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よろしくお願いします
「はるか先生」
子どもたちは皆帰り 残った職員は遅番の二人
戸締りの確認をして 帰り準備をしていた時に声をかけられた
初めて声をかけられた訳ではないが 何故かどきりとした
「少し相談したいことがありまして
この後食事に行きませんか?」
行事後の打ち上げに全員で参加する以外に 個人的に食事に行くなんて
ましてや誘われる事なんて 今まで無かったのでびっくりしてしまった
少し目が泳いだのが自分でも分かる
ほんの数秒沈黙があった
「用事でもありますか?」
探るように問いかけられ
反射的に答えてしまった
「大丈夫です」
高山保育園は
給食・事務・保育士など全ての職員が女性
その中でたった一人の男性職員に 二人きりで食事に誘われたら
なんだか意識してしまうのはしょうがないのではないだろうか
一緒に園の門を出て施錠しながら ちらりと顔を見る
私は165センチと女性の中では高めの身長
その私が少し見上げるくらいだから 180センチ近くあるのではないだろうか
背は高いが 威圧的に感じないのは この優しそうな顔つきのおかげだろう
「せんせい わんわん みたい」
子どもたちにもよく言われている
どこで食事をしようか?
相談しながら 二人並んで歩く
駅までの道に 美味しそうなビストロや居酒屋もあるが
今日はまだ週の真ん中 水曜日
お酒は遠慮したいので
老舗の中華屋さんに入ることにした
少しお高めのお店がだ
小さい子連れには少々敷居が高いので
保護者に遭う確率は低いという点が かなりの評価ができる
園以外で保護者に遭うと なんだか気まずい
明るい入り口から奥まった個室へと店員の後をついていく
大きな個室の横を通り
少人数用の個室の一部屋へと案内される
この中華屋の席はほぼ個室になっており
ゆっくり話をしたい時にはオススメの店だ
エビチリ 酢豚 たまごスープ チャーハン バンバンジー
まだ頼みたかったが 二人での来店 食べきれないので 今回は我慢
ここのエビチリは絶品!
大きなエビに絶妙な厚さの衣 あまり辛くない甘辛な味付け
どれを取っても美味しいとしか言えない
園児たちの話をしながら 食事を続ける
ふと 久しぶりに人と食事をしたことに気づく
あれ?
いくら一人暮らしといえ 休日に実家に帰ったり 友達と会ったり
するのに 久しぶに感じることに違和感がある
あれ?
保育園以外で人と一緒にいること自体が久しぶり?
なんとも言えない不快感
考えてはいけないような気持ち
なんだろうこれ
「はるか先生 どうかしましたか?」
急に喋らなくなった はるかに不思議そうに話しかける
なんでもないと 答えながらも もやもやとする心に気を取られる
小・中・高校・短大と友達は多い方で
今でも小学校の時の友達とは 近況を話すためによく集まっている
いや・・・集まっていた
短大の卒業後 就職前に お祝いでみんなで集まって それぞれの進路について
話した
「はるかは保育士さんか」
小学校の時から憧れていた職につけたはるかに皆は 頑張った!と褒めてくれた
夢を持続し 叶える大変さをみな実感していたのだ
4年生大学の子はもう少し先の話を 高校出て就職した子は現状を語りあった
次は はるかの仕事が落ち着いた頃に集まろう
夏くらいかな?なんて言っていたのに
その年の夏にみんなと会うことはなかった
その次の夏も・・・・その次の次の夏も・・・・
今日まで会っていない
その事に今気づいた事に愕然とする
なんで今まで考えなかったんだろうか?
なんで会いたいと思わなかったんだろうか?
わからない