10 僕はまた、ほんの少し魔法を使った。
第2、5、7話 LightningS 〜僕はほんの少し魔法が使える・第三部〜 掲載
第3、4、9話 落星機兵ALLETS ~いじめられていた僕がロボットものの主人公になるまで~ 掲載
第9話までのあらすじ
アユムとカオリが操るロボット『アレッツ』は、フィリップやモリガン、ウィルやヴィッキーの奮戦もあり、巨大キメラを倒し、光の粒になって元の世界へ帰って行った。
巨大キメラが倒された後、エリナを拘束していた老人は、抵抗する力もろくに無いため、あっさり縛に着いた。
自分の世界に帰ってしまったアユムとカオリを除く全員は、一旦『港街』のスティーブ邸へ戻った。
縄打たれた老人を皆で取り囲む中、スティーブは言った。
「お前には本国で裁きにかかってもらう。だがその前に…聞かせてもらおうか。何故、こんな馬鹿な事をしたのか…」
老人が不貞腐れて答えた。
「ワシは若い頃、とある研究テーマの虜となり、その研究に生涯を捧げた。その成果の片鱗が、あの巨大キメラじゃ。じゃが本来のテーマの方は一向に成果が出ず、ワシに残された時間の方が残り少なくなってしまった。じゃからワシは、研究テーマを『永遠の命の獲得』に変えたのじゃ…」
「エルフと交われば永遠の命が得られる…こんなたわ言をよく信じた物だな…」
呆れるスティーブに、老人は、
「それは真実じゃ…その証拠に、モリガン嬢と子を成したフィリップ氏は、生きておる…」
そして老人は、
「お前がフィリップだーーーーーーっ!!!」
ウィルを指差し、叫んだ。
「………え!?」「「「………え!?」」」
呆然となる、ウィルをはじめとする一同。老人はしたり顔で続けた。
「フィリップ氏は永遠の若さを得、それを隠すためにその子のスティーブ、そのまた子のウィルだと偽り、生き続けていたのじゃ!間違い無い!!」
「あのー…それだと、私はどうなるの…!?いくら何でもその説、穴が多すぎないか!?」
スティーブは呆れてそう言ったが、
「やかましい!!ただの親子だと言うなら、お前ら何でそんなにそっくりなんじゃ!?」
「そんな事言われても…」「神様のいたずらとしか…」「ま、まあいいや…それで…あんな巨大キメラなんか作って、世界を滅ぼそうとでもするつもりだったのか!?」
老人はスン、と鼻を鳴らし、
「あんな物は、さっきも言うた通り、副産物に過ぎん。若い頃…ワシは駆け出しの冒険者じゃった。フィリップ氏の『境の村の奇跡』につながる演説を、この目で見た、な…短い間じゃったが、フィリップ氏と、モリガン嬢を見とった。モリガン嬢が、冒険者ギルドの『酒場』で、食事をする所も、な…」
「もしゃもしゃ…」
話が退屈になったのか、ヴィッキーが骨の周りに肉が丸く着いた物を取り出し、食べ始めた。
「それじゃーーーーーっ!!」「え…!?」
老人が不意に大声を上げ、ヴィッキーの持っている肉を指差した。
「その肉!!どんな動物のどの部位の肉なのか!?それを突き止め、再現するために、ワシはずっと生物の改造の研究をしとったのじゃ!!」
「………」
「………」
「「「………」」」
老人以外の一同の意識が、一瞬飛んだ。
「ぬっふっふ…」
ヴィッキーが老人に忍び寄り、こしょこしょと耳打ちする。
「な…何!?それが、あの肉の真実!?」
老人の顔が驚愕に変わり、スティーブの隣に立っているウララに視線を向けると、ウララも無言で頷く。
「バカな…じゃあ…ワシは…今まで一体何を………」
ガックリとうなだれる老人を、衛視が両腕を掴み、連行して行く。
「待て!待ってくれ!!行く前に教えてくれ!!」「あの肉は…あの肉は一体…!?」
老人にスティーブとウィルがすがり付こうとするが、諦観した老人は高笑いをしながら、衛視に連れられて退場した…
※ ※ ※
「ま…まあ、ともかく一件落着だな。」
スティーブが強引にまとめた。
「そうだね。エリナ…」
ウィルはエリナの肩に手を置こうとしたが…
「………っ!!」
エリナは身をよじった。
「エリナ………!?」
エリナの肩は震えていた。
老人はエリナに何もしなかった。エリナは何もされなかった。だが、並の男なら、女が傷物になったと考えても仕方のない状況だった。もし、この事が原因で、ウィルの心が離れたら…何より、あんなひひじじいに何かされそうな状況に置かれた事自体、エリナは恐かった…
「エリナ…」
ウィルは、優しい男だった。その事を瞬時に察するだけの…
「エリナ…今すぐ、結婚式を挙げよう。」
「ウィル…!?」
彼女の心の傷を、少しでも癒やす。そのために彼が出来る事は、これしか無かった。
「世界中の人に、君が僕のお嫁さんだと宣言しよう。
君は僕のお嫁さんだ。誰にも文句も異論も言わせない!!」
「ウィル……」
エリナの顔が、若干和らいだ…
「でもウィル…じいちゃんの喪は…」
正論で口を挟むヴィッキーに、
「あー…それって…」
フィリップが更に口を挟んだ。
「…僕が死んだから、その喪で君たちが、ずっと結婚式を挙げれなかったって事!?」
「はい…」「うん…」
ウィルとヴィッキーが答えた。するとフィリップは、自分の胸を指差し、
「なら問題無い。この通り僕は生きている。喪は一時的に開けた!!今のうちに結婚式を挙げるがいい!!」
「「「え………!?」」」
一同は再び呆然となり、そして、ヒソヒソ話し始めた。
「でも…」「いや、あの人なら…」「そういう屁理屈は言うかも…」
「君たち僕をそういう風に見てたのか…!?」
口角をヒクつかせるフィリップ。これは屁理屈。ただし誰も不幸にならない…
「ウィルちゃん、私達、何日かしたら新大陸へ戻らなきゃならなくて、次はいつ来れるか分からないから、今、式を挙げるならその方がありがたいかも…」
テレサおばさんもそう言った。でも『ちゃん』はやめて。
「でも、ドレスやモーニングはともかく、今から会場や料理を手配するのは…」
スティーブが言うと、そこへ…
「おまちなさい!!」
声が響き、観音開きの玄関のドアが左右に開く。そこにいたのは、車椅子に座った…
「も…モリガン大奥様………!!」
パイライトの血族の一同が左右に分かれ、深々と一礼する中、車椅子を滑らせ凛とした面持ちで進むモリガン。そして、一番奥にいたウィルの前へたどり着く。
「ば…ばあちゃん…じいちゃんには悪いけど、僕は…」
「うぃる…これをごらんなさい。」
モリガンはウィルに、書類の束を差し出す。
「こ…これは、式場の手配に、食材、料理人に給仕の手配書、各方面への招待状!?しかも参列者にはテレサおばさん達の分まで入ってる…い、いつの間に…いや、どうして!?」
車椅子のモリガンは無言で、若い日のモリガンの前へ出た。
「………」若い日のモリガンは、驚きに満ちた目で老人のモリガンを見つめ、
老人のモリガンは、優しい目で若い日の自分を見つめた。
「モリガン…まさか、おぼえていたの!?今日の事を…それで、準備していたの!?このために…」
若い日のフィリップも、驚きの目でパートナーのエルフの少女を見つめた。
老人のモリガンは、優しい声で言った。
「さあ、はじめなさい。あなたたちのけっこんしきを!」
「エリナ…改めて、僕のお嫁さんになってくれますか!?」
ウィルはエリナに右手を差し出すと、
「………はい…」
少しはにかみながら、エリナは差し出されたウィルの手を取った。
※ ※ ※
ウィルとエリナの結婚式は、淀みなく進んでいった。
そして、新郎新婦とその一族の記念撮影…
本来この場にいない若い日のフィリップとモリガンは、撮影から外れた。
『しょうが無いから、カメラのシャッターを押そうか!?』フィリップはそう言ったが、スティーブに全力で阻止された。何故だろう…
しょうが無いから、離れた場所にある席から、撮影を眺めている。
「僕は、生きてこれを見る事は無いんだな…」フィリップが寂しそうにそう言うと、
「わたしは、このことをちゃんとおぼえていないと…」モリガンが言った。
「ん!?待てよ…モリガン、僕らは一体、いつの僕らなんだい!?君はいつから、こうなる事を知ってたんだい!?」
フィリップはそう問うたが、モリガンはにっこり微笑むだけだった。その笑顔の輪郭が、光りに包まれていく。気づくと自分の手も、光り、透け出した。
「ああ、僕らもここまでみたいだ…」
それからフィリップは、優しい声で歌い出した。
「Winde wehn, Schiffe gehn,(風が吹く、船が行く)
weit in fremde Land.(外国へ)
若い二人の、船出だ………」
フィリップとモリガンは、光の粒になって、消えた。
エルヴンブライド Side 僕はほんの少し魔法が使える 完
第11話(LightningS掲載予定)に続く。




