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裏路地を歩いていると前方から声がした。その声はひどく掠れていて、助けを求める声だった。前方を見てみる、青いペールにはまった人がいた。
暖かな春の日差し、嵐の過ぎ去った後の空。閉ざされた冬の寒さや荒れ狂う暴風雨の最中の閉塞感がそれらをより素晴らしいものとする。だが私にはなんとなく寒さや暴風の最中こそ心地よく感じる。そんなものだから部屋の隅や棚の間、そんなところに挟まるのが好きだ。そういって倉庫の隙間に挟まっていた。そして気づくと僕は壺に入っていた。
ペールの中というのはなかなか心地が良い。手足を縮こめな入っている。金閣や銀閣のひょうたんのように中に入っているわけではなく、体がすっぽりとはまり口から頭だけが出ているのだ。窮屈で狭くて良い。頭が出ているから呼吸も苦しくはない。一般的には心地よいとは言わないだろうがなかなかいいのだ。まあ夢だろう。そしてまた目を瞑った。
目を覚ますとまだペールに入っていた。流石にこのままというわけにもいかない。せめて手足だけでも出なければ。そう思いペールの内側から手を伸ばそうとする。だが出ない。仕方ないから助けを求めることにした。
恐ろしかった。うん。恐ろしかった。想像して見て欲しい。職場へ向かうために普段の道を歩いていたのだ。すると前方から助けを求める声が聞こえ、そちらに顔を上げるとペールに入った人がいるのだ。ペールとは青いプラスチックの入れ物でよく飲食店の生ゴミが入れられているやつだ。それに人がはまっているのだ。恐怖とは知らないものにこそ覚えるものという。理解できないもの、意味のわからないもの、そんなものこそが恐ろしいのだ。そしてそのペール男はその2つを満たしている。これに恐怖を覚えるなという方が無理なのだ。
無視して進むことにした。何に巻き込まれるかわからないのだから。
また無視された。これで10人目だ。私とて自分が変人であることは分かっている。とはいえこんなにも無視されるのか。人が困っているときにこそ手を差し伸べるべきではないか。




