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神々の愛し子は転生王子  作者: ヤッペ丸
第一章 王宮編
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第四話 魔族の少女

 現れた女の子を見て、僕はその美しさに息を飲んだ。

 サラサラと綺麗な長い銀髪、まつげはこれでもかと長く、雪のように色白の肌、さくらんぼのように紅く綺麗な形をしたうる艶唇、鼻も長く形も整っていて、身長は僕より少し高い。というか、手足がスラッとしていてスタイルもいい。なんというか、モデルっぽい。

 彼女はまさに世でいう、『絶世の美女』と呼ぶに相応しい容姿だ。

 あまりの美しい容姿に見惚れていたら、女性はゆっくりと薄そうな瞼を開いた。

 瞳も美しかった。淡いガラス玉のような綺麗な赤眼、それは全てを魅了する事もできる程で、思わず両手を口に当ててしまった。

 あまりの綺麗さに、触れようと手を伸ばすと、女性は自分に向けて伸ばされた手–––––––つまり、僕の手を叩いた。特に痛くはない、しかし代わりに目の前の彼女に僕は目を見開いた。

 彼女の瞳に映る自分が見えた。うん、いつもの僕だ。だがしかしよく見ると、彼女の瞳は揺れて見えた。そして瞳をよく見ると、その奥に映っている自分が、何かを求めているような姿に見えていた。つまり、彼女から見た僕は、何かを物欲しげに求む男に見えたって事かもしれない。

 それにしても、酷く怯えているようだ。手足も震えていて、今にも悲鳴をあげてその場から逃げでもおかしくないくらいに、泣きそうな程顔が歪んでいた。


「あ、あのお……」

『ANTDR』


 –––––––ん?今…なんて言ったんだ。


『KKWDKNN、MSK…WTS、IKKETN?SNNNIYD!IMSGWTSWKRST、ONGI!』

 

 聞いた事のない言語に、頭が混乱した。この五年真面目に勉強してきた、知らない国の言葉や文字、文化、国の為になる様にと様々な事を学んだ。しかし彼女の発する言葉は、一体どこの国のものなのかさっぱりわからない。

 それにしてもなんか、物凄く訴えられている気がするけど、本当に何を言っているのかさっぱりだ。まぁ、いきなり知らない所に来て混乱するよね、僕だったら物凄く動揺して混乱してさけびまわっているよ。

 そういえばよく見るとこの子、耳が長くてとんがっている。ネットで見た事あるけどこれは、エルフ……?ではないな、エルフよりとんがっているからこの耳はなんというか……魔族。

 その時、ドアがバァアンと激しい音を立てて開かれた。入ってきたのは必死な形相をした父上とエリザベート姉さんだ。


「ヴェインッ!何があった!?」

「ヴェイン、怪我はありませんか?」

「父上っ、エリザベート姉さんっ!?」


 エリザベート姉さんは、ウィルティーニ兄さんの次に生まれ、一歳年下で兄妹の中で長女であり、隣国の王太子と婚約を結んでいるサウィスティ王国女性の中で一番有能な王女である。

 勉学は殆どを理解していて、解けない問題がないほどの頭脳を持つ秀才、剣術の代わりに体術に長けていて、サウィスティ王国の将軍の次に運動神経が良く、音楽に関しては国一番の音楽家よりも美しい音色を奏で、美声で歌を歌う。まさに女性の中で国一番の努力家である。

 容姿は母親譲りの凛とした顔立ちと姿勢、白髪碧眼と、少し神秘的な姿であり、それにその姿にあった性格でもある。優しいだけでなく厳しくあり、国を支える者として全てを受け入れられそうなほど大きな器を持っている。

 今そんな姉さんと父上は、目の前にいる少女を見て、驚きを見せた瞬間、険しい表情へと変わる。


「ヴェイン…そこにいるのは魔族!?何故ここに魔族が……」

「ま、まさか…ヴェインが神々の愛し子と知って連れ去りに来たのか!近衛兵、抜刀!」


 父上の近衛とエリザベート姉さんの近衛達が剣を抜き、女の子に剣を向けた。女の子は「ヒッ」と声を上げ、恐怖に体を支配されたのか、足がすくんでいるように見えた。

 僕のせいで、何もしていないのにいきなり召喚された挙句、剣を向けられて、怖くなるのも仕方がない。

 唇を強く噛み締め、女の子の前に立ち、両腕を広げて必死に訴える。


「み、皆さん、剣を収めてください!」

「な、何を……。そこを退くんだヴェイン!お前の身に何かあったら–––––––––––」

「この子を呼んだのは、僕なんです!」


 その瞬間、空気が一気に氷河の如く冷たく感じた。その理由は、エリザベート姉さんからの冷たい冷たい視線であった。エリザベート姉さんは、僕ら兄弟の中で、一番冷静であり、そして一番迫力のある姉さんでもある。

 エリザベート姉さんは近衛兵達の間を通ってゆっくり僕に歩み寄り、笑っていない笑みを見せながら、ガッと僕の肩を掴んだ。ちょっと、地味に痛い。


「どう言う事か、きちんと説明できるよね?」

「は、はぁい……」


 僕はここに至るまでの出来事を話した。おとぎ話にイラつき、会えないかなとふと彼女の名前を呼んだ瞬間に召喚書が反応して、魔法陣から彼女が現れたと、全て洗いざらい話した。話を聞いている間の父上やエリザベート姉さん、近衛兵達は信じられなさそうな顔で話を聞いていた。特に、女の子は大きく目を見開き、ジッと僕を見ていた。

 僕が全てを話し終えたら、最後まで聞いていたみんなは、眉間に皺を寄せ頭を悩ませていた。いくら神々の愛し子であろうと、僕が魔族を呼び寄せたんだ、どうするべきか悩むだろう。僕もどうしようかと苦笑い浮かべて、盛大な溜息を吐く。


『A…AN……』


 女の子はフラフラとした足取りで、僕に歩み寄ろうとしたが、近衛兵が僕の前に立ち、女の子はビクッと怯えて、そこから動こうとしなくなった。

 近衛兵を下がらせ、僕が歩み寄った。


「ごめんね、怖かったよね?僕のせいで、こんな目にあって…」

『K、KNSNIDKDSI』


 なんとなくだけど、「気にしないで」って言ってくれた気がした。本当にそんな気だから、なんと言ったのかはわからない。言語理解はまだまだレベル1だから、理解するにはもう少し先になるかな。でも彼女は、僕らの言葉を理解している様な気がする、一部の魔族のは……人間の言葉がわかるのかな?

 父上は額に指を当てながら、僕と彼女の顔を見る。


「あぁ…その、ヴェインよ。お前が言っていた召喚書とは、一体どう言うものなのか、詳しく説明してくれないか?」

「は、はい。この召喚書とは、自分が想像し、その想像したものの名前を口にしたら、その本に絵と文字が浮き上がって、召喚が……あぁ、あと、召喚するのに、血が必要だと思います」


 あの時、魔法陣になんの反応もなかったけど、僕の血が本についた事で召喚魔法が発動したような気がするんだよね。だから、ほんの一滴でも血液は必要だと思う。それが召喚するのに必要な事だ…と、思う。

 実のところ、″あれこれこうすれば?″みたいなのかもしれないけれど、今のところはこれ以外考えられない。そもそも、僕の前世の記憶が確かなら、召喚をするのに必要な儀式とか、生贄が必要だった様な……。まぁ、それぞれの作品によっては、召喚方法が違うのかもしれない、僕のはたまたま、血を使用して発動可能にするって事なのだろう。

 さっきから静かだな~と、父上達の方を見ると、皆涙をうるうるさせ、父上とエリザベート姉さんが抱きしめてきた。


「なんと恐ろしいんだ、その召喚書とは!!」

「やめなさいっ!今すぐにでもそれを使用するのやめなさいっ!!」

「ええ?!」

「毎回召喚するのに血が必要なら、その血がなくなっていつか倒れてしまうぞっ!お前は神々の愛し子であると同時に、我々の家族なんだぞ!そんな危ないもの、今すぐにでも燃やすんだ!」


 そうゆう事ね。でも、そんな毎回大量に血を使う訳じゃないし、心配はいらないと思うけど、皆んな優しいから、心配してくれるんだよね。本当に、皆んな暖かい……、本当、前世とは大違いだな。


「大丈夫ですよ、父上、エリザベート姉さん。そんなに大量に血を使いませんよ。指を少し切って、そこから出る少ない血を使うだけですよ」

「で、でも傷が残るではないか」

「平気です。回復魔法があれば、こんな傷治りますよ」


 僕は自分の親指をガッと歯で噛み、傷を作った。皆んな呆然としてそのまま見ていて、僕はその親指に魔力を込めて–––––。


治癒(ヒーリング)


 さっき親指に出来ていた傷がみるみる塞がり、何もなかったように傷が消えた。治癒っつーか、回復魔法は今日初めて使ったけど、風魔法より案外使いやすいかもしれない。風魔法は、扱いが難しいけど、もしかすると僕は、回復魔法の方が向いているのかもしれない。

 これも前世の記憶だけだ、治癒魔法と回復魔法は本当は違う魔法。けど僕は、ミュウさん達に頼んで、両方使える様にしてもらった。本当、魔法って何から何まで便利だな~~。

 ふと父上達の方を見ると、みんな信じられないものを見ていたような、口をこれでもかとあんぐり開けていて、近衛の1人は、口から魂が抜けていた。

 振り返れば、女の子も両手で口を押さえていて、震えが半端なかった。


「えっと…僕何かした?」

「き、奇跡だ…」

「え?」

「お前…無詠唱の上に、一瞬で傷を直した。これも、愛し子だから出来ることなのか?!」


 –––––––ん?何言ってるんだ。無詠唱って常識な事じゃないのかな。ほらだって、ラノベとかで、勇者とか魔導師とか、普通に無詠唱だし、もしかして……ここではそれが常識ではないって事。

 やっちまった––––––––、と僕は片手で顔を覆う。異世界ラノベを色々見てきて、少し異世界に対する概念のネジが少し緩かった。

 少女は今も驚いた顔をしているが、頬をほんの少し赤くして目を潤んでいた。


『A…ANT、KMGMNITSGNN?S……スゴイ、ネ」


 さっきまで聞き取れなかった言葉が、最後の方で聞き取れた。もしかして、言語理解のレベルが上がったのかな。


「え、えっと僕の言葉は…わかる?」

「エ、エト、ナン、トナク、ワ、カル」


 少し片言だけど、きちんと理解はしてくれているようだ。

 すると父上が女の子に歩み寄り、同じ目線になるくらいまでしゃがむ。女の子は少しだけ警戒を解いたのか、ビクッとはするが、逃げようとはしなかった。


「我が息子のせいで、人が多いところにしょう…かん?してしまい、申し訳ない。我はサウィスティ国の王、レゲッタ・サウィスティだ。君のこと、我が王家が責任持って保護しよう。君の名前は?」

「ナマ、エ…………。イ、イイタ、ク、ナイ。コノ、ナマ、エヲイ、タラ、キット、オビエ、ル。ナ、マエ、スキニ、ヨン、デ」

「え、えっと……、なんと言っているんだ?」


 この子の言葉を理解しているのは、僕だけか?

 魔族にとって、人族に真名を呼ばれるのが嫌なのかな。でも、無理に呼ばせるのはなんだし、それに責任は僕があるからなぁ。やっぱり、名前をつけるのは––––––––僕っぽいですね、はい。呼んだ張本人ですからね、はい。

 名前をつけるなら、やっぱり容姿にあった方がいいよね。とすると、銀髪赤眼、そのスタイルの良さからだと……ダメだ。昔から…というか、前世からネーミングセンスが超絶悪いんだよね。

 小学生の時、塾の帰りで見つけた捨て犬につけた名前は–––––『ゴルザルス』。クラスメイトにも言ったら、ネーミングセンスが無いな、とディスられた。犬にもその名前を呼んだら、明らかに嫌がっていた。

 自分のネーミングセンスの無さは自覚している。だからこそ、この子に気に入ってもらえるかどうか……不安要素しかない。どうしよかと、物凄く冷や汗を掻く。

 頭を悩ませながらウロウロしていたら、本棚に激突し、その揺れで数冊の本がバサバサと落ちてきて、数冊の本で頭を打つ。父上や姉さん、近衛兵達が心配しながら駆け寄ってくるが、大丈夫だと打ったところをさすっていたら、僕はふとある名前がよぎった。


「……ユウナ、ユウナなんてどうかな?」


 前世でプレイしていたファンタジー系のゲームに、ユウナっていう名の女の子がいた。あの子は、黒髪碧眼だったけど、綺麗だったのは同じだし、きっと似合うと思う。

 チラッと女の子の方を見ると、嬉しいのか、ほっぺを林檎のように赤く染め、少し俯いていた。

 どんな顔をしているのか、覗き込むように見ると、今にも笑いそうな口をキュッとして、もごもごしていた。


「えっと、気に入ってくれたで…いいかな?」

「ウ、ウン……」


 コクコクと激しく頷いた。相当気に入ってくれたようだ。内心ホッとする。


「それじゃあ、ユウナ殿、君の事は一部の信頼できる高位貴族と、我が家族に伝えるが……構わないかね?」

「ハ、イ。ヘイ、キデ、ス」


 女の子––––改めてユウナは父上の言葉に頷いた。

 ユウナについては、僕が責任を持って共に行動する事、居場所がわかるように、ユウナの耳に追跡機能のついた耳飾りをつける事。そして、僕についてはこの召喚魔法は、戦闘時以外使用禁止、そしてしばらく(何故か)勉強は休むように言われた。その理由は、僕の2つ年上のアレンデス兄さんより勉強しているためだとの事、一言で言えば、息抜きにという事だ。

 勉強しないで、それ以外するとしたら、読書かその辺を散策ぐらいしか思いつかないが、ユウナはここに来て道や地形がわからないだろうし、ユウナと一緒に場内を案内するのを兼ねて、散歩をすることになった。

 僕は離れ離れにならないように、ユウナの手を握ろうとするが、ユウナは恥ずかしがってなかなか握らせてはくれず、せめて小指だけでもって事でユウナは赤面しながらも、小さく頷いて承諾してくれた。ユウナの小指と自分の小指を絡めてみたが、ユウナの小指はとても細く、少し力を込めてしまったら、簡単に折れてしまいそうなくらい細かった。

 勉強していた時、魔族の事についても勉強した。魔族は力絶対主義だから、ユウナは弱いとされて、みんなから酷い仕打ちでも受けていたのかもしれない。だとしたら、ここの方が安心–––––––––いや、故郷の方が安心するだろう。

 魔族と人間は敵対心が強い、水と油の関係だ。どちらかが、何かしら気に食わないと、すぐさま戦争を起こすが、ここサウィスティは、魔族との関係は一切なく、平和ボケな国だ。だが、だからといって油断はしない。

 先先代のその前の前の……まぁ、初代から何かあった時のために用心する為にと、日々騎士や兵士達の訓練を怠ったりしない。兵や騎士は、どこの国よりも多く、強いと思う。実際はどうかは知らない。

 歴史の勉強の時でも、この国がどこぞの国に侵略された事は一度もない。だから、平和ボケな国である。その為、この国がどれくらいの実力を持った国なのか、僕や兄さん姉さん、父上や母上……いや、国全員が知らない。例え訓練を怠らずにしたとしても、実際に戦った時、どうなるかわからない。人は肝心な時、体がうまく動かず、思い通りにならないから。それを誰よりも、僕は知っている。

 人間にとって、ここはすごく平和で過ごしやすい国かもしれないが、魔族であるユウナからしたら、平和も危険も変わらない。なんせ人の住む領土のど真ん中に、しかもその頂点に立つ者の家にいるんだから、いつ殺されてもおかしくない、そう思っているだろうな。もし僕も同じ立場なら、不安で不安で仕方がない。

 それにしても、ユウナは魔族のどこぞの貴族の娘だったのかな。歩き方、姿勢、食べ方、話し方全てが人間の貴族のように、きちんとしている。でも、召喚した時、服は平民と同じ素材で作られたのかそこまで煌びやかではなく、髪も少しボサボサだったな、虐待でも受けていたのかな。なんというか、なんだろう……僕と、昔の僕と少し重ねてしまう。

 失礼なのはわかりながら、僕は聞いてみることにした。


「ねぇ、ユウナの家族って、どんな人達だったの?」

「エ!?エ……エット、……ソ、ノ…」


 ユウナは体をビクッとさせ、口をもごもごとさせて、顔を晒した。物凄く動揺した反応見せたから、相当自分に関しての話をされるのが嫌なんだ。これ以上しつこくしたら嫌われちゃうし、無理に聞くのは野暮ってもんだ。ユウナ自身が、話してもよくなってから、色々、ユウナについて話を聞こう。


「いいよ、無理に話さなくて。いつか、気が向いたら聞かせて」

「ウ、ウン」


 ホッとしたのか、さっきとは少し柔らかな空気になった。こりゃ、話してくれるのに少し時間が掛かりそうだな、けど……もし話してくれたその時は、それくらい信用に値してくれたって事になるんだよね。いつか、それぐらい信頼してくれると、いいな。


「そうだ、城の裏庭に綺麗な花園があるんだ。よければ、そこで一緒に遊ばない?」

「……ウン、イッショニ、アソビ、タイ……カ、モ」


 そう言いながら、頬を林檎のように赤く染め、期待に満ちた瞳を、ウルウルさせている。バレないようにそっぽ向いているけど、バレバレなんだよね。素直じゃないんだね、でも可愛いからいいか。


「よーし、それなら行こう」


 僕はユウナの小指を離し、手を握って花園まで走った。ユウナは初めは戸惑っていたが、今度はきちんと握りしめた。




 その様子を城の部屋の窓から見ていたレゲッタは、「はぁ」と溜息を吐き、何枚かの書類に『可』と『不可』と刻まれた判子を使い分けながら押していった。

 目の前で書類整理していたウィルティーニは、そんなレゲッタを見て、手を止め、冷めきっていた紅茶を飲み干し、新しく入れ直した。


「父上、あの魔族の娘、どうするのですか?何百年も関わりのなかった魔族、このまま我が王宮に匿うのには、そんなに長くはありません。今のうちに、引き離した方がいいかと」

「それは山々なのだが、どうもヴェインを見ると、それが心痛くなる。甘い事だとは理解している。だが、同時にあの魔族を、ヴェインの友人であり、この国の新たな戦力にできないかと考えている」

「と、言いますと」

「最古の文庫の更に奥に存在する金庫を開けた事を覚えているか」

「はい、俺もあの時、そこにいましたから」

「その中にあったある書物に、1人の人間と魔族、そしてその仲間達で、魔王神を封印したと書かれていた。もし、ヴェインとあの魔族の娘が、共に友好関係を築く事が出来れば、()()()()()()()から、救い出してくれるかもしれぬ。まぁ、この事が皇国『エルベデルゼ』にバレなければいいがな」


 レゲッタはカップを持ち、紅茶を飲もうとしたがいつの間にか空っぽだと気づき、ウィルティーニはレゲッタのカップを取り、出来立ての紅茶をカップに注いだ。


「噂ですと、エルベデルゼは何かを企んでいる様子です」

「どうせ、また竜人帝国(ドラゴルイグニス)に手を出そうとしているのだろう。我々人間が敵うはずないというのに、懲りぬ連中だ。ただでさえ、あそこは魔族による襲撃が最近絶え間ないというのに、呆れる」

「だからこそ、竜国の力を利用しようとしているのでわ」

「そうだな、我が知る限り、この世界で最も強い国は竜人帝国だろう。まぁ、最弱の国である我々には関係ない話だ」

「父上、それはこの国がまだ戦争を知らぬからです。強いのか弱いのか、それからです」

「あぁ、だが戦争などしてよいものではない。誰も幸せにならぬ、不幸だけが蔓延する汚ならしいものだ。得をするとしたら、せいぜい腐った頭をした暴君か欲に塗れた貴族だけだ」


 入れたての紅茶に映る自分の姿を見て、レゲッタは苦笑いを浮かべてから一口飲み、嬉しそうに顔をくしゃりと歪ませる。


「お前の紅茶はいつ飲んでも、優しい味だな」

「ありがとうございます」


 ウィルティーニは自分のカップを持ち上げ、紅茶の表面に映る自分を見て、溜息を吐いた。


「––––––––これも、すべて神々の愛し子だからか。ヴェイン…お前には、どう生きるかの選択はいくらでもある。だが、誤った選択だけは、してはならない。我が()()のように」



『ウィルティ。一緒に、この国の平和の為に、共に戦おうではないか』



「決して–––––––二度とあのような事が起こらぬように」


 カップを強く握りしめ、再び窓の外を見つめ、平和な街の景色を見つめ、書類整理に戻った。



 サウィスティ国の西部、建設途中の建物の上に、黒いフードを被った黒装束が2人立っていた。1人は小柄、もう1人は大柄だ。その小柄は懐から虫のような生き物の頭を出し、緑色の液体をそこらに撒き散らしながらもかぶりついた。ゴリゴリと噛みながら、街を見ているようだ。


『なぁ、ここに噂の()()()がいるって、本当?』

『俺様の部下が得た情報だと、ここだと思う。それにしても、なんだこの強い魔力、まるで––––』

『あぁ、まるで何百年前かに死んだ、あのガキと似た魔力を感じる。あの忌まわしき餓鬼の所為で、一体どれほどの同胞が死んだ事やら』

『そうだな、それに、その愛し子とやらの近くにいる。そもそもあの餓鬼は死んだはず、それなのに何故……』

『そんなのどうでもいい。俺らはあの方に頼まれて、敵地(ここ)を偵察しに来ている。もう少し、情報を取得したら戻るぞ』

『そのつもりだ』


 黒装束の2人は、黒い魔法陣を展開し、そのまま魔法陣の中へと消えていった。

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