僕は彼女と鉱山掘りをした。
「ふぃりぽん、あたしね…」
あれから2ヵ月後、
「ん!?」
廃鉱山…
「らいしゅう、らんくCになれるんだって。」
「そうか…僕もランクCの内示を受けた。」
ツルハシを振るう手を止めて、フィリップとモリガンが話をしていた。
「おめでとー。」
「ありがと。そっちこそおめでとうな。」
「えへへー…」
あれ以降、2人はずっと一緒にクエストを受けていた。
ランクがDに上がった事もあり、受注出来るクエストが増えたのだ。
街道や山中、廃鉱山で、ゴブリンや、動物系モンスターを狩り…
ホブゴブリンやゴブリンシャーマン、ゴブリンアーチャーなどの上位種、動物系の危険なネームドモンスター等とも何度か遭遇し、狩った。
「だいかつやくだったもんね、わたしたちー。」
それが認められたが故の昇格だろう。
「ま、今回はランクアップが大量に出たみたいだけど…」
各地で危険なモンスターが、大量に現れたのだ。
そのため、低レベル向けの簡単なクエストのつもりで挑んで上位種と遭遇し、討伐し、戦績を稼いだ冒険者が大量に現れたのだ。だが…
当然ながら返り討ちにされた冒険者も多発していた。
特にフィリップより後に入隊した、経験の浅い冒険者たちが、その犠牲になった。
「そーいえば、ぶきやのおやじがいってた。らんくCになれば、じぶんのぼうぐを、『ぱーそなるからー』にできるって…」
パーソナルカラーへの染色…モリガンが言う通り、ランクCでようやく冒険者として一人前と認められ、自分の防具を好みの色に染める事が出来るのだ。
そして、ランクBは上級者、ランクAはトップ…多くの冒険者が、ランクCで除隊する。
ここが「出世の限界」とも言える。
今日は、ランクアップに際して武器や防具を新調する、その素材を掘るために、2人して廃鉱山に来ていたのだ。
「なにいろにしようかなー…ね、ふぃりぽんはなにいろにするの!?」
「え…!?」
ツルハシを振り下ろしながら突然話を振られて戸惑うフィリップ。
「せ…染色なんて考えて無かった…目立つの嫌だし…」
つい最近まで万年ランクEだったのだ。
「お…」
フィリップはツルハシで割った岩肌の中から出て来た石をモリガンに差し出す。
「こういう色なんて、いいかな…」
それは、深くて濃い、青い石。所々、金色の砂粒の様なものが混じっている。まるで夜空の星の様に…
「こういう青に、嫌味にならない程度で金の差し色入れて…」
「あおかー…」
モリガンはぼんやりと言った。
「じゃあわたしは、あかにするかなー。それで、きんのさしいろいれるのー。」
「こういう感じか!?」
フィリップは岩の中から一つの石を取り出す。
それは、鮮やかな赤い石。やはり金色の砂粒の様な物が混じっている。金の色は青い石のそれより若干明るく、銀に近いだろうか。
「うわーきれいー。」
モリガンも気に入った様だ。
フィリップの両手に握られている、蒼い石と、紅い石。特に使い道も無く、共和国の者たちからも、『青石』『赤石』という、素っ気ない名前で呼ばれている。
「でもきんなんてよろいにつかったら、いくらになるんだろー…」
と言うモリガンに、
「あー、それだったら、『パイライト(黄鉄鉱)』っていう岩石があるみたいだよ。」
「ぱいらいと!?」
「そう。金に似ているけど、値打ちは無いんだって。別名、『愚者の黄金』」
「あははははーーー!ぐしゃだってーーー!!」
「笑うなよ…」
そう言いながら、フィリップは再び目の前の岩肌にツルハシを降ろした。
※ ※ ※
これだけ巨大な青石と赤石が手に入った。
これで、必要な素材は、全て揃った事になる。
あとは、「あれ」を、組み上げるだけだ…
※ ※ ※
「それにしてもー」
モリガンは左手の人差し指で宙に二回、輪を描くと、そこに現れた闇の中に、掘ったばかりの鉱石を入れ、代わりにそこから骨付き肉を取り出した。
「これ、べんりだよねー。」
『アイテムストレージ』…東の共和国の冒険者の間でごく一般的に普及している、無生物に限り、大量の物品を収納する事が出来るマジックアイテムだ。
これのおかげで、冒険者たちは大量のアイテムを持ち歩く事が出来る。
もちろん、収納物は重さを感じないし、収納中は腐敗も劣化もしない。
ただし、生物を入れる事が出来ないので、要人警護のクエストでアイテムストレージにクライアントを入れて…などと言う使い方は出来ない。
モリガンは取り出した肉にかぶりついた。
「うーーん、おいし!」
ちなみに肉は、骨の周りに丸く肉が着いているもので、彼女自身が、ギルドの調理場を借りて作った物らしい。
抜けている様で彼女は、一通りの家事が出来るらしい。しかし、あれ…何て動物の、どこの部位の肉なんだろう…!?
※ ※ ※
夕方頃、採掘を終えた2人は、集めた素材を武器屋のオヤジに渡すと、それぞれに新しい鎧の注文をした。完成は1週間後だそうだ…