after3 僕達のエピローグ、この子のプロローグ・3
翌日、冒険者ギルド、『酒場』…
今日もアルバートは飲んだくれていた。
家にいてもエレンがうるさい、かと言って冒険にも出られない。酒で憂さを紛らわす以外に、することが無かった。
他の同輩たちも彼に近づかない様にしていた。カウンターの受付嬢も、心の中で、いなくなったオバチャンに助けを求めていた。
そこへ…
ポワポワワン…
不意にアルバートが、白い光に包まれ、彼の意識がクリアになる。
「な…何だ…!?」
魔法が飛んで来た。窓の…外!?
冒険者ギルドの、通りに面した窓の外には、『ツァウバーフォーム』に変形させたツァウベラッドが横付けされていた。
『ツァウベラッド・ブラウ量産型』。『ブラウⅡ』を更に改修した、正式販売モデル。言っておくが量産型が試作型より弱いのは、物語の中だけである。
「【キュアポイズン】…だ。」
『ブラウ量産型』の魔力増幅機能を用い、本来彼には使えない状態異常回復魔法を使い、ギリギリ魔法の射程内にいた、アルバートの体内の酩酊性の毒…酒を無毒化した。
周りでざわざわさわぐ冒険者や通行人を後目に、フィリップはツカツカとギルドの『酒場』に入って来る。
昨日までのツナギでは無く、1年半ぶりくらいの青い鎧姿だ。
「フィリップさん、これは…」
受付嬢が悲鳴を上げるが、フィリップは、
「治療行為だ!始末書が必要なら後で書く!」
と言い放った。
「な…何だよ…また俺を笑いに来たのか…!?」
状況が理解できないアルバートの目の前に、フィリップが立つ。
フィリップは思った。
(追放相手の凋落からの土下座という展開は、やっぱり無かったな………)
そして、
「冒険者アルバート…」
フィリップはアルバートに、深々と頭を下げた。
「頼む、お前の力を貸してくれ。」
「な…何の真似だ!?フィリップ!?」
今となっては社会的立場が天と地に離れてしまった若き工房長から頭を下げられ、困惑するアルバート。
「お前はこんな所で終わる男じゃない。お前の力が必要なんだ。」
「…奥の部屋を用意します。続きはそちらで…」
受付嬢が促した。
※ ※ ※
フィリップの話を聞いたアルバートは、
「…随分、高望みをしたもんだなぁ…」
と、漏らした。
「やるのか、やらないのか!?」
フィリップが問う。
「………」
長い沈黙の後、アルバートはようやくこう言った。
「ここでこうしていても、どうせ俺は、ゆっくり腐って行くだけだ…」
※ ※ ※
数日後、『境の村』郊外…
3台の『ツァウベラッド』が、そこに停まっていた。
1台はフィリップの『ブラウ量産型』、1台はモリガンの『ロートⅡ』、もちろん彼女は、トレードマークの赤い鎧を着ている。そしてもう1台はアルバートの『シュヴァルツ』…
ちなみに一家の財布を握るモリガンは、『ロート量産型』への乗り換えより、動態保存されていた『ロートⅡ』を使い続ける事を選び、アルバートの『シュヴァルツ』は、魔動エンジンとコンデンサをノーマルタイプに戻した。
スティーブはエレンの所に預けて来た。エレンには世話をかける事になるが、『亭主が元気に稼いでくれるなら』と、引き受けてくれた。
ギルドを退職したオバチャンも世話を手伝ってくれる。小さなスティーブから「ばあちゃん」と呼ばれて喜んでいた。昔からフィリップに良くしてくれてる。ありがたい事だ…
3人の眼前に広がるのは、『オーガ』や『トロール』が徘徊する、『海岸地帯』…
フィリップは思った。
(幸せな今は、いつか終わる。それに対して僕は、どうすればいいのか分からない。
分かる事は2つ…多分、立ち止まらない事と、僕の原点、『本物を妬み、紛い物の自分を嘆いていた時』の事を、忘れてはいけないという事。
僕がここまで来れたのは、モリガンのお陰だと思ったが、それだけじゃ足りなかった。
モリガンという理解者と、アルバートという敵がいたからだ。)
「戦闘時は、俺が指揮を執っていいんだな!?」
アルバートが問い、フィリップとモリガンが頷いた。
(だからアルバート…お前には、いつまでも、僕の人生という物語の、ふてぶてしい敵役であってもらうぞ!!)
そこへ、海岸の方から、2台のツァウベラッドが走って来た。
1台は2年前に王国に置いて来た『ツァウベラッド・グリュン』、乗っているのはナインだ。
もう1台は、ピンク色のドヴェルクタイプ、『ツァウベラッド・ピンク』。乗っているのは、ニェットだ。
「師匠!面白そうな事するんだったら、混ぜてくれよぉ!」
「お姉さま、私もこれ、手に入れました。」
2人とも、王国側から『港町』へ迂回して、合流してくれたらしい。
「お前たち…助かる!」
そして5人は、改めて眼前の人型モンスター達に向き直った。
それから5人は、『海岸地帯』のモンスターを退治して周り、その功績が基となり、後にフィリップは『海岸地帯』の知事と、一代限りの男爵に任命され、アルバートも最終的にランクBに昇格したが…それはずっと後の話。
その前に語られるべきは、今は共和国の街で彼等の帰りを待っている、幼子の物語。
どうか今しばらく、お付き合いを。
第三部へ続く。
えー…これが、今回、久しぶりに更新した理由です。
明日を目処に、フィリップの息子を主人公にした「LightningS ~僕はほんの少し魔法か使える・第三部~」を公開させていただきます。
これまでとはジャンルもテーマも異なりますので、別タイトル扱いとさせていただきます。
引き続きご笑覧ください。
白洲詠人
※ ※ ※
ツァウベラッド・ブラウ量産型
『ブラウⅡ』を更に改良した正式販売モデル。フィリップが搭乗したものは『工房長専用機』で、『アインビッシェンフォーム』が搭載されていた。
ツァウベラッド・ロート量産型
『ロートⅡ』を更に改良した正式販売モデル。いわば『パイライトカンパニー』のフラグシップモデルとなる物だが、モリガンがロートⅡに乗り続ける事を選んだため、作中未登場に終わる。




