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僕はほんの少し魔法が使える  作者: 白洲詠人
2023年お正月スペシャル エルヴンブライド
60/69

10 僕はまた、ほんの少し魔法を使った。

第2、5、7話 LightningS 〜僕はほんの少し魔法が使える・第三部〜 掲載

第3、4、9話 落星機兵ALLETS ~いじめられていた僕がロボットものの主人公になるまで~ 掲載


第9話までのあらすじ


アユムとカオリが操るロボット『アレッツ』は、フィリップやモリガン、ウィルやヴィッキーの奮戦もあり、巨大キメラを倒し、光の粒になって元の世界へ帰って行った。

巨大キメラが倒された後、エリナを拘束していた老人は、抵抗する力もろくに無いため、あっさり縛に着いた。


自分の世界に帰ってしまったアユムとカオリを除く全員は、一旦『港街』のスティーブ邸へ戻った。


縄打たれた老人を皆で取り囲む中、スティーブは言った。


「お前には本国で裁きにかかってもらう。だがその前に…聞かせてもらおうか。何故、こんな馬鹿な事をしたのか…」


老人が不貞腐れて答えた。


「ワシは若い頃、とある研究テーマの虜となり、その研究に生涯を捧げた。その成果の片鱗が、あの巨大キメラじゃ。じゃが本来のテーマの方は一向に成果が出ず、ワシに残された時間の方が残り少なくなってしまった。じゃからワシは、研究テーマを『永遠の命の獲得』に変えたのじゃ…」


「エルフと交われば永遠の命が得られる…こんなたわ言をよく信じた物だな…」

呆れるスティーブに、老人は、


「それは真実じゃ…その証拠に、モリガン嬢と子を成したフィリップ氏は、生きておる…」

そして老人は、



「お前がフィリップだーーーーーーっ!!!」



ウィルを指差し、叫んだ。



「………え!?」「「「………え!?」」」



呆然となる、ウィルをはじめとする一同。老人はしたり顔で続けた。


「フィリップ氏は永遠の若さを得、それを隠すためにその子のスティーブ、そのまた子のウィルだと偽り、生き続けていたのじゃ!間違い無い!!」


「あのー…それだと、私はどうなるの…!?いくら何でもその説、穴が多すぎないか!?」

スティーブは呆れてそう言ったが、


「やかましい!!ただの親子だと言うなら、お前ら何でそんなにそっくりなんじゃ!?」


「そんな事言われても…」「神様のいたずらとしか…」「ま、まあいいや…それで…あんな巨大キメラなんか作って、世界を滅ぼそうとでもするつもりだったのか!?」


老人はスン、と鼻を鳴らし、

「あんな物は、さっきも言うた通り、副産物に過ぎん。若い頃…ワシは駆け出しの冒険者じゃった。フィリップ氏の『境の村の奇跡』につながる演説を、この目で見た、な…短い間じゃったが、フィリップ氏と、モリガン嬢を見とった。モリガン嬢が、冒険者ギルドの『酒場』で、食事をする所も、な…」


「もしゃもしゃ…」

話が退屈になったのか、ヴィッキーが骨の周りに肉が丸く着いた物を取り出し、食べ始めた。


「それじゃーーーーーっ!!」「え…!?」

老人が不意に大声を上げ、ヴィッキーの持っている肉を指差した。


「その肉!!どんな動物のどの部位の肉なのか!?それを突き止め、再現するために、ワシはずっと生物の改造の研究をしとったのじゃ!!」


「………」


「………」


「「「………」」」


老人以外の一同の意識が、一瞬飛んだ。


「ぬっふっふ…」

ヴィッキーが老人に忍び寄り、こしょこしょと耳打ちする。


「な…何!?それが、あの肉の真実!?」

老人の顔が驚愕に変わり、スティーブの隣に立っているウララに視線を向けると、ウララも無言で頷く。


「バカな…じゃあ…ワシは…今まで一体何を………」

ガックリとうなだれる老人を、衛視が両腕を掴み、連行して行く。


「待て!待ってくれ!!行く前に教えてくれ!!」「あの肉は…あの肉は一体…!?」

老人にスティーブとウィルがすがり付こうとするが、諦観した老人は高笑いをしながら、衛視に連れられて退場した…


     ※     ※     ※


「ま…まあ、ともかく一件落着だな。」

スティーブが強引にまとめた。


「そうだね。エリナ…」

ウィルはエリナの肩に手を置こうとしたが…


「………っ!!」

エリナは身をよじった。


「エリナ………!?」


エリナの肩は震えていた。


老人はエリナに何もしなかった。エリナは何もされなかった。だが、並の男なら、女が傷物になったと考えても仕方のない状況だった。もし、この事が原因で、ウィルの心が離れたら…何より、あんなひひじじいに何かされそうな状況に置かれた事自体、エリナは恐かった…


「エリナ…」


ウィルは、優しい男だった。その事を瞬時に察するだけの…



「エリナ…今すぐ、結婚式を挙げよう。」


「ウィル…!?」



彼女の心の傷を、少しでも癒やす。そのために彼が出来る事は、これしか無かった。


「世界中の人に、君が僕のお嫁さんだと宣言しよう。

君は僕のお嫁さんだ。誰にも文句も異論も言わせない!!」


「ウィル……」

エリナの顔が、若干和らいだ…


「でもウィル…じいちゃんの喪は…」

正論で口を挟むヴィッキーに、


「あー…それって…」

フィリップが更に口を挟んだ。

「…僕が死んだから、その喪で君たちが、ずっと結婚式を挙げれなかったって事!?」


「はい…」「うん…」

ウィルとヴィッキーが答えた。するとフィリップは、自分の胸を指差し、


「なら問題無い。この通り僕は生きている。喪は一時的に開けた!!今のうちに結婚式を挙げるがいい!!」


「「「え………!?」」」


一同は再び呆然となり、そして、ヒソヒソ話し始めた。

「でも…」「いや、あの人なら…」「そういう屁理屈は言うかも…」


「君たち僕をそういう風に見てたのか…!?」

口角をヒクつかせるフィリップ。これは屁理屈。ただし誰も不幸にならない…


「ウィルちゃん、私達、何日かしたら新大陸へ戻らなきゃならなくて、次はいつ来れるか分からないから、今、式を挙げるならその方がありがたいかも…」

テレサおばさんもそう言った。でも『ちゃん』はやめて。


「でも、ドレスやモーニングはともかく、今から会場や料理を手配するのは…」

スティーブが言うと、そこへ…



「おまちなさい!!」



声が響き、観音開きの玄関のドアが左右に開く。そこにいたのは、車椅子に座った…


「も…モリガン大奥様………!!」


パイライトの血族の一同が左右に分かれ、深々と一礼する中、車椅子を滑らせ凛とした面持ちで進むモリガン。そして、一番奥にいたウィルの前へたどり着く。


「ば…ばあちゃん…じいちゃんには悪いけど、僕は…」


「うぃる…これをごらんなさい。」

モリガンはウィルに、書類の束を差し出す。


「こ…これは、式場の手配に、食材、料理人に給仕の手配書、各方面への招待状!?しかも参列者にはテレサおばさん達の分まで入ってる…い、いつの間に…いや、どうして!?」


車椅子のモリガンは無言で、若い日のモリガンの前へ出た。


「………」若い日のモリガンは、驚きに満ちた目で老人のモリガンを見つめ、

老人のモリガンは、優しい目で若い日の自分を見つめた。


「モリガン…まさか、おぼえていたの!?今日の事を…それで、準備していたの!?このために…」

若い日のフィリップも、驚きの目でパートナーのエルフの少女を見つめた。


老人のモリガンは、優しい声で言った。

「さあ、はじめなさい。あなたたちのけっこんしきを!」


「エリナ…改めて、僕のお嫁さんになってくれますか!?」

ウィルはエリナに右手を差し出すと、


「………はい…」

少しはにかみながら、エリナは差し出されたウィルの手を取った。


     ※     ※     ※


ウィルとエリナの結婚式は、淀みなく進んでいった。

そして、新郎新婦とその一族の記念撮影…


本来この場にいない若い日のフィリップとモリガンは、撮影から外れた。

『しょうが無いから、カメラのシャッターを押そうか!?』フィリップはそう言ったが、スティーブに全力で阻止された。何故だろう…


しょうが無いから、離れた場所にある席から、撮影を眺めている。


「僕は、生きてこれを見る事は無いんだな…」フィリップが寂しそうにそう言うと、

「わたしは、このことをちゃんとおぼえていないと…」モリガンが言った。


「ん!?待てよ…モリガン、僕らは一体、いつの僕らなんだい!?君はいつから、こうなる事を知ってたんだい!?」

フィリップはそう問うたが、モリガンはにっこり微笑むだけだった。その笑顔の輪郭が、光りに包まれていく。気づくと自分の手も、光り、透け出した。


「ああ、僕らもここまでみたいだ…」


それからフィリップは、優しい声で歌い出した。


Winde(ヴィンデ) wehn(ヴェーン), Schiffe(シッフェ) gehn(ゲーン),(風が吹く、船が行く)

weit(ヴァイト) in(イン) fremde(フレムデ) Land(ランド).(外国(とつくに)へ)

若い二人の、船出だ………」


フィリップとモリガンは、光の粒になって、消えた。

エルヴンブライド Side 僕はほんの少し魔法が使える 完

第11話(LightningS掲載予定)に続く。

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