚊を媒体する病気でマラリアがあったと思うけど、あれも致死率が高いっていってた様な。この世界の蚊も侮れないね。って、そんなこと悠長に考えてる場合じゃない。お父様が、お父様が死ぬ?
「ねぇ、マッシュ兄様、なんとかならないんですの?」
文字を読み上げているマッシュ兄さんにキャロットちゃんが涙を浮かべながら、問いかける。
そうだ。そうだよ。死ぬと決まっている訳じゃない。本に載っている病気ならそれに対する薬や処置の方法がかかれている筈。
「ちょっと待て。対処法対処法はと………。あっこれだな。山頂付近に生えるモスクイラキ草を煎じて飲むと、症状が緩和するって書いてあるな。これが有れば父さんは助かるぞ。でもどこだ?近くの山にもあるのか?」
「マッシュあるわよ。うちから見える山にきっと生えてるわ。」
お母様がそう言った。悲しみを帯びた声ではなく、冷静な家を守る母親としての声だ。
お母様強い。
「母さん、なんで分かるの?」
「それはね。お母さんがここにお嫁に来ていくばかりの頃にお父さんのお父さん。お爺ちゃんがね感染したのよ。どうも年配の男の人が罹りやすい病気さね。私はここにきてから何十年も経つけど罹ったことないし、お父さんもこれが初めての感染になるわね。あの時は、お婆ちゃんが看病して、私とお父さんの弟さんと一緒に取りにいったわ。その図鑑通りの形の量が生えてるから、分かる筈よ。」
「母さんが取りに行った方が確実じゃないの?以前取った場所も形状も分かるんだろう?」
「母さんも行きたいとこだけど、父さんの世話があるからね。それにちょっと厳しいところにあるからね。今の私じゃ登るのは難しいわ。」
「えっ、母さんそんな危ない所に生えてるの?なら、母さんは無理だとしても鳥人や獣人の若人衆に手伝ってもらったら直ぐに取って来れそうだね。」
お母様が首を横にゆっくり振る。
「マッシュそれが無理なのよ。鳥人にも獣人にも、苦手な匂いなのと、触れたらかぶれるのよ。」
「それなら僕たちがとってくるよ。でも、そうなると僕たちも手袋を持って行かないとだね。」
「それが私達人間は、素手で触ってもかぶれないのよ。むしろ、素手で触ってかぶれたら、それを煎じたものも危ないじゃないの。」
確かに、素手でかぶれるなら、飲んだら喉とか口とかが腫れそう。
想像してしまうとあまりの痒さ、痛さに背筋が寒くなる。
口の中が腫れているから、きっと何を飲んでも痛いし、口に含むのも痛むと思うから、何も飲めないし、食べれもしない………
人は、水を長いこととらないと死ぬと聞くし、点滴などの医療設備がないこの世界だと、そんな状態にもなってしまったら、飢餓に喘ぎながら、何も出来ずにただただ苦しんで死ぬだけでは?
ちょっと待って、ということは、私達人間にとっては薬になるけど、亜人の鳥人や獣人にとっては毒で。その様な悪夢の状態になる可能性も高いってこと?
それなら、魔熊退治の時に知ってたら、労せずに倒せたんじゃ?日々の情報収集が大事だね。
「そう言われてみると、確かにその通りだね。分かった。母さん、すぐに僕が取りに行ってくるよ。」
「私も行きます」
「私も行きますわ。マッシュお兄様」
こういうピンチの時は、人手が多い方が良いから、私達もついて行くことにした。
「母さん、キャロットとアカネも連れて行くけど、大丈夫?」
「こっちは私一人いれば問題ないさね。道中危険な場所が多いから、怪我しなくてもいい様に厚手の服を着ていきなさい。今から行って夕方までには戻って来れるだろうから、暗くなる前に帰ってきなさい。1〜2日ならなんとかなるから、今日見つからなくても明日行けばいいよ。」
私達は、お母様に前の時に見つけた場所を地図にして書いてもらい、探検に必要なものを準備して近くの山へ出かけて行く。
お昼の準備、お弁当は、私の出番なので、キャロットちゃんとマッシュ兄さんが準備をしている間に手早くできるものを作ったんだよ。