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僕はほんの少し魔法が使える  作者: 白洲詠人
2023年お正月スペシャル エルヴンブライド
57/69

1 僕が去った後で。

第2話 LightningS 〜僕はほんの少し魔法が使える・第三部〜 掲載

第3、4話 落星機兵ALLETS ~いじめられていた僕がロボットものの主人公になるまで~ 掲載


前書きのあらすじで可能な限り本物語だけで完結出来る様にします。

ある、麗らかな昼下がり、


一人の老人が、その生涯を終えた。


彼の生涯の伴侶である、老婆に看取られて…


ベッドの上の眠るような安らかな死に顔に、老婆は労う様に言った。

「あなた…おつかれさまでした…」


ベッドの側のテーブルには、小型額縁に入った写真(スクリーンショット)

若い頃の老人と老婆にそっくりな男女が、鎧を着て並んで映っている…


フィリップ翁、死去…


そして時は、ほんの少し遡る。

このSS(スクリーンショット)が、撮られた頃に…


     ※     ※     ※


パシャ!


シャッターの下りる音に、並んだ男女は口々にお礼を言った。


「ありがとうございます。」「ありがとー!!」


「いえ………」

シャッターを押したのは、金髪の美少女。彼女は微笑みながらカメラを2人に返す。


「すみません、突然こんな事お願いして…」

家族に送るSSを撮ってもらうために、行きずりの彼女に撮影を頼んだのだ。彼らが産まれる少し前に実用化されたカメラの使い方を、金髪の少女も当然知っていた。だが、そのカメラを現代に蘇らせたのが、今、目の前にいる2人の父親だとはさすがに知らなかったが…


「あなたも冒険者なのー!?」

2人組の男女のうち、女の方…プラチナブロンドの美少女が、屈託ない笑顔で訊ねた。


「え…あ、はい…ヒーラー、です…」

少女ははにかみながら答えた。彼女の母親は名のあるヒーラーで、母方の祖母もまたヒーラーだった。


「ふーん…それから…その耳…」

2人組の男女の耳は短く尖っており、金髪の少女の耳は、先端が少し尖っていた。


「はい…私、クォーターエルフ…」


「『ミックスエルフ』。それでいいよね!?」

そう言って男は笑い、少女の頬がほのかに赤くなった。『ハーフエルフ』が持つ差別的なニュアンスを考慮して、彼の父親が考案し、広めたエルフ系の混血の呼び名だ。


「ところでさー…」プラチナブロンドのハーフエルフ美少女がにんまりと微笑みながら言った。


「あなた、これから私達とパーティー組まないー!?弟も気に入ったみたいだからさー!!」

「ちょ…ね、姉さん!?」

男が慌てる。一緒に産まれた双子なのに、どうして彼女が姉で僕が弟なんだろう…


「はい…お、お願いします…」

そう言って少女は微かに頷いた。



双子のハーフエルフの、弟の名は「ウィル」、姉の名は「ヴィッキー」。


『境の村の奇跡』の英雄にして、魔動車両『ツァウベラッド』『ツァウベラウト』の発明者、フィリップと、エルフの女戦士モリガンの孫、『カメラ』の発明者、スティーブの息子と娘。


そして、金髪のクォーターエルフの少女の名は「エリナ」。


かつてスティーブとパーティーを組んでいた、ライオスとエミリーの娘である。


両親たちのかつての因縁を、3人はまだ知らない…


     ※     ※     ※


そして時が流れ、


『港街』に程近い浜辺…


「ん………」「………っ…」


人気の無い浜辺で、唇を重ねるウィルとエリナ…

浜辺に並んで座って、指と指をからませ、2人の長さの違う尖った耳が、上気してピコピコ動いている…


いくつかの冒険と心の交流を経て、2人は、互いに思い合う様になっていた。

あな恐ろしき執念ぞや。親の因果が子に報い…ウィルの祖父、フィリップはエリナの祖母、エレンが好きだった時期があった。その子供であるスティーブとエミリーの関係は言わずもがな。祖父と、父が為せなかったエレンとその血族への想いを、孫の代でついに遂げてしまったのだ。それにしても、フィリップは取っつきにくい男、スティーブもエミリーに振られてしまったというのに、孫はこれ(・・)である。今は亡きフィリップがこの光景を見たら、自分達の子孫にどうしてこんなまともに恋愛の出来る男が産まれたのかと首を傾げる事だろう。なのに顔は互いにそっくりだと言うのだから、ますます分からん。


誰も見ていない…そう思っていた。


パシャっ!! 「「!?」」


不意に切られたシャッターの音に、2人は慌てて離れ、恐る恐る後ろを振り向くと…そこにいたのは、カメラを構えたヴィッキー…


「ね…姉さん!?」「ヴィッキー姉様!?」


「ぬーっふっふっふ〜〜〜…」

いたずらっぽい笑みを浮かべるヴィッキー。エルフを『妖精』と表する向きもあるが、ヴィッキーは紛れもない妖精だった。頭に『いたずら好きの』が着く…


「いやー…ウィルにもこーんな可愛いお嫁さんが出来て、エリナちゃんが妹になってくれて、あたしも嬉しいよ〜〜〜。」


「ね…姉さん、ちなみにそのSSをどうするつもりなの!?」

これまで散々姉のいたずらを受けてきたウィルは恐る恐る訊ねた。50年前を知る者が見たら、フィリップとエレンのキスシーンを、カメラを構えたモリガンが目撃したという、その後血の雨が降るのが想像出来る光景にしか見えない。


「そうねぇ…使い道は色々と考えられるけどぉ…このSSを焼き増しして、2人のご両親に送ろうかしらぁ。きっと喜んで下さるわよ〜『じきに孫の顔が見られる』ってぇ〜〜〜」


「や、やめろ!!」「うちのお父さんは特にやめて!!最近ようやく受け入れてくれたみたいなのに…」


「あと、おじいちゃんの墓前に捧げようかしら…『わしの喪中に仲良くて結構』って、枕元に立ってくれるかも…」


「「それだけはやめて!!」」


カメラを掲げて逃げ回るヴィッキーを、追い回すウィルとエリナ。


もうすぐ2人は家族になり、この幸せがいつまでも続く。


そう、思っていた…

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