Side P-5 僕に出来る事は無い。
アユムとカオリが2人並んで立つ。
「行きますよ、カオリさん!!」「ええ!!」
アユムは片手に持った、一辺30cmくらいのカバンを前に掲げる。その天面は半透明になっており、透けて見える中には、ロボットの玩具の様な物が入っていた。実際の完成品フィギュアにも、この様な装丁で販売されている物も多い。
「『ブリスターバッグ』、オープン!!」
アユムが叫ぶと、2人の目の前に、全高約7mのロボットが現れた。
全身夜の闇を思わせる深みの違う群青色に、金の差し色が入っている。鎧武者の様な装甲に、額には左右の長さの違う三日月の前立て、そして、左右のカメラアイの色が何故か違っていた。左目がグリーン、そして、右目がゴールド…
『アレッツ』と呼ばれる宇宙人のロボットで、アユムの機体は『スーパーノヴァEX』と呼ばれていた。
「…あの時の鉄の巨人だ…」「何度見てもすごいな…」
フィリップとウィルが嘆息しながら言った。
『スーパーノヴァEX』が足を屈めると、腹に当たる箇所の立方体と球体が合わさった様な部分にアユムとカオリが触れる。瞬時に2人の姿は消え、異空間のコクピットに転送された。アユムは前下方のメインシート、カオリは後ろ上方のリアシートに…
ギ ン!『スーパーノヴァEX』の左右色違いのカメラアイが輝くと、ゆっくりと直立する。その背後に、『ミレニアム王国』や山形の自警団のアレッツが次々と集結してきた。総勢数十機の、鉄の巨人…
「アユム君のだけじゃ無かったのか…」
「この世界には一体何体の鉄の巨人があるんだ!?」
「敵の異世界人も鉄の巨人で攻めて来るんだろう!?」
フィリップ達は一様に戦慄した。嫌な予感がする…
アユムの『スーパーノヴァEX』が遥か上空を睨む。幾筋もの白い線が、地表面へ向かって落ちてきた。線は段々と太くなっていき、やがてアレッツのカメラアイのズームで確認出来る様になると、それらは無数の直方体の物と、その中に1つだけ物がある事が分かる。
『スーパーノヴァEX』のコクピット内に、網木ソラの声が響く。
『アユムクン、奴等ハろくな戦力を集められなかったみたいナノ。あの四角いのハ強襲揚陸艦、乗ってるノハ全部「疑似ホワイトドワーフ」…無人機ヨ!』
「分かりました、ソラさん!!」
『ドワーフ…この世界にもドワーフがいるのか!?』
『えるふはいないみたいなのにー!?』
「…すいません、フィリップさんモリガンさん、後でちゃんと説明します。」
『スーパーノヴァEX』の両手は、自身の全高に匹敵する長さの大砲を持っていた。『星落とし』と名付けられたその大砲を、天に目がけて構え、
「シューーート!!」
『星落とし』の砲口から光の柱が延び、直方体の強襲揚陸艦を何艘か打ち抜き、楕円球の有人艦を掠める。
※ ※ ※
同時刻、地球降下中の宇宙船内…
『星落とし』の砲撃が掠めて激しい揺れに見舞われるブリッジ。
「ぐぉ!?」「や、野蛮な地球人共め…」
地球侵攻派のアミキソープ人達は耐ショックシートの中で揺れに耐える。
「地球へのダメージは最低限にするつもりだったが、そっちがその気なら…全機出撃!!」
※ ※ ※
直方体の強襲揚陸艦が次から次へと撃ち落とされて行く中、残った艦から無数の白い線が地上へと伸び、ホバリングしながら着地する。いずれも全高7mの巨人だが、胴体にアユム達の機体にもあったコクピットブロックが金色に輝いている。ソラという男が言った通り、あれらは全て無人らしい。それが、数千機。そしてその先頭に、ガチャン! 黒い鉄の巨人が着地する。明らかに他より強そうなそれは、両手を広げて仰け反ると、
『俺ぁコードネーム「WDーBH」…てめぇ風に言やぁ、「ブラックホール」ってぇんだぁ!!さぁ…楽しい楽しい皆殺しの時間だぜぇ〜〜〜!!』
ギ ン!! 『ブラックホール』のカメラアイが金色に輝く。
空中の楕円球の有人艦から、地球侵攻派の男の声が響く。
『大陸に程近いこの弧状列島を橋頭堡とするために、余計な事をしたアユム・ワタライを始末するために、ここを我らが占拠する!!』
数千機のアレッツを前に、『スーパーノヴァEX 』は『星落とし』を構える。
「そんな事させない!!行くぞ、みんな!!」
『『『おう!!!』』』
地球側のアレッツ部隊からも声が上がった。
※ ※ ※
想像を絶する戦闘が始まった。
『スーパーノヴァEX』の『星落とし』が放つの光の柱が無数の敵機を蒸発させ、それでも相手の数が多すぎた。撃ちもらした敵無人機が地球側の機体と接近戦になり、『スーパーノヴァEX』も『ブラックホール』と名乗った黒い機体との戦闘になった。
想像を絶する戦いだった。異世界から来たフィリップ達にとっては…
※ ※ ※
ドーーーン!!
半壊した地球側の機体が、フィリップ達の横を吹っ飛んで行った。それをブルブルと震えながら見つめるエミリーとエリナ。
「と…父さん…」「ああ…」
スティーブに促されてフィリップが頷いた。
「恐らく、今回、僕達が召喚された理由は、アミキソープセイジンとやらのチキュウ侵攻を止める事だろうな。でも………」
スティーブが目の前の地球版第五次大戦を指差して叫ぶ。
「あんなの、僕達に何をしろって言うんですかーーー!!」
ィ ィ ィ イ イ…
怪音が段々近づいて来た。さっき地球側の機体を吹っ飛ばした敵機が追いかけて来たのだ。全高7mの鉄の巨人は、フィリップ達を見留めると、足を止め、
ギ ン! 金色の1つ目でファンタジー世界の住人達を見下ろした。




