悪役令嬢の義理の妹……じゃ無い方の妹
ざまぁが書きたいけどうまく書けない作者の悪あがき企画第2か3弾あたり。作者自身は書いててスッキリしちゃったんで、どれだけ読者の不評を買おうがもうどう直しようも多分ない。私はそんな作品傾向強めの作者です。
あまり深く考えず、お付き合いしてくださる方だけどうぞよろしくお願いします。
姉が婚約破棄されそうになっている。義妹を虐めたから。けど姉はやっていないと主張している。虐めたと主張しているのは婚約者で、証拠もあるらしい。どうやら義妹(私から見れば義姉)は姉の婚約者と想いあっていて、姉と婚約破棄が成立し次第婚約するらしい。
しかし決着のつかない話し合いとか罵り合いは苛烈を極め遂に裁判に発展。被告側が姉。原告側が義姉、姉の婚約者、両親に分かれ、遂に裁判で決着になったは良かったんですが、
「証人は前へ」
どうして私が双方から、証人として申請されるのか、不思議で仕方がないです。
どうしてこうなったんだっけ?と、陛下に前に出るように言われ渋々かつ静々と証言台に進みながら、私は先日の出来事を振り返りました。
*
「漁夫の利とか、棚からぼた餅って言葉があるじゃないですか。
……アレってどうなんでしょうね?
元々狙ってて、他の人が牽制し合っている間に掠め取るならまあ、欲しいのでしょうからいいですけど、別に欲しがっていなかった物が急に転がり込んできたら、誰だって困惑するし、場合によってはかなり迷惑だと思うんです。
誰にだって予定がありますし、人生設計ってものもあるんです」
侯爵家の一角。私が祖父母に誕生日に欲しい物を聞かれて温室と答えて手に入れた、温室というより庭園という私だけのプライベート空間で、私は優雅な午後を過ごしていました。…ほんの数十分前までは。
「つまり何が言いたいのかというと、私の事をろくに認識してもいなかったくせに、急に擦り寄ってきてその提案はあり得ないって話ですよ」
産まれてからここまで、顔を合わせて話したのなんて片手で足りる上に話したと言うより一方的に一言二言言われて終わりでしたからね。私をただ1番下の妹としか基本的あなた方認識してませんよね?
分かります?皆さん。と、私が目をやる先に居るのは、両親と姉の婚約者の親と友人。
さっき来たの。勝手に。呼んでないし入っていいとも言ってないのに。我が物顔でズカズカ入ってきて、ご褒美あげるから裁判で有利な発言してくれない?って。双方口々に。
先程の漁夫の利発言に、両親は何てこというんだと焦るわ叱るわですが、相手方の方はだよねえ、と同情的です。押し切れれば潰せるかも。
「そもそもですけど、…私の名前、知ってます?」
ぴしり、と空気が冷えました。まあ、相手方の方は顔を逸らしましたね。いいですよ別に。期待してませんし。
問題は、両親の方です。
「知ってます?」
ここに来る前、私の側を通りかかっておきながら私の後ろを歩いていた執事に私の所在を聞きましたよね?顔すらまともに覚えてないけど、名前言えますかね?
両親は焦りながらも勿論と答えます。へぇ。
「では、愛称ではなく本名をどうぞ」
「り、リリアーナ・フェリシェ・ラスライト…」
「…よく、言えましたね。どうしてそんなに自信が無さげなのですか?私の父親ですよね?」
一応。
「そ、そうだとも!自信がないわけがあるか!私はお前の父親!間違えるわけがなかろう!今のは少しお前が突拍子もない事を言い出すから驚いて「間違ってますけど?」…」
父親、撃沈。次。
「り、リリアちゃん、落ち着い「本名」…え、ええ。そうね。本名、…」
「時間切れ」
「そんな…!」
「時は金なりと言います。そもそも初対面の時に私はきちんと挨拶いたしました。お義母さま」
「で、でも…!」
「義理とはいえ娘の名前も言えない夫人って初めて見ました。ある意味感動してます」
義母、撃沈。よっしゃ。
この人たちが何をしにきたのかと言うと、裁判で証人になって欲しいそうです。何の?勿論姉2人が絡んでいる婚約破棄騒動が拗れて発展した裁判に、ですよ。
姉側が婚約者の親と友人。義姉側が両親。……変な組み合わせ!
居心地悪そうな婚約者親と友人。そりゃそうでしょうね。だって私も居心地悪いもの。
早く話を終わらせたくて、婚約者の両親側に話しかけました。この際もう身分差の不敬とかどうでもいいわ。姉、義姉、この両親含め随分な醜聞だし落ちた評判回復する気もう無いし出来る気しないし、失うものはもう私の人生くらい。だったら思ったことを今までの不満含めてぶつけるまでよ。
「で?何を証言しろと」
「も、勿論お前の優しい姉、アリアをレミリアが虐めていた事を証言するんだ!」
「黙れ。私は姉の婚約者の親に聞いてる」
あと、アリアは義姉だ。実の姉じゃねえ。ついでにいつでもビクついてろくに話した事もましてや優しくされたと思うほど接した事ないし、この間学園の休暇で久しぶりに帰ってきた時に、私を見かけてあの子新しい使用人?って聞いてたの、忘れてないからな。
「お父様になんて事を言うの!?特に特徴も可愛げもない貴女をここまで育てて来たでしょう!?」
「貴女がこの人を母から寝取って以降に産まれた私の顔も見にこなかった人に対して、言葉で済ませているのですから優しい方では?」
両親は再度黙った。よろしい。何も話さなければ私だって何も言わない。ついでにこの温室から出ていってくれれば完璧なんですけど。
「あー…。その、此方としては、君の姉…レミリア嬢が無実だという事は知っているんだ。しかし、証拠を示してもでっち上げだと愚息が聞かなくてね」
本当に愚息だな。オイ。
「言いたい事は分かる。そこで君に証言をして欲しいんだ。紅茶に毒花を入れて殺そうとしたという疑惑について。レミリア嬢は自ら花を育てて茶葉に混ぜてアリア嬢を殺そうとしたと言う事なんだが、そんな時間も、育てる場所も無かったと言う事を君は把握しているだろう?」
「…まあ、そうですね。ですが私は一応身内ですし、証言しても無効なのでは?」
今度は婚約者の友人が答えました。この方、姉の婚約者の同級生よね。確か。妙に距離の詰めかたが巧くて、令嬢達が浮き足立ってた。
「一般的にはね。しかし、君は生徒会役員会計で、お金と物の動きを把握している。校内の見回りも他の役員に代わって粛々と行っているというし、生徒達からの信頼もある優秀な人物だ。証言にはうってつけだと思うよ。…この様子を見るに、ご家族とは縁が薄いようだし」
チラリ、と見られた両親が羞恥を浮かべて俯きました。
うん。確かに事実を述べるのは構わないけど。
「私、ただあった事だけ話しますよ。どっちつかずだし、どっちにも有益でどっちにも不利な発言をするかもしれません」
「構わないよ」
即答したのは婚約者の友人だけ。婚約者の親は戸惑ってるけどいいのかな。というか真っ直ぐ見つめすぎ。
「……ところで双方、どう決着がつく事をお望みで?」
「勿論レミリアは婚約破棄をして成立後、反省をする意味も含めて修道院へ送り、アリアと王子の婚約を進めるつもりだ!」
ぱっと顔を上げて両親が水を得た魚のように口を開きました。しかしあまりの内容に私の口も回る回る。
「馬鹿ですか?姉と婚約してるくせに妹に手を出した男も男ですけど、姉の婚約者に手を出す貴族令嬢なんて醜聞もいいところですよ。それを咎めもしないで寧ろ乗り気な親とか気が狂っているとしか思えません。姉は姉で母の二の舞ですよ。先人から何も学んでいないじゃないですか」
だからツンデレも大概にしろと、いつも婚約者と上手くいかないって嘆きに来るたびに言っておいたのに。
「ここまで話が大きくなってしまった以上、婚約破棄には発展するでしょうが、だからって差し替えてはい終わりになんて出来るわけ無いでしょう。普通に考えて他の家から大反対。王家の威信も何もないです。王子にしてもそのまま王子でいられるかどうかというところでしょう。一応何年も貴族しているのにその程度の事も理解していないとは。半分とはいえ血が繋がっているのが情けない」
しまった。薄々気づいているとは思いつつも、折角伏せてたのに。婚約者。思わず口が滑りました。……私がここまで話すとは知らなかったのか、陛下は驚いてますし、両親は内容を理解しきれないのか戸惑うだけで言葉もない。…おいそこ。友人枠。何がそんなにおかしいんだ。もういいや。思えばこの人、前から私のいく先々に現れては勝手に私の運んでいる荷物を運んで行ったり、見回りも1人の時は手伝ってくれたりして、少し絆されかけつつも何のつもりですかと質問したら、私が面白いからとかで付き纏っていただけだった。気にするだけ無駄。変人的な思考回路理解できない。私も周りから見ると変人らしいけど!
「…陛下におかれましてはどうお考えで?」
「裁判で身の潔白を証明後、レミリア嬢が赦してくださるなら愚息との婚約を継続…する予定だったが、君がそこまで言うということは、潔白を証明出来たとしても、婚約破棄は免れないだろう。愚息は王籍から除外して、監視付きで離宮に飛ばす。もう1人を繰り上げて継がせる。レミリア嬢が望むのであれば、婚約者に打診しよう。彼女に非はほぼない」
全くないって言わないあたりが流石だと思うの、捻くれている私だけ?
「お姉様が望まなければ?」
「レミリア嬢の保護を含め、今後を保証した上で他の望みを可能な限りなんでも聞こう」
…まあ、いいか。私にはもうあんまり関係ない話だし。
「証人になってくれたら僕が君にご褒美あげるよ?だからお願い、ね?_____嬢」
……耳元で名前呼ばないでください。
*
「証人は、前へ」
現実逃避がてら振り返ってみたけど、やっぱり碌でもない。私、本当にただ巻き込まれただけじゃない。人生設計めちゃくちゃ。卒業後は目立たずに家から出て名付け親の祖父母のいる田舎でゆっくりする筈だったのに。
こんな風に表に連れ出されたら、地味に過ごすのも大変じゃない。
それもこれも多分、あの貴賓席で唯一純粋にこの裁判を見物として楽しんでいる男の仕業だと証拠はないけど確信しているのが悔しい。
「証人、今からする質問に対し、嘘偽りなく答えよ」
「はい。建国王に誓って」
神に誓って、みたいなものだから気にしないで。裁判では普通の言葉。…建国王が立派じゃなかったら、神に誓ってって言ってたかも。
「レミリア・ラスライトは学園内に毒花を持ち込み、それを混ぜた紅茶を義妹であるアリア・ラスライトに飲ませようとしたという訴えがあるが、これについて何か知っていることがあれば述べよ」
「……レミリア姉様が毒花を持ち込んだかどうかについては存じませんが、花自体を部屋に持ち込んでいたのは事実です」
すると原告側がほらなとかやっぱりだとか騒ぎ出す。
「傍聴人は静「発言を許されていないのに口を開くとは随分マナーのなっていない猿が混じっているようですね。あら失礼。今私が話を続けようとしたのに余計な野次で邪魔したのがまさか殿下とは露知らず…」…原告達も、静かに。今は証人喚問中だ」
静かにと言ってるのに、貴賓席から笑い声が聞こえる。誰か、そばに仕えている方。口を塞いで差し上げて。
「続きを」
「…はい。そもそも、その花を持ち込んだ理由は私の案です」
何!と原告がまた騒ごうとしたので視線で黙らせましたけど何か?続きがあるんだけど?と目で強く訴えたらビビって下がっていったんだから問題ないでしょ。
「お姉様が口下手なうえに、気持ちを伝えるのがド下手な為に婚約者と上手くいかず、夜も眠れないほどと聞いたので、リラックス効果のあるポプリをお勧め致しました。材料に花が含まれておりまして、その花は紅茶に入れて飲むと鎮静作用もございますとお伝えしました。きちんと検品を受けて持ち込まれております。花と一緒に他の材料も。リストも提出致しました。毒を含んでいない事は私や検品をした騎士達が確認しております」
陛下も事前に確認しているため、軽く頷く。
「隠して持ち込んだか、騎士を買収したのではないか!?」
喧嘩を売られました。残念ながら私は買って倍以上にして返す主義です。しかしそんな事は見抜かれているらしく、
「その発言は流石にまずいね。なによりも彼らに信頼故に応えてもらっている王族が、それを言っちゃいけない。冗談でも騎士の仕事を疑うなんて、王子失格だよ」
と、私より先に貴賓席の方が買ってしまった。なんて事を。折角戦友(日々校内を共に見回り、怪しい者を検挙してきた騎士)達の鬱憤を彼らに代わって直接ぶつけられると思っていたのに!
「ではあの毒花入りの紅茶は何だと言うのだ!」
「そ、…そうですよ!り、リリアンさん!私は間違いなくお姉様からそれを「それを?」…も、貰って…」
「お姉様はそれを部屋で混ぜて、次のお茶会の際に持っていこうとしていたはず。お姉様の知らぬ間に部屋の鍵のかかった棚から貰えたの?凄いですね。お姉様の部屋に勝手に入った上に物を持ち出していい許可を、実の妹である私ですら戴いたことなどございませんけど?」
「ひ、人伝、だったのよ…!」
勿論レミリア姉様は否定しています。分かっているので、そんなに首を振らないでください。淑女でしょ?
「具体的には何方から?」
「あ、アウグシア伯爵令嬢よ!お姉様の取り巻きの!」
「取り巻きだなんて…。どうしてその様な偏見に塗れた酷い言い方をするんですか?お姉様のお友達を自称している方々、と言ってください。お陰様でもう救いようもなくなっていますが、当家の品位が疑われます」
「なッ……貴女が聞いたから答えてあげたんじゃない!」
「ええ。ですが不快なのでもうお黙りください」
陛下から原告は黙るようにと言葉が出て、義姉は悔しそうに口をつぐみました。丁度傍聴席からの嘲笑も聞こえました。
「それと、私の名前を間違えて覚えておいでですよ。私の事を使用人だと思って気にしていなかった為でしょうが……大変不快なので2度と話しかけないでくださいね」
嘲笑どころの話ではないですが、どうでもいいです。醜聞がどうのこうのいっていられる状況ではもう無いですし、そもそも私は更にコイツらの醜聞広めるためにいるようなものですから。
「…アウグシア伯爵令嬢といえば…、確かこの間珍しい植物を観賞用にとお部屋に飾っておいででしたね。黄色の花の」
「…何か関係ある話なのか?」
「いえ、小耳に挟んだだけです。紅茶に入れて使うだとか、姉の名前で義姉に渡せば姉のせいに出来るとか?多少苦しむだろうがどうせ甲斐甲斐しく王子に世話してもらえるのだろうからむしろ幸せだろうとか。
放課後の渡り廊下の下階で偶々友人たちと話していたら、窓が開いていたせいか上級生の話が聞こえてきまして。アウグシア伯爵令嬢は言葉の終わりが地方の特徴的な撥音で終わりますので、そう言っていたのは彼女ではないか、という憶測もございますが」
にやにやとして物見に来ていたアウグシア伯爵令嬢はじめ自称お友達の方々がこそこそ傍聴席から離れていったようです。陛下が目配せすると何人か騎士が追っていきました。お部屋の辺りで毒花見つかるかもしれませんね。
「…では次に、原告からの質問だ。
レミリア嬢は主催でありながら、アリア嬢も参加している茶会やパーティーにおいて何度か姿を消す事があり、その時必ずと言っていいほどアリア嬢が何者かによってドレスを汚されたり、誰かに突き飛ばされたりという事故が多発していたという。同様にいや、それ以上に終始姿を見せていなかった君は何か知っているのではないか?と…言う事だが」
成る程。私が味方にならないと先日確信したので、排除の方向に動きましたか。私を姉の共犯として槍玉に上げようとはいい度胸です。でもいいんですかね?これ言っちゃうと、余計貴方方に不利になる可能性高いのに。まあ、いっか。だって私、建国王に誓いもたてましたし。
「知ってますよ」
今度はレミリアお姉様が、やめてと慌て始めた。何を今更。義姉は言いなさいと私に言った。
「そちらの同じ家に所属しているだけの赤の他人令嬢の言う事を聞く義理はありませんが、私は誓いましたので申し上げます。
レミリア姉様は覚悟をお決めくださいませ。そもそもお姉様のそういう所がここまで拗れる原因になった事は私も…貴賓席の方からも再三言われた事でしょう」
レミリア姉様は真っ赤な顔で大人しく被告人席へ着席。
「お姉様が主催の、と言う事は、侯爵家の庭か学園のサロンでのパーティーですね。お姉様が途中姿を消していたのは簡単な話で、基本的に内気で消極的であがり症な癖に妙にプライドが高いせいで、誰かと会話しても傲慢な態度をとってしまい、それが恥ずかしいしそのせいで人が離れていくのが悲しいしで耐えられなくて私に愚痴りに…こほん。相談に来ていたからです。
当家の時は私の部屋、学園の時は生徒会室ですね。どちらも私の友人たちも一緒でしたから、証言はすぐにとれますよ」
「「「……え?」」」
え?って何?え?がえ?ですけど。
「だから、レミリアお姉様は本来王太子妃に向かない人材なんですよ。耐えてたのは殿下が好きでそばに居たかったが為の涙ぐましい努力の末、実に高慢な令嬢に擬態できるようになったから。それだけです。その擬態すら殿下から露骨に嫌われ始めてから剥がれ気味で、心休まる時間もなく、リラックス効果のあるものを私が用意したり勧めるほどでしたから」
「リリアーシュ、も…もうやめてぇえ…!」
レミリア姉様が絞り出すように声を上げたので、黙ることにしました。
極度のツンデレですこの人。デレが出るほど殿下が歩み寄らなかったので、ツンしか見ていなかったようですが。というか、やっと正解でましたよ。私の名前。予想が当たった方が居ましたらおめでとうございます。特に景品はありません。
「で、…では何故貴様…!…あー…えっと、…すみませんでした。なぜ妹君は参加していなかったのかお聞かせ願いたいのだが?」
貴様だと?と視線を向ければ途端に大人しくなりました。はい、良い子ですねー。
「そんなの生徒会の業務が滞り過ぎて休日返上しなくては手が回らなくなったからに決まっているでしょう。どこの誰とは言いませんが、裁量権を持っているはずのトップ2名が揃って放課後にどこぞの令嬢を校内案内やら、観劇に誘う為外出続き、昼休憩はその令嬢との昼食の為に業務に手をつけられず、かと言って早朝は迎えにいって共に登校せねば。誰に襲われるかわからない!自分が守らねば!などと宣った結果、肩書きだけで仕事は一切手をつけられず!私はただの会計兼校内警備の方との連携係でしたのに、会計業務以外にも書類整理が加わり、授業もまだ1学年ですから多く、平日は手をつけられない為に休日を返上するしか無かったのです。私がそちらの令嬢を闇討ちしていたとお思いなら、今までの私の苦労を返していただきたいものです。私にそんな暇があったなら、今頃学園の生徒自治は崩れています」
今は多少落ち着いたため、先日はやっとの休みを満喫していたというのに邪魔が入ったんです。日頃の鬱憤もありましたので思わず話し過ぎてしまいました。
どうやら双方にダメージを与えたらしく、原告も被告人も黙り込んで顔を上げません。勝った!
「証人、ご苦労。下がってよい」
「失礼致しました」
ああ清々しい!
*
あの裁判後、お姉様は婚約破棄をしたものの、あの日私にツンデレだと皆さんの前で暴露されて取り乱す姉の姿に心を打たれた中々良い性格をしている騎士からアプローチされ、結婚しました。おめでとうございまーす。
私も家から出て、隣国の王宮内図書館の司書をしています。こちらの国に住んでいる祖父母が現在の私の家族です。
「やあ、リリアーシュ。仕事は捗っているかな?」
「…はい殿下。おかげさまで、先程までは」
殿下が自ら本を探しに来ると、他の司書の先輩方が気を張り過ぎてわたしの仕事までやってしまうので直ぐに帰って欲しいです。
……裁判の日、貴賓席で笑ったり茶々入れてきたこの友人枠……隣国から留学中だった王子殿下からの"ご褒美"により、私は卒業を待たずに隣国へ移住しました。騒動により狂ってしまった人生設計でしたが、
「うちの図書館司書に募集があるから、試験を受けてみなよ」
という、王子からの推薦枠によって受験資格を得て、猛勉強の末試験に受かって無事、隣国で手に職を得たのです。
ご褒美の内容というのは簡単で、私は生まれた状況があまり良くなく、名付け親でもある祖父母が私を引き取ってくれるお約束でした。お姉様については王子の婚約者だったので、隣国に連れて行くわけにはいかず、私だけ。しかし、そこで何を思ったのかあの伯爵、私が成人になるまではこちらの国に留め置くことにしたんです。何かに使えると思ったんでしょうか。誰があんたらのために働くか。
そんな訳で、さっさとこの国を出る日を一日千秋の思いで、柵が出来てもこまるので地味に目立たず生きていた訳ですが、そんな中で姉たちの騒動が起こってしまった。
私、この国とこの家にあと2年は縛られてるのに。このまま家にお咎めあったら私もただじゃ済まない。いい迷惑にも程がある。
そこで、この騒動の決着が付く際に、こんな家に家族たちに不利な発言をした私を置いておくのは危険だと進言してもらい、期限を撤廃、直ぐに祖父母の所へ行けるように陛下に取り計らってもらいました。正式な契約だろうが書面に認めた約束だろうが関係ないの。陛下の言うことは絶対だから。そう言う制度なの。
……あの家から離れたはいいけど、今度はこの愉快犯に手綱握られてる事に不安がない訳じゃないけどね。
「…あの証言でご満足頂けました?」
「うん。やっぱり君を証人に選んで正解だったよ」
「…楽しかったようで、なによりです?」
「所で何で証言してくれる気になったの?」
「………ご褒美くれるっていわれたので!」
「…怪しいなぁ」
「それより殿下はご褒美を2つもくれた訳ですけど、具体的に私に何かして欲しい事があっての事だったのでは?」
「ん?んー…まあ、急がないし。僕にも利がなかったわけでもないよ。君をあの国から引き剥がして僕のテリトリー内に入れることは出来たわけだし」
あれだけ仕事できる人を逃す手はないよねと上機嫌。労働力か。納得。
「……外堀は埋めていけば良いし」
「何か言いました?」
「んーん!好きな子のために働いただけって言ったんだよ」
「ふふふ。ご冗談を」
何故私が証言台に立ったのか。皆様には教えますから秘密でよろしくお願いします。
それは単純な理由です。この人が私の名前を間違えなかったからです。
レミリアお姉様も名前を間違えなかったから言う事聞いてあげたでしょ?それと同じ。
私、この名前が気に入ってるんです。幼い頃からあまり顧みられるような事のなかった私が、唯一縋れる祖父母との繋がりでしたから。いつか隣国へいくんだという私の希望の象徴を呼んでもらえるのが好きでした。それを呼ばれないあの家は、ただの冷たい檻でした。
そこから出るきっかけをくれたのは、結局あの騒動と、この殿下が呼んでくれたことなので多少の感謝はしています。
私はリリアーシュ。
ロマンス小説のような泥沼展開を見せてくれた令嬢とその令嬢の義妹の妹。小説にはきっと出てこない脇役も、きちんと命がございます。だからといって主要な登場人物になりたいわけではないけど、名前くらいは呼んで欲しい。
「リリアーシュ」
「はい?」
「名前を呼ばれて嬉しそうに笑う君は、誰よりも可愛らしいと僕は思うよ」
なんとなく、くすぐったくて。思わずお礼を口にしながら、手綱を握っているのがこの人ならば、悪くはないかもと思って笑った。
読了ありがとうございました。
プチ告知です。
8月28日に『身に覚えのない理由で婚約破棄されましたけれど、仮面の下が醜いだなんて、一体誰が言ったのかしら?』の最新話が配信された模様です。ご興味ある方いらっしゃいましたらよろしくお願いいたします。