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神々の愛し子は転生王子  作者: ヤッペ丸
第一章 王宮編
3/6

第三話 記憶が覚醒して

 あの日、神様達により僕を“ピースララバイ”という異世界で、東の国『サウィスティ王国』の末っ子王子、“ヴェイン”として転生した。記憶が戻ったのは、階段から転げ落ち、高熱を出した事によって、前世の全ての記憶を取り戻した。よくある転生者が記憶を取り戻す王道的な方法だ。

 はじめはこの姿を鏡で見た時、「なんじゃこりゃあっ!」と大声を上げて驚き、気を失ってしまったが、2回目以降は、なんとか今の自分の容姿に慣れていった。

 しかし、ナルシストな言い方になるが、いつ何度見ても、今の自分ものすっごくカッコ可愛い顔してる。

 この少し癖っ毛のある蜜柑色の髪、そして緑と白のオッドアイ、よく見ると二重で、眉は丁度いい細さで、眉目秀麗と言うのだろう。

 本当にナルシストみたいな言い方になるがもう一度言おう、何度見ても自分物凄くカッコ可愛い。比べるならば、前世の僕以上かな(言い方がもうナルシストだな)(自分にドン引き)。

 まぁそれはさておき、正直に言えば、体調はまだ万全とは言える状況ではない。熱は引いたものの、階段から転げ落ちたせいで体のあちこちの関節が痛く、医者からはまだ安静するように言われ、ベッドの上でずっと同じ本を読み繰り返していた。

 確かこの本、3日前から読んでるけど、もうこれで7回目。そろそろ他の本を読みたい。ただベッドの上でゴロゴロ横になるなんて、退屈過ぎて落ち着きやしない。

 あぁ、せっかく記憶を思い出したのにこれでは意味がない。早く完治して、城内回りながら散策したり、異世界ならではの魔法を使ってみたい。

 するとコンコンと扉をノックする音が聞こえ、どうぞと返事をしたら、何度か見た事のある人が入ってきた。


「ヴェイン、入って平気か?」

「はい、大丈夫ですよ、ウィルティーニ兄さん」


 凛とした顔で、数冊の本を持って来たのは、この国の第一王子、そして王位継承権第1位のウィルティーニ・サウィスティだ。

 第一王子という事は、つまり自分の兄で、年は10も離れている。勉学、剣術の才があり、魔法は少し不得意ではあるが、剣術は兄弟の中で一番強い。何より人柄がよく、色んな人との交流がある為人脈が広く、次期期待の王とされている。

 髪と瞳は父譲りの金髪碧眼、容姿端麗、眉目秀麗、見る者全てを魅了してしまう。そんな兄には1つ年下の婚約者がいるが、実はというと、まだその人とは会ったことがない。

 ウィルティーニ兄さんは隣に置かれているサイドテーブルに持って来てもらった本を置き、ベッドに腰掛けた。


「体調の方はどうだ?」

「はい、もうすっかり良くなりました。ですが、暇過ぎるのがちょっと…」

「医者から外出してもいいと言われるまで、大人しくベッドで横になっていろ。今ヴェインがやるべき事は、早く体調を良くして、皆に安心させる事だ」

「はい、少しでも早く体調が良くなるよう、きちんと養生します」

「あぁ、そうしたまえ。お前は、神々の愛し子であるから、使用人達が不安がっている。早く良くなるんだぞ」

「……はい」


 返事を返し、ウィルティーニ兄さんは頭を撫でてから部屋から出ていった。

 皆、僕が『神々の愛し子』というだけで、腫れ物を触るような扱いをする。

 話によると、神々の愛し子とは、神から愛され、誰よりも祝福を受けて生を受けた人の事をそう呼ぶ。つまり、僕に何かしらの危害を加えられたその瞬間、神々からの天罰がくだると言われている。その為、使用人達は僕を怒らせないようにと、よそよそしい感じがする。

 けど、それは使用人達だけで、家族は普通に話し、怒り、けど優しい笑顔を見せてくれる。ウィルティーニ兄さんはあんな言い方したが、きっと凄く心配してくれるし、愛し子関係なく厳しくて優しい。寧ろその方がありがたい。

 やけによそよそしくされたら、かえってストレスが溜まる。

 ふと、前世の時の両親の事を思い出す。

 あの頃の両親も笑顔は見せてくれてたけど、母は演技で作られた笑顔、父は笑ってくれていたが、目が完全に冷めきっていた。

 小説家の父と人気女優の母の間から生まれた僕は、望まれて生まれた訳じゃない。ただのセフレだったのが、酔った勢いで避妊具をつけず行為をしてしまい、誤って子供を授かったとの事だ。父の方は反対だったのを押し切って、母が頑張って産んだ。そんな二人の間から、望まれなく、誤りによって僕が生まれた。

 始めの頃二人は、育児を楽しんでいたらしいが、何年も経っていくうちに、疲れ果てたのか、真面目に育児をせず、仕事の方に力を入れ始めた。それは、僕がまだ7つの頃だった。

 僕は、2人にもう一度見て欲しくて、褒めて欲しくて、ちょっとでも構って欲しくて必死に勉強し、必死で苦手な事を克服し、血の滲むよう努力をしてきたが、結果、最期まで僕の事を見てくれようとはしなかった。無駄な努力をした–––––––––––とは、思っていない。

 勉強をしていたおかげで、偏差値の高い高校を推薦入学でき、友人関係も上々だった。まぁ、その全てがアイツによって全部潰されたけどな。今となっちゃ、もういいんだけどね。

 ミュウ達に頼んだ通り、僕の記憶は5歳になって取り戻した。それはつまり、少しだけ精神年齢の高い5歳児になったという事だ。前世と今世を合わせて、二十代前半くらいだろう。

 そう思うと、今同い年くらいの女の子とお見合いした時、ものすご––––––––––く年の離れた結婚になる、というか……滅茶苦茶罪悪感抱くよ。

 そういえば、僕異世界に転生したから、もしかしたらアレが存在するかもしれない。


「ステータス・オープン」


 目の前に、ゲーム画面みたいな画面が現れた。


名前(ネーム)〕ヴェイン・サウィスティ

〔種族〕ヒューマン

〔レベル〕1

〔HP〕420/420

〔MP〕760/760

〔年齢〕5歳

〔称号〕サウィスティ王国第四王子/神々の愛し子

〔魔法〕緑魔法LV1

〔スキル〕剣術LV1   体術LV1

     馬術LV1   言語理解LV1

〔加護〕創造神 生命神 太陽神 月神 愛神


 これが、僕のステータスだ。

 高熱を出す5日前に5歳を迎え、教会で洗礼を受けて、教会の人たちには物凄く驚かれ、目の前で頭をペコペコされて、おさめるのに大変だった様な気がする。それはそうと、僕この世界の神様全員から加護を与えられてるし、それに神々の愛し子っていう称号得てるし。

 僕は鏡で自分の首筋に刻まれた赤い紋様を見た。これが、神々の愛し子である証だ。両親から聞いた話だと、突然輝き、浮いたと思ったら首筋に紋様が刻まれた…との事だ。

 しっかし、ミュウさんが言っていた事って、この事だったんだな。

 ……目立つよッ。

 王子って立場だけでも凄い事なのに、更に神々の愛し子って、例えるならば、ハバネロをこれでもかと入れたラーメンに、更にハバネロを追加したような、そんな衝撃だよ。前世で食べたメチャクチャ辛いラーメンを、面白半分でクラスメイトと食べに行った時、口の中がメチャクチャ針にぶっ刺されているような感覚で、結局皆んなギブしてたな。そんな感じ……かな。

 そういえば、神様に頼んだ召喚魔法がステータスに入ってない。もしかしてあれって、条件を満たしていないと手に入らない魔法とか、そんなのかな。

 まぁそうなら頑張って取得しないとね、召喚魔法を使って、夢だったモフモフパラダイスを実現させるんだ。

 そうしたい気持ちを抑え、ベッドの横に置かれている、ウィルティーニ兄さんが持ってきた本を手に取り、ペラペラとページをめくり、あるページに目が止まった。


 ––––––サウィスティ王国初代王、聖剣王『グランディアス』と、初代魔王神『カインセル』


 この世界に転生して、初めて聞く名前だ。聖剣王と魔王神。なんか、ラノベとかで見たな、初代王が実は転生者って展開。そんで、この聖剣王がこの魔王神を倒して、英雄と称えられたって展開も見た。

 あり得るだろうな、僕も転生者だし、この世界に他の転生者がいてもおかしくはないな。けど、それが一体誰なのかはわからないけど。


 またページをペラペラめくり、あるページに「現在存在する七色魔法」と書かれたページを見つけ、そこのページを開いた。


『ピースララバイには、七色の魔法が存在する。そして魔法は、瞳の色によって決まる。

 赤色……炎・補助・音

 青色……水・氷・防壁

 黄色……土・雷

 緑色……風・回復

 紫色……毒・魅了

 白色……光・聖

 黒色……影・闇

 である。中でも、白色と黒色は希少で珍しく、白色は主に聖女が持っていて、黒色は暗黒の使者が持つと言われる。』


 なんて事が書かれている。僕の瞳の色は緑と白、つまり風と回復、光と聖が使えるという事だ。だが、ステータスを見る限りじゃ、白魔法なんて記載されていない。まぁ、頼んでいないしね。

 けど、この本には「召喚魔法」について書かれた文がどこにも書かれていない。僕は緑魔法はいいとしてそれより召喚魔法も使ってみたいのに、入手方法どころか、それに関して書かれた文がどこにもない。まさかとは思いたくないけど、実は召喚魔法は、実在しないってそんなオチないよね。

 はぁ、召喚魔法さえあれば、モッフモフパラダイスなのに。あぁでも、召喚魔法が使えるのなら、強い奴とかも召喚してみたいな。なんなら、自分が想像して考えた召喚獣を召喚してみたいなぁ。って、今使えないのに、どうやって使うんだって話だけどね。

 その時、部屋の窓が勝手に開いて、外の風が部屋へと流れ込む。カーテンがふわりと風に舞い、少し生暖かな空気が部屋に浸透する。誰が来たのかと窓の方を向くと、何度も見た顔が翼をはためかせながら部屋に入ってきた。


『ヴェイン様、ヴェイン様。御機嫌よう』

「あ、クリスティル、御機嫌よう」


 僕が神々の愛し子だからか、時々ミュウに使える天使が来る。特にこれといってミュウに命令されてくるんではなく、彼らは友人のところに遊びに行くって感覚でよく来る。特にこのクリスティルは、天使の中でよく来て、今では親友って感じかな。まぁ、敬語を抜かしてはくれないけど。


「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

「どうかしましたか?」


 窓際に置かれていたまだ蕾だった花が、クリスティルが触れた瞬間に綺麗な真っ白の花が咲いた。一瞬にして花に命を吹き込み咲かせるなんて、流石天使だな。


「僕はこの世界に転生する前に、ミュウ…様達にある魔法を頼んだんだけど、それがステータスに入ってなくて。それで、その魔法について少し知ろうと思っても、それについて書かれた書物がなくて……。何か知ってるかい?」

『ん?……あぁ、召喚魔法の事ですね。正直に申しますと、この世界にはまだ召喚というのが存在しないのです。そもそも、この世界の人達にとって召喚というのは、魔王が誕生すると同時に世界を守ってくれる異世界人を呼ぶ最高級魔法なのです。しかしこの世界には、魔王は誕生はしてませんので、倒す為の勇者を召喚する必要なんて無いのです。ですから、まだ召喚魔法に関する書物は少なく、大変貴重な書物として扱われていて、国によっては厳重に保管されてるんです。そのせいなのですが、人々から“召喚”というものは忘れ去られているのです。だから存在しないのかと……』

「そうか、なら、我儘はいけないね。無い物ねだりしても、困らせるだけだし」


 そういう事なら、早めに言ってくれても良かったのに、後から知っても、どうにもできないな。

 それにしても、この世界に魔王がいない…なんて、魔法の必要性があるのかな。いや、生活とかクエストとかで必要かな。でも、なんかひっかかる。魔王が存在しないからって、召喚魔法が存在しない。

 ……いや、明らかにおかしい。魔王が存在しないからって召喚魔法も存在しないってのは。じゃあ何故、さっき読んだ書物に()()()って存在がバリバリあったよ。なんかひっかかるなぁ。その魔王神、害とかなかったって事か。

 ていうかそもそも、なんでそんな最高級魔法を忘れてるんだろう。最高級って事はそれ程高度な魔法なんでしょ?普通は知られていてもおかしくないし、逆に忘れる方が変だよ。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()な……。


『それじゃあ、私は月神様に呼ばれていますので。これで失礼します』

「うん、またね」


 クリスティルは白い翼を羽ばたかせ、蒼い空へと羽ばたいていった。今の僕なら、魔法を使って、鳥のように空を飛ぶ事は出来る。

 そういえば前世の頃の僕、クリスティルみたいな翼が欲しいと、思っていた時期があったな、自由の翼が欲しいって気持ちだけど。でも、僕は最期に、ほんの少しだけど、ふわりと体が飛んだ気がする。本当にほんの一瞬だったけどね。けど、それだけで十分だったな。

 そう……それだけで––––––。


『逃げようとしたら、許さないからね。ハルちん』


 頭の脳裏に残っている、アイツの声が微かに聞こえた。その声だけで全身が凍りつく、僕の自由を奪う、いや、奪われてた。

 トラウマを思い出したせいで胃にあった中身が逆流し、僕は急いでそこにあった器に吐いた。


「はぁ、はぁ……はぁ」


 吐いたからか少し楽になったけど、異臭が部屋の空気に漂って、また吐き気に促される。

 まだ過去を克服するのは難しいな。前世の記憶を残す覚悟はしてたけど、こんなんじゃいつまでたっても、過去の自分を引きずってしまう、また弱い白鐘ハルになってしまう。今の僕は、ヴェイン・サウィスティ、サウィスティ王国第四王子だ。もう過去の僕とは違う。家族や周りの環境に恵まれて、何不自由ない、何かあったら相談に乗れる存在がいる。あの頃とは、違うんだ。

 とは言うものの、過去を完全に忘れた訳じゃないから、半分前世の僕、もう半分は今世の僕。言うなら……二つの自分が、この小さな体に存在している。


「ははは、なんか複雑だな」


 望んだのは僕だし、なーんも言えないな。後悔していると聞かれたら、答えはNO。後悔してない、寧ろ僕はこの世界で、過去の事を克服する為にミュウ達に少し成長したら前世の記憶を戻す様頼んだんだ。少しずつでもいいから、その過去から身軽になれる様に、この世界で本当の自分になる為に……。

 それにしても、召喚魔法が存在しないのか。もしこれで、召喚書でろーなんて言ったら、どうなるのかな。


「いでよ、召喚書よ!なーんてね」


 その瞬間、目の前に謎の模様が刻まれた本が目の前に現れた。


「えぇええええええええええええええええ!!」


 あまりの事に大声をあげ、両手で口を押さえた。扉の方を見たが、誰もこっちに来ている様子はない。僕は周りの様子を伺いながら、目の前に現れた本を手に取った。

 ページを開いてみると、そこには何も書かれていなくて、全てのページが白紙…という訳ではなかった。最後のページには、()()()で何かが記されていた。


『この書物を手に取った者は、己が望む幻想なる生き物を召喚可能である。まず初めに、召喚してみたいモノを想像し、その名を口にしてみよ』


 ––––––うん、チートの予感しかしない。だって、もしここに書かれている事が本当にして、凄いのを召喚したら、もう神々の愛し子どころか、神として崇められちゃう始末になる。

 流石にチートは勘弁、僕は平穏に自由に生きるって決めたんだ。それを一瞬で潰されるのはごめんだね。


 本を閉じ、誰にも気づかれないようそこにあった本棚にしまい、ベッドの上で横になった。


 うーん、今魔法が使えるのなら…、使えるのなら…あれ、僕回復魔法が使えるじゃん。


 僕は体を起こし、腕を上に伸ばした。


状態回復(ステータ・リカバリー)


 その瞬間、鉛のようにだるかった体がみるみる軽くなり、痛かった関節も痛みが消え、何事もなかったかのように、背中に羽が生えたように軽かった。

 ベッドから飛び降り、どこも異常がないか手足を動かし、体をあちこちひねり、屈伸をして、手足を伸ばし、軽く体をほぐした。


「うん、バッチリだ。いやぁ、こんな事なら早く使っておけばよかった。あっ、でも一応大人しくしておこう、もしバレたら神のお力だなんたらなんて言われる可能性あるかもだし」


 またベッドに横たわり、ウィルティーニ兄さんが持ってきてくれた本に手を伸ばした。題名は『魔王神と双子の子供』だった。まぁ5歳児だし、こういうおとぎ話を読むのが普通だろうな。


『–––––今より遥か昔、魔族達が崇める魔王神に、2人の赤子が生まれた。1人は黒髪白眼の男の子、もう1人は銀髪赤眼の女の子だった。だが、どこの世界でもどこの国でも、双子は不吉の象徴、男の子は新たな神の子として育て、もう1人の女の子は人目につかぬところに軟禁された。何不自由のない暮らしだったが、いつも1人で、食事の時はいつも知らぬ間に用意されていて、服はいつも綺麗にされて用意されていて、本当に不自由ではなかったが、誰もいない、話す相手がいない、寂しく思った。女の子は誰かとお話がしたい、ただ会いたいという気持ちで、バレないようコッソリ屋敷から抜け出した。初めてみた自分と同じ仲間、嬉しさについ飛び出していったら、皆女の子を見た瞬間、悲鳴をあげ、怒号をあげ、その場から逃げるように走り去っていった。女の子は何がなんなのか分からず、歩み寄るが、皆怯えて逃げるばかり、女の子は悲しくなり、屋敷に戻ると、魔王神と男の子が立っていて、男の子はニヤリと笑い、女の子に向けて魔法を放った。まともに受けた女の子は吹き飛ばされ、何故このような事をするのか問うた。帰ってきた言葉は–––––


「お前は今日から、この子の魔法の練習台だからだ。ありがたく思え」


 絶望に突き落とされたような衝撃を受けた女の子は、ただただ生まれただけで罪を背負わされ、挙句に実の兄の魔法の練習台、これ程にも辛い思いはないと思い、屋敷に出ることはなく、兄の魔法の練習台にされ、己を恨み、家族を恨み、そしてこの世界を恨み、女の子は自ら命を絶った。女の子が死んだと同時に、魔王神はその身が滅び、男の子は謎の狭間に吸い込まれ、姿を消した。それは、女の子が今まで恨んだ分が彼らに帰ってきたかのように、100年に及ぶ不幸という災いが降り注いだ。その100年の出来事を、女の子は何を思うのだろう–––––』


 残酷な物語だ。ただ生まれただけで罪を背負わされ、何もしていないのに実の兄の魔法の練習台にされ、恨みを持ったまま自殺……まるで、前世の僕のようだ。僕もあの男にいいように扱われ、アイツを恨み、両親を恨み、あの世界を恨み、自殺した自分に似ている。

 同情を持ってはいけない気がする。それで彼女が救われていたのなら、もうすでに救われている筈だ。そもそも、双子は不吉の象徴とか、どこのラノベだよ。僕の知人に双子の兄妹がいたけど、2人とも幸せに育てられていたぞ。

 生まれただけで罪を背負わされ、何もしていないのに実の兄の魔法の練習台にされて、理不尽にも程がある。なら、その兄の方にだって罪を背負う必要がある筈だ。まぁ、こういうのは先に生まれたから、 その必要がなかったんだろうな。全く、ムカつく話だ。

 おとぎ話でこんなにムキになるとか、ガキか僕は。でも、本当に胸糞悪い。そういえば、彼らの名前はなんなんだろう。

 ページをペラペラとめくり、最後の方のページまでめくると、そこに名前が記されていた。


『兄……コウヨウ

 妹……フィーリエ』


「フィーリエ……か。綺麗な名前だな。魔族は長寿と言われているけど、もしまだ生きていたのなら、一度でいいから会ってみたかったな。まぁ、()()()だけどね。そんなの召喚する以外他に何があるって–––––」


 その時だった。

 本棚がガタガタと動き出し、そこからさっきしまった召喚書が飛び出てきて、ペラペラとページがめくられ、白紙だったページに絵と文字が浮き上がり、眩く輝き出した。

 その光に目をやられそうになり、両腕で光を遮り、隙間から何が起きているのか様子を伺った。本の真下にやけに大きな魔法陣が出現した。だが、ずっとみても何も起きず、見ていたら、激しい揺れに棚の上に置かれていたカップが落ち、その破片が僕の親指に飛び、指に切り傷ができた。

 布で拭いて止血しようとしたら、数滴の血が本に吸い込まれるように飛んでいき、その血が本についた瞬間、魔法陣は眩く輝き、僕はその光景に息を飲んだ。

 魔法陣を見つめていると、そこに1人の女の子が現れた。

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