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プロローグ


『鏡くん、重いんだよね』


そう言うリカにかける言葉もなく俺は呆然と立ち尽くした。

そんな俺を見てリカはふんっ、と鼻を鳴らしツカツカとヒールを鳴らし去っていってしまう。

俺は知っている。

リカが別れを切り出したのは浮気相手と上手くいっているからだと。元々遊び人だったリカにとって俺の存在は邪魔でしか無かったのだろう。だけど、それを知ってもなお俺はリカを振るという選択をしなかった。大好きだったんだ。

俺とリカの出会いは高校2年生。たまたま席替えで隣になった。


退屈な教師の話を聞き、休み時間も誰も喋るでもなくぼーっと窓の外を眺めていると後ろから声をかけられ振り向いた先に彼女はいた。

『私リカ!よろしくね!』

と眩しい笑顔で話しかけてくれた彼女を見た瞬間、天使だと思った。人生でこの子しかいらない。この子に人生の全てを捧げたい。本気でそう思えるほど彼女は眩しかった。2年生の文化祭で告白して付き合えた時本当に嬉しくて、思わずガッツポーズを取ってしまう。そんな俺を見てリカは最初の頃と変わらない笑顔を向けた。


付き合ってから2年ほどした大学1年生の頃からリカは変わり始めた。髪を派手に染め、服も露出の多いものを身につけるようになり、つるむ友達も不良と呼ばれるひとになった。


しばらく呆然としたあとフラフラとリカのあとを追いかける。ずっと大好きだった彼女との関係がこれで終わるのは耐えられなかったから。追いかけて、もう一度縋りつけばこの関係を維持できる、そう信じていたから。

歩き続けると、リカとリカの今の彼氏であろう男が和気あいあいと談笑している現場にたどり着いた。


「り、リカ...お願いだ...もう一度、もう一度だけ」


俺のこと好きになって


怪訝そうな顔でこちらに視線をやる男は金髪のドレッドヘアーに派手な柄シャツ。いかにもな感じだ。男は俺に近づきギロっと睨みつけてくる。タバコと酒の匂いで吐き気がする。


「は?誰お前。」

「きょ...!...り、りかのストーカー!ねぇ、まーくん、りかこの人にずっとストーカーされてて、家も知られてて...りか怖い」


そうリカが男に縋れば男はすぐに顔色を変え俺に詰め寄る。胸ぐらを捕まれ、壁に押し付けられ腹を殴られる。


「ぐっ...」

「おいお前どういうつもりだ!!!誰の女に手ぇ出してると思ってんだ!?あぁ!?」


抵抗する間もなく次から次へと腹やら顔やらを殴られ意識が朦朧とする。男の手が緩み俺は地面へと投げ出され、受身もまともに取れず蹲る。おえ、と血混じりの吐瀉物を吐き出しながらも俺はリカの名前を呼び続けた。


「りか、お願い...りか...!!」


こんな状況でも思いを伝えれば報われると思ったのだ。彼女がどうかは分からないが、俺はずっと、ずっと大好きだったから。少しでも彼女の気持ちが変われば、もしくは男がリカを諦めてくれたら、リカはまた俺に戻ってきてくれる。そんな願いを込めて。男はさらに腹を立て俺の髪を引っつかみ壁に勢いよくぶつけた。グワングワンと視界が揺れる。俺は壁にもたれ掛かるように崩れ落ちる。リカの方を見れば何やら焦った様子で男を引き止めていた。自分の心臓の音でよく聞き取れない。好きな子の声が上手くききとれないならこんな心臓要らないとまで思った。


顔に影ができそっと顔を上げると男の手には鉄パイプが握られておりそれを勢いよく振りかぶっていた。次の瞬間視界が真っ暗になった。



森本鏡。男に殴られ都内の路地裏にて死亡。享年23歳。


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