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僕はほんの少し魔法が使える  作者: 白洲詠人
2021年お正月スペシャル
56/69

胡蝶の夢 前編

こういう事をしていいのかどうか分かりませんが…

全部読んでたあなたは儲け物。

気がつくとフィリップは見知らぬ場所にいた。


ほぼ全てが木と紙でできた建物。


「ふぃりぽん、これ…」


彼の相棒である、エルフの美少女モリガンも狼狽している。一体どこだ、ここは…!?


「モリガン、この建物って…」

フィリップは訊ねた。フィリップにとって木製の建物と言えば王国を想像する。だが…

「えるふのたてものじゃないとおもう。」

確かに…これはエルフの王国の森と調和した様な建物とは違う。


一匹の蝶がヒラヒラと、2人の前を横切った。

見る角度で色が七色に変わる、不思議な羽をした蝶。

何となく目で追おうとしたが、次の瞬間にはどこかに消えていた。


「とにかく、辺りを探ってみよう。」

「うん…」


探検してみると、そこが思っていた以上に大きな建物である事が分かった。やがて見つけたのは…


広い部屋に、湯気を立てた水を一杯に張った場所。


「お風呂………!?」


部屋の壁には鏡が貼られ、管が何本も伸びていた。取っ手を回してみると、温かいお湯が出た。


「水道………!?しかもお湯が出る………!?」


ここは何だかおかしい。自分がいた世界より遥かに高いテクノロジーを持っているのに、わざと古めかしく造っている。


この大浴場の壁の一面は、何と巨大な一枚ガラスで作られていた。その一角にはドアが設えられており、外に出れる。そして、ガラス越しに見える外には、岩で出来た、大きな浴場。


「屋外に風呂を造ってるのか…!?理解できない。」

「そとへでてみようよ。」


モリガンに従って、ドアをくぐって外の風呂場へ出て、自分たちがいた建物を見てみる。案の定大きい。そして、古めかしいくせに、どうやって造ったのか理解出来ない所があちこちに見られる。


「ふぃりぽん、あれ…」


モリガンが天の一角を指差すと、そこにいたのは…


「巨大な………虫………バッタ!?」


正確には、バッタによく似た何か。魔法の生物か何か、か!?


「なにあれ、こっちくるよ!!」


果たしてそれは、フィリップとモリガンの目の前に降りてきた。なんとそれには、人間が乗っていた。そして、着地した巨大バッタから降りてきたのは…フィリップと同じくらいの年齢の、ヒューマンの女性。身体にピッタリとした、胸元や股ぐりの大きく露出した衣装を着た…いや、これはもう、『衣装』と呼べるのか…


「………」


フィリップがその胸元に見入っていると、不意に尻に激痛が走る!


ぎゅぅぅぅぅぅううううっ!!「痛っ!!」


モリガンが尻をつねっていたのだ。


「な…何すんだよモリガン!!」

「べっつに〜〜〜」


モリガンはぷいと横を向き、耳は怒りでピンと上へ立っていた。何なんだ、こいつ…


その半裸の美女は、そんな2人を見てクスッと笑うと、


「あなた達ね。ここへ迷い込んだのは…


アタシはウズメ。よろしくね。」


この人、左目に泣きボクロがある。フィリップは思った。


     ※     ※     ※


「つまり、あなた達は、本物のファンタジー世界から来たのね!?」

ウズメが言うと、フィリップは、

「その…『ファンタジー』ってのが何か分かりませんが、魔法がある世界から来たのは本当です。」

「ねー、ここどこー!?」

モリガンの素朴な問いに、ウズメは、

「ここは『閉鎖世界』…現実じゃない、仮想世界なの。」

「『ようせいかい』…じゃないのかな…」

「違うと思うわ。アタシの知り合いからの受け売りなんだけど、ここは、『時間的、空間的に、現実世界から独立した異世界』なんですって。」


「へ………!?」


モリガンはアーモンド型の目をクルクルと回して、両耳が半ばから下へ垂れ下がった。


「何ていうか…エルフのイメージとは大きくかけ離れた娘ね。」

「ええ。お恥ずかしい…」

「ぶーーーー」


「まあいいわ。話を元に戻すわね。ここからは、アタシの想像なんだけど…


現実世界から完全に独立している以上、他の異世界とも、デタラメにつながるんだと思う。それで、あなた達がここへ迷い込んだんだと思うの………ちょっと待って。テルが入ったわ。」


ウズメは虚空を見上げたまま、唇だけ動かしてる。まるでここにはいない誰かと話している様だ。


「てる…だって。」

「こっちにも似た技術があるのか…それにしても…

僕らの世界が、この人たちにとっておとぎ話(ファンタジー)だなんて…」


やがて話し終わったウズメは、

「……ごめぇん。別件が入ったの。あなた達が自分の世界へ帰る方法については、必ず協力するから。」


「分かりました。僕たちも、ここから出る方法を探してみます。」

そう言ってフィリップとモリガンは、『アイテムストレージ』から、『ツァウベラッド・ブラウⅡ』と『ツァウベラッド・ロートⅡ』を取り出した。


「ちょ………な、何よそれ…」

目を丸くして驚くウズメ。


「何って…『ツァウベラッド(魔動バイク)』。」


「魔法で動く…バイク…!?ファンタジー世界なのに…!?何てデタラメな………」


いや、魔法生物の巨大バッタに乗って、そんな格好してるあんたの方が、よっぽどおかしいよ。


「生憎だけど、ここは大きな川と山に囲まれていて、外へ通じる道が無いのよ。


『閉鎖世界』は三方を山脈に、北を湾で阻まれているんだけど、ここはその南西にある、更に外界から遮蔽された場所なのよ。」


「ツァウベラッドもさすがに空までは飛べないな…」


「と言う訳だから、アタシ、ちょっと行って来るね。すぐ戻るから…」


そう言ってウズメは、巨大バッタに跨る。その際、彼女の太ももが大きく持ち上がり、フィリップの目がそこに釘付けになる。


そして巨大バッタは再び空へ上がっていき、フィリップは再び、ムッとしたモリガンに尻をつねられた。


「痛ててててっ!!」

「わたし、あのひときらーい!!」

「と…とにかく僕たちも、ここから出る方法を探してみよう。」


     ※     ※     ※


しばらくその建物周辺を探索してみたフィリップとモリガンだったが、ウズメの言う通り、この建物は大きな川に面しており、周辺に外と繋がっている道はなかった。


「せめてこの川を渡る手段でもあればなぁ…」

「でもここ、すごくきれい…」

モリガンのプラチナブロンドの長い髪が、風に吹かれてたなびいた。

「……」

「ふぃりぽん、どうしたの?」


「え!?あ、いや、綺麗な髪してるなと思って。耳も…」


「ふーーーんだ!さっきはあのひとのむねばっかりみてたくせにー!!…あ!」

モリガンははるか上空を見上げた。エルフの彼女にはヒューマンのフィリップには見えない遠くが見通せる。

「どうした、モリガン?」

「ふぃりぽん、あのちじょ、またもどってきたよ…」


モリガンが空を指差すと、そこからまた、あの空飛ぶバッタが降りて来た。


「本当だ。おーーーい!!」


フィリップが手を振ってみると、空飛ぶバッタは急降下し始めた。


「あんた達ーーーーーーーっ!!!」


バッタの上のウズメは、何故だか怒っている。


「よくもアタシをたばかったわねーーーーーーー!!!」


「おーーー!!やるかーーー!!!」

モリガンは背中に背負っていたハルバードを抜き、フィリップはその剣幕から、話は通じそうにないと考え、『ブラウⅡ』をツァウバーフォームへ変形させた。


「このふぃりぽんはまほうがつかえるんだよーーー!!」


「ほんの少し、だけどな。」



続く


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