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神々の愛し子は転生王子  作者: ヤッペ丸
第一章 王宮編
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第二話 転生先は

 ペラペラとページをめくり、どこから出したのかわからない羽根ペンをくるくる回し、真剣な眼差しで見てきた。いよいよ転生先を決めるんだと、緊張して来た。


「じゃあ、まず貴方が転生したい所を教えてください」


 僕が望む世界––––か。

 うーん、ここしばらく欲というそういった事を考えた事がなかったから、どんな世界がいいのかわからない。出来るならば、あの地球には戻りたくない、もしかしたらアイツに会ってしまうんじゃないかと怖いから、また同じ生を歩むかもしれないから……。

 それならどこでもいいと望むとしたら僕は、魔法がある世界に行ってみたい。所謂異世界、ファンタジーな世界だ。

 中1の頃、オタクな友人に勧められて読んでみたラノベが面白かったんだよね。チートとか、ハーレムとか、そんな展開が色々あって、でも何より、楽しそうなのが羨ましかったんだよな。まぁ、魔法を使ってみたいってのもある。ハラハラドキドキ出来る冒険にダンジョン、戦っていくうちに築かれている信頼、そして何より……その世界でしか見れない景色を、見てみたい。

 身分も決められるとしたら、小さい頃憧れていた王子とか、王族・貴族なんかとかもいいかも–––––––––なんつって。この歳になって王子とか恥ずいわ。

 まぁ、普通に自由にのびのびと、家族に愛されて、周りのみんなから慕われて、そんで頼れる友人達がいて……せめて、心から信頼できる人がいてくれたら、それだけで十分。あんなヤツみたいなのとは、もう二度と会いたくないし、関わりたくもない。

 不自由ない生活を送りたい、ただそれだけで十分さ。あっ、でもチートはチートでも過ぎるのは勘弁かな。チートだと色々と面倒事に巻き込まれるって展開がよくあったしね。なんだっけ、生まれた時からヤバい魔力を持っているとか、そういう目立つ事はちょっと嫌……かな。

 でも一番重要なのは、地球とは違って自然が沢山あり、その世界にしか存在しない生き物や植物、何より……そこが本当に異世界なんだって感じるような、そんな世界に行きたい。


「–––––––はい、全ての条件に基づく世界を選定する事が出来ました」

「……はい?僕はまだ何も言ってませんが?」

「お忘れですか?私達神は、貴方の考えている事が全てわかるのです。ですから、貴方が言わなくても、わかるんですよ」


 そういえば、さっきそんな事言ってたな。だから僕が考えている時、「フムフム」や「なるほどね~」とか相槌しながら言ってたな。

 ……じゃあ、さっきまで考えていた事を全部聞かれてたって事だよね。改めて思うと超恥ずかしい……。

 顔面赤面にして恥ずかしがっていると、ミュウは手を掲げ、宙に魔法陣が出現し、そこから一冊の本が出てきて取り、その本を僕の前に差し出した。緑色の表紙に、なんで書かれているのかよくわからない文字が書かれていた。

 本を開くと、綺麗な自然風景の写真と共にびっしりと文字が書かれていたが、それは読む事ができた。文章の初めの大文字、なんて書かれているかというと、『ピースララバイ』と書かれていた。なんなんだと首を傾げながらミュウを見る。


「条件に合った世界は、こちらです。草木が生い茂っていて、自然溢れる『ピースララバイ』で、少し技術が発展していて、貴族制度とかあるけど、特に細かい事はなく、寛容でとてもいいところです。何より、ここは種族差別はあまりなく、そして魔法も使えるのです!」

「そうなんですか、でも……さっき僕が考えていたような、そんな都合の良い所なんてある訳が––––」

「あるのです。東の国にちょうど赤子をお腹に抱えている王妃様がおられるのです。そこは『サウィスティ王国』といって、最も魔法が発展している国です。国王も王妃も、そして兄弟達も心お優しい方々で、何度見ても素晴らしい親子だと思ってます」


 神様のミュウが絶賛する程凄くいい王家って事だよね。そこなら、安心して生まれても–––––あれ?僕、王家の王子として生まれるって事だよね。

 こんなド平民のような暮らしをしてきた僕が、いきなり王子なんてそんな大それた身分を果たせる訳がない。まぁ確かに、王子になってみたいと、幼い頃の夢を想像してたけど、いざなると心配だな。

 王子だからって理由で、あぁだこうだ言われたり、色々と自由を縛られたり、なんだかんだ面倒な生き方するのかもしれないと思うと、頭を抱えたくなる。

 するとソライムさんが僕の隣に来て、上から本を覗き込んでからミュウを見る。


「なぁ、王子として転生するのは良しとして、能力とかどうする?ほら、やっぱ王族だから、魔力は最低でも2つあった方がいいし……」

「そうなんですか?」

「あぁ、そもそも魔力を持っているのは、大抵が貴族か王族、でも稀に平民とか、身分の低い人も魔力を持つ事があるんさ。けど、魔力を2つ持つのは王族だけ。だから、お前は最低でも魔力を2つ持っていないといけない。そうだろ、ミュウ」

「そうだね、そこんところで、この属性の魔法を使ってみたいとかありますか?」


 使いたい魔法––––––––ねぇ……。そこまで考えなきゃダメなのか。はぁ、転生するのも楽じゃないね。

 もし使えるとしたら、流石に全属性はある意味目立ちそうだし、もし使えるとしたら、回復魔法かな?回復っても、全てのモノを回復できたらって事で。壊れたものや傷ついたものとか、そういう意味での回復魔法で。

 後は……あぁそうだ、召喚魔法が欲しいかも。よく異世界モノとかであった。そう、主人公とか契約している召喚獣。あれはいい。

 死ぬ前……まぁ前世と呼べばいいか、前世だと犬とか猫とか、そういった動物とか飼えなかったんだよねぇ、母は動物嫌いで父は大体の生き物のアレルギー持ってたからな。憧れるんだよな~、もふもふした犬とか猫に顔に埋めたり、思いっきり遊んだり、もしそれら全てが可能ならいいな。

 うん、回復魔法と召喚魔法がいい。この2つだけあれば十分だな。

 するとメルティアナさんはズイッと顔を近づけ、至近距離から睨まれた。至近距離から見るとさらに美人だし、胸が当たりそうでドキドキする。これでも一応“元”現役高校生だから、不意打ちでこういう事されると困る。


「はぁ、アンタは欲がなさすぎだよ。というか本当に二つだけって……無欲すぎるでしょ」

「え、十分にあると思いますが?」

「アタシからしたら、アンタは欲がなさすぎだ。何度か死んだ若い魂がここに来るけど、みんなバカスカ欲しい使いたいとか言って、バシバシ言うぞ?」

「そうなんですか?でも、今まで生きていて、欲しい物はそんなになかったし…。まぁ、不自由じゃなかったけど、我儘は言っちゃいけないなぁ、と思ってたから。その、なんと言うか、初めての我儘が……自殺したい願望でしたから…」


 これを我儘と言うのかわからないけど、ずっと願ってた事だし、譲れなかった事だしな。

 特に欲しいものは、ないんだよね。無駄にあると、逆にどうすればいいんだって分からなくなる。最低限に必要なものは備えておいて、後から必要になったなら、自分で頑張って手にすればいい話だしね。

 なんだか横から啜り鳴き声が聞こえてきて、なんなんだと横を見ると、涙をダバダバ流しているソライムさんがこちらを見ていて、「うおーんっ」と情けない声をあげながら強く抱きしめてきて、顔から出る液体という液体が顔やら服やらにベトベトにつく。


「お前ぇ…お前はぁ……辛い思いしてきたせいで、欲がなくなっちまったんだな––––!!くそぅ、あの腹黒ヤリ○ン野郎なんかのせいで、お前の人生滅茶苦茶にしてもなお、ヤ○チン野郎は悠々と同じ事繰り返して……あいつ、絶対(ゼッテー)来世は疫病抱えた嫌われ者にしてやる」


 色々と凄い事言ってるけど、神様がそんな事して平気なのか。でも、僕の事を思って怒ってくれてるんだろうな。そう思うと、なんだか嫌にはならない。なんというか、この人は、本当に優しい人だ。いや、この人だけじゃない、ここにいる神様達は、みんな優しい。

 なくしかけていた物を、取り戻させてくれている。正直、このまま奴隷に転生したとしても、きっと、恩を忘れたりしないし、恨まない。今はとても、心がポカポカする。

 久しぶりに、人(?)の暖かさに触れた気がした。あぁ、こんなにも心地良くて温かなものなんだって、今やっと、思い出した。


「ハル君、今世で幸せになれなかった分、来世では幸せをキチンとそれを取り戻してね」

「……ミュウさん、僕が辛かったのは、たったの1年ですよ。それまでは、幸せでしたから」


 ぎこちない笑みでそう返すと、困ったように微笑まれ、そっと頬に触れて、真っ直ぐに見つめてくる。綺麗な瞳に、僕が煌めいて映る。


「それでも……。私は、これからも貴方のことを見守らせて下さい。これが私にできる、唯一の事ですから。まぁ、見守っていているだけで、なんの役にもたちませんけどね」


 多分ミュウさんは、ミュウさんなりの事をしようとしてくれてるんだ。とても良い所に転生させてくれるだけでも有り難いのに、僕が望んだものを与えてくれて、それでも、ここから僕を見守ってくれる。今までで、一番幸せかも…しれない。


「ありがとう、ミュウさん。僕、次の人生では、今世より長く生きて、幸せな人生を歩んでいこうと思います」


 今僕にできる精一杯の笑顔を見せた。だって、こんなにも心が晴れ晴れしているんだ。こんな晴れ晴れとした気持ち、前まではなかった。凄く、心が軽い。

 ラフュイは首から下げていた懐中時計を開け、「もうこんな時間か」と呟いてから、こちらを見た。


「そろそろ時間になるよ、ハル君。今度は後悔がないよう、自分が幸せだと思える人生を歩んでくれ。でもけして、無闇に人を傷つけない事、それだけは忘れないで」

「当たり前の事を言いますね。でも、ご忠告有り難いございます。あっ、最後に1つ良いですか?」

「構わないよ」

「僕が生まれた瞬間から、前世の記憶とか、自我があるのは勘弁なんで、成長は普通に、前世の記憶を取り戻すのは、大体3歳から5歳あたりがいいです」

「自我はわかるけど、記憶は取り戻していいのか?辛い記憶まで残るよ?」

「それでもです。そこで何がいけなかったのか、改めて考えて、二度と同じ目に遭わないようにするだけです。それに、皆さんの事を忘れたくないですから。これは、僕が白鐘ハルとして、最後の我儘です!」


 4人の神は目を大きく開き、だがすぐに優しい朗らかな笑顔を浮かべた。


「わかった、ちょうどいい時期になったら、記憶を取り戻すようにしておく。あと、これは私からなんだけど、これもちょうどいい時期になったら入れておくね」

「何をですか?」

「それは、見てからのお楽しみ」


 ミュウさんは可愛くウインクをして、ニコニコ笑顔を見せた。やっぱり、どこかで会った事がある気がする。だって、見ていて凄く懐かしく感じるんだ。

 すると、淡い光が僕の体を包み込み、少しずつ体が透けていった。

 これから、僕は転生するんだ。王族の子供として生まれて、そこから新しい人生が始まるだ。


「––––––––ありがとうございます、本当に……ありがとう。絶対に…絶対に、悔いのないよう、新しい人生を歩んでいきます。……行ってきます」

「行ってらっしゃい、ハル君」

「教会の近くに寄るところとかあったら、絶対に教会に来いよ!」

「直接は会えないけど、貴方なら少しくらいなら会話ができるから」

「ハル君……貴方に、我々神の加護を–––––またね、()()()()()


 その呼び方は……まさか––––––––。


 記憶がフラッシュバックする。確かあれは、まだ幼い頃だ。ある日差しの強い真夏、猛暑日だった。とある公園に遊びに来た時、木の木陰に蹲って鳴いている一人の少女がいた。なんで泣いてるんだろうと駆け寄って、声をかけて手を伸ばせば、綺麗な紫の瞳が映した。


『なんで泣いてるの?』

『……迷子、だか、ら…………』

『両親は?』


 そう聞くと首を横に振る。


『そっか、そういえば名前は?僕は白鐘ハル、君は?』

『…………』


 そう、その名前は––––––––。

 その名を口にする前に、ハルは光の粒子となって、消えた。その場に残っていた神々は、その光がなくなるまで、ずっと見つめた。

 ミュウは光の粒子を手に乗せ、胸に抱きしめる。するとメルティアナがミュウの横に来て、頭をそっと撫でる。


「––––––久々に会えて良かったな、ミュウ。いや、みゆうちゃん…かな?」

「うん、久しぶりにはーちゃんに会えて、良かった」

「……神が創造する世界を作る前に、まず他の世界に行き、どうするべきか学ぶ期間があった。そこでミュウが行ったのは地球、そして、そこで出会ったのが彼––––と。なぁミュウ、別に選定しなくても、結果的に自分が創造した世界に行かせるつもりだったろう?現に、もう行かせたけどね」

「うん、普通神である私達が、人間にあまり情を移す事なんて、あまり許される事ではないのはわかる。けど、迷子になって寂しかった私に手を差し伸べてくれたハル君を–––––今度は私が、助けてあげたかった」


 ミュウは本を強く抱きしめ、潤んだ瞳で雲ひとつない空を見上げた。目蓋を閉じれば、まだ名もなき神として地球に来て、迷子に泣いている時、一人の少年が自分に手を差し伸べてくる光景を思い浮かべ、ふわりと笑みを浮かべる。

 そんなミュウを見て、メルティアナは少し苛立ち、カツカツとブーツの踵を何度も鳴らした。


「まぁ、アタシもミュウと同じ立場なら、同じ事をしていたさ。地球の神が、あのハル君の運命を全てぐちゃぐちゃとダメにした。もし、あんな事が起きていなければ、彼は確実に世でいう勝ち組、幸せな家庭を持って、彼の実力をもってすれば、日本どころか、世界中に波紋が広がって、より良い世界になっていたはず。なのに、彼の幸せを奪い、闇のどん底に突き落とされるほどの苦しみを与えるなんて、同じ神として、胸糞悪いわ」

「それは同感、神だからといって、軽々しく人の人生に手をかけるなんて、しかも、あんなにいい子なハル君に」

「本来でしたら、彼の寿命は百は超える予定でしたが、まさか、十分の一しか生きられなかったなんて。貴方の判断は良かったですよ、ミュウ。君があのまま彼を助けなければ、彼の人生はまた、辛いものだったはず」


 重々しい空気になり、さっきまでハルが座っていた場所を見つめた。最後に見せた満面な笑顔を見せたハルを思い出し、神々は願った。


「「「「どうか彼が、今度こそ真の幸せを手にしてほしい」」」」


 同時に同じ言葉を言った神々は、互いに顔を合わせて、空を見上げた。






 一方で、ピースララバイでは、東の国『サウィスティ王国』王宮の王妃が寝る寝室から、赤子の産ぶ声が響いた。そこには、ベッドの上で苦しそうに肩で息をしている王妃と、王妃の手を握りしめている王、そして使用人と思われる女性の腕にはタオルに包まれている赤子が泣いていた。

 綺麗な蜜柑色の髪、うっすら目が開いていて、瞳の色は緑と白のオッドアイ、肌も雪のように白く、唇は花弁のような優しい桃色。容姿はそこらにいる若く美しい女性よりも綺麗で、つい女の子と見間違えてしまうほどだった。

 王は今も泣いている赤子を抱き上げ、優しく頭を撫でた。


「ルーリャ、私達の子が生まれたぞ」

「まぁ、可愛らしい男の子だわ。目元が、若い頃の貴方そっくり」

「そしたら、とても聡明そうな顔がルーリャにそっくりだ。なぁルーリャ、俺はこの日の為に、いくつか名前を考えてきたんだ。サルージャ、クラウ、エヴァン、ダリューン、色々考えた。けど、この子に相応しい名前、今決まった。名前は『ヴェイン』だ。きっと、優しい子に育ってくれるだろう」


 王はヴェインと名付けた赤子を高く上げ、美しく色鮮やかに輝くステンドグラスの天井に照らした。


「今からお前の名は、ヴェイン。ヴェイン・サウィスティだ。私の様に逞しく、そして馬の様に聡明で優しく強い子に、育つんだぞ」


 その時–––––––。

 


「な、なんだ!?」


 赤子が眩く輝き出し、王の手から宙に浮かび、赤子の首筋に赤い紋様が刻まれた。その紋様を見た部屋にいた使用人と王と王妃は、信じられないものを見ているような目で赤子を見つめた。

 しばらくして輝きが収まり、赤子は再び王の手の中へと戻った。

 王は赤子を見つめ、見る目はまるで、自分よりはるか高き人を見るような目だった。


「なんという事だ……我が子が、まさか神々の愛し子だなんて––––––なんと、素晴らしい事なんだっ!」


 嬉しさのあまりに赤子を高く上げた。使用人はハラハラしながらその様子を見ていて、王妃は「コラッ」と軽く背中を小突き、柔和な笑みを浮かべた。


「あなた、この子は神に愛された神々の愛し子、つまり神の子も同然。まさか、そんな子が私のお腹から生まれるなんて。あなた、この子を大切に育てましょう。そして、とても優しく、聡明で、皆が頼れるような、そんな子に育てましょう」

「あぁ、我がサウィスティ王家の末っ子であるヴェインは、きちんと愛情込めて育てよう。だが、これは決して愛し子だからじゃない。きちんとわが子だから、時に優しく、時には厳しく、だ」

「フフフ、そうね。……強く、そして優しい子に育つのよ、ヴェイン・サウィスティ」


 王と王妃はヴェインを包み込むように、優しく抱きしめた。

 王と王妃の子が生まれた事を国中に知らせ、民達は喜びの声が響いた。だが、ヴェインが神々の愛し子である事は隠した。信頼できる者以外、神々の愛し子だとは明かさず、『サウィスティ王国の末っ子』と認知させた。

 神々の愛し子とは、その言葉の通り、神からの寵愛を受け、神に愛されし者の事だ。もし、愛し子の身に何かあれば、神々からの天罰がくだると言われている。

 つまり、ヴェインが何者かに誘拐されたとして、どんなに多額の大金を要求されようと、それに応じて助けなくてはならない。と、いう事だ。それだけ愛し子は重要視されるのだ。

 だから、ヴェインが愛し子である事を知られないようにしたのだった。

 そして5年の月日が経過して、ヴェインは健やかに成長し、とても優しく、聡明で皆から慕われる王子へと成長した。

 ヴェインは剣術や魔法はまだまだ他の兄弟には敵わないが、勉学では他の兄弟より励み、まだ幼い子供でありながらも、読み書きができるようになった。

 何より心優しく、兄弟達や使用人達からとても慕われて、将来期待のある王子となっていた。


「陛下、お帰りなさい」

「ただいま」


 城下町の視察から帰って来た王は、自分を迎えに来た王妃の額に唇をおとした。王妃は照れながらも、嬉しそうに微笑んだ。そこから、とても仲が良いという事がよくわかる。

 そんな睦まじいの国王と王妃を見ていた使用人たちは、今日も仲がいいなと笑みを浮かべながら仕事に励む。


「父上、お帰りなさいっ!」


 ちょうど勉強時間を終えたヴェインは、太陽のような笑顔で、王に向かって駆け寄って来た。

 王はヴェインの元へ向かって行ったその時、ヴェインは下へと続く階段に敷かれている絨毯に足を引っ掛けてしまい、バランスを崩してしまい、そのまま階段から転げ落ちて行った。いくつもの階段に頭を何度も打ち、転げ終えたヴェインは、その場から一切動かず、ピクリとも反応がなかった。

 その光景を最後まで見ていた使用人、そして王と王妃は、ヴェインの元へ必死な形相で駆け寄り、王はヴェインの体を起こし、何度も体を揺すったが、反応がなかった。

 よく見ると、顔が火照ったように赤く、王はヴェインの額に手を置き、固まった。


「–––––陛下?」

「……医者を…。すぐに医者を呼んで来いっ!熱だ、熱をひいている。すぐにでもベッドへ連れて行く!」


 王は意識のないヴェインを抱え、そのままヴェインの寝室まで必死に向かった。


 この出来事で、ハルにとって初めて転生を終え、新たな人生がスタートしたのだった。

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