Side P-2 僕はアユム君と話をした。
フィリップのツァウベラッドとアユムのスクーターは、仙台西公園脇の道路を走り、広瀬川の河原に降りて来た。それぞれスクーターとツァウベラッドをブリスターバッグとアイテムストレージに収納し、河原を歩きながらアユムはぽつぽつとこの世界と、彼の状況を話し始めた。
驚くべき内容だった。この世界は魔法では無く科学が発達した世界だったが、2年前にこの世界の外の人(宇宙人)が攻めて来て滅茶苦茶に破壊され、多くの人が死んだのだそうだ。そして、異世界人…アミキソープセイジンと言うらしい…が乗ってきた船から出て来た、全高7mの鉄の巨人…『アレッツ』に乗って、生き残った人々が戦っているらしい。アユムも前回の転移の際に巨大キメラと戦った蒼い鉄の巨人に乗って、とある理由のためにカオリと共に旅をしており、あの時はその旅の最中だったらしい。そして…
「そうか…カオリさんと結婚する事にしたのか…」
一緒に住んでいるという事は、そういう事だろうと思ったが、やはりなとフィリップは思った。
「はい…色々ありまして…」
「おめでとう…で、いいんだよな…」
「ありがとう…ございます。」
アユムにとっては様々な紆余曲折と回り道の末に結ばれたのだが、こうなってよかったと思っていた。
「それで…式を挙げようって事になってるんです。」
「いいんじゃないか、そういうのも…」
フィリップは直角に曲げた針金を2本、両手に並行に持っていた。そのままあちこち歩きながら、フィリップは言った。
「…正直、僕も不安なんです……」
アユムは不意にそう切り出した。
「結婚式は、秋の収穫祭に便乗する形で行われるんです。料理もみんなで持ち寄りで…ましてや結婚式は、女の人にとって人生の晴れ舞台。なのに世界がこんな状況な上に、カオリさんより4つも年下の僕にはこの式に何もしてあげれない…」
劣等感…フィリップにも身に覚えがあった。自分に自信が無いのだな…
「分かるよ、そういうの…」
「だからせめて、これだけでも、自分で用意してあげようと思って…」
「いいんじゃ無いかな…」
フィリップは針金を持って歩きながら言った。
「僕はヒューマンで、モリガンはエルフだ。」
「そう…ですね。」
「…エルフは永遠の命を持つが、実は定命の者…ヒューマンと子を成すと、その永遠の命を失ってしまうらしいんだ…」
「え………!?でもフィリップさん…」アユムは思い出していた。1年前の転移で出会った異世界の住人達を…「あなたとモリガンさんとの間には、お子さんやお孫さん…スティーブさんやウィルさんが…」
「ああ…なのにモリガンは僕と結ばれる事を選び、スティーブを身籠った。永遠の命を捨ててでも、ね…」
まだ昼前だと言うのに、アユムは夏の日差しは妙に暑い気がした。
「自分を責めたよ…モリガンからその事を告げられた時に、ね…エルフの王国で過ごした間に、エルフの寿命の秘密に気づくきっかけはいくらでもあったのに、彼女と離れたくないエゴから、僕も彼女を抱いた卑怯者なのさ…」
「そんな…」
「…だから僕は、せめて家族が離れ離れにならない様に、ヒューマンとエルフが共存して行ける世の中を作ろうと必死になった。社交界に出て、仲間や理解者を作って…気がついたら知事様、男爵様、英雄様だったけどね…」
この人も想像を絶する経験をしてるな、アユムは思った。
「ま、僕が言いたいのは、これはあくまで場合は極端な例だとしても、女にとって男と結婚するって事は、そのくらいの一大事だって事だよ。文字通り、自分の命を削るくらいの、ね…そしてそれは、男にとっても同じ事だ。だから君の不安も当然で、自分にその資格があるのかと思うのも、これをやり遂げる事が答えになると思うのも、分かるよ…」
「ありがとうございます…」
「カオリさんもきっと、分かってくれると思うよ…お!」
フィリップの両手の針金が左右に開き、フィリップはしゃがんで足元の石を拾ったその時、
アユムのポケットから変な音がした。
「あ…電話だ…」
小さな板みたいな道具…スマートフォンを操作し、
「はい、もしもし…」
独り言を始めるアユム。どうやらあれは、遠くの誰かと話をする道具らしい。
「え!?…はい…はい………分かりました。すぐ行きます。それじゃ…」
ピっ!アユムはその不思議な道具をしまった。
「どうしたの…!?」
フィリップが尋ねると、アユムは複雑な顔をして、
「…この国の自警団から、不審者を捕まえたら、僕の名前を出して関係者だって言ってて、身元引受人になってくれって…これで何度目だろ、身元引受人…」
「不審者…!?」
「はい…その3人の不審者と言うのが………尖った耳をしてたそうなんです。」




