表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/69

after3 僕達のエピローグ、この子のプロローグ・2

『飲んだくれの亭主をどうにかして欲しい。』モリガンを介してエレンから頼まれ、こうしてやって来た訳だ…


「へん………!お前だって、俺のパーティーから追放されてんだ。今の俺を見て、内心、『ざまぁみろ』とでも思ってんだろ!」

アルバートは悪態をついた。

「………!!」

かつてはフィリップも、アルバートを恨み、彼の凋落を願っていた。が…今更2年前の恨み節が叶っても、嬉しくもなんとも無い。

「ちっ………!何でこんな事になっちまったんだ………!!」

ボヤくアルバートに、

「………それは僕の台詞だ。」

小さな声でフィリップは言った。そして、

「いい加減にしろ………!父親が飲んだくれじゃあ、娘さんが可哀そうだ………!!」


「お前は利口だったよなぁ…いい時期に冒険者を辞めてよぉ…」

アルバートの悪態は止まらなかった。

「あーあ、同じ様な事をしたのに、お前は欲しい物を手に入れて、何で俺は全てを失………」


「………おい!」

フィリップはアルバートの胸倉を掴んで、その言葉を無理やり止めた。

フィリップの家へ遊びに来た時の、エレン母子の笑顔…あの2人の夫で父で、『全てを失った』とは言わせない!


それにモリガンは、フィリップと子を成す代償に、永遠の命を失っている。例え同族同志であっても…

「女が子を産むってのは、自分の命を分け与える行為なんだぞ…!!」


「………………何でその話が出るんだか分かんねぇよ…!」

アルバートは濁った眼と酒臭い息で、フィリップを睨んだ。


「く………っ!!」

フィリップはアルバートを座っていた椅子に突き飛ばし、

「………また来る…」

そう言って、ギルドの『酒場』を後にした。


     ※     ※     ※


「あんなあいつの姿………見たくなかった………」


ギルドからの帰り道、いつの間にか外は夕暮れ時になっていた。


(モリガンと出会ってから4年くらいか…結婚してから2年…4年前には想像もつかなかったなぁ…

僕が結婚して、子供が産まれて、おまけに冒険者としても英雄になって、工房まて持って…)


全て、モリガンと出会ってから、良い方向へ向かって行った。今の彼がいるのは、彼女がいたからだ。そして…


(…アルバートがああなるのも、想像出来なかった…)


あんな有能で、意識も高かった男が…

人生は何が起きるか分からない。正確には、破滅の前兆はどこかにあったのだろうが、常人には…少なくともフィリップやアルバートには、それが認識出来なかった。だから、人生は何が起きるか分からない。


(僕の今の幸せも、このままだと、いつか失われるのかな………!?)


なら、僕は、どうすればいいんだろう………


不意に、大通りの門の方から、2台のツァウベラッドが走って来た。戦士と魔法戦士。ツーマンセルだろうか。『パイライト』によって一般化した冒険者スタイルだ。


(あれもうちの工房製だな…ブラウとロート…いや、シアンとマゲンタ…!?)


『ツァウベラッド・マゲンタ』と、『ツァウベラッド・シアン』。ユーザーからの多様なニーズによって生まれた、『ツァウベラッド・ブラウ量産型』と『ロート量産型』の、カラーバリエーション。赤い魔法陣可変型と、青い走行特化型。


(………!?)


何故か、2人と2台が、『ブラウ』に乗り、青い鎧を着た自分と、『ロート』に乗り、赤い鎧を着けたモリガンに見えた。『パイライト』だった頃の自分たち自身が、近づいてきて…


今、すれ違った。


(!?)


後方へ走って行った2台に、思わずフィリップは振り向いたが、走り去って行ったのは、やはり『シアン』と『マゲンタ』の、見知らぬ2人だった。


     ※     ※     ※


フィリップの家…


「ただいまー…」

フィリップが入り口のドアをくぐると、


「おかえりなさいー」

モリガンの声がした。そして…


「おかーりー。」

そう言いながら、2人の息子、赤ん坊のスティーブがてちてちと歩いて来た。


「おースティーブ、ただいまー。父さん帰って来たぞー。」

スティーブを抱き上げ、あいさつ代わりに短くとがった耳をこちょこちょといじると、くすぐったそうにスティーブは笑った。


あーもう、可愛いなぁ、この子は…!!


ついこの間、立っちが出来る様になった。その少し前に、つかまり立ちが出来る様になった。その前は はいはい…日が経つにつれて成長して行き、昨日の姿は、もう今日見る事が出来ない。この姿も、成長によってすぐに見られなくなるだろう。


「あーー、今のお前の姿を、何かに描き留めておく事が出来たらなーー!!」


するとスティーブは、「あーーーーーい!!」と、元気よく返事をした。


「すてぃーぶが、『まかせろーー』って。」

モリガンが通訳する。


「ははは…期待してるぞーー。」

フィリップは微笑みながら言った。


「すぐごはんにしますよー。」

そう言ってモリガンが、奥のテーブルに、骨の周りに丸く肉が着いている、例の肉を並べていた。


(今がどんなに幸せでも、それをつなぎ留めておく事は出来ない。

次に訪れるのが別の形の幸せなのか、不幸なのかは分からないが…

とにかく、状況はいつか、必ず変わる。)

なら、僕は、どうすればいいのか…アルバートの事も…


「ふぃりっぷ…『さかいのむら』のそんちょうさんから、にもつがとどいたわよ。」

モリガンは言った。


「そうか…お礼をしないとな…」

荷物は馬鈴薯だろうか。南方の『新大陸』から伝来し、『海岸地帯』の各地で栽培されている穀物。

「あっちだって、食うのがやっとのはずなのに…」


「まわりにもんすたーがいっぱいで、たいへんなんだって…」

モリガンが言った。


「それは問題だな………」

フィリップが呻いた。


あれから…人型モンスターの大量発生は沈静化したが、共和国のオークと、王国のゴブリンは、少数だが土着化した。繁殖力の高さから、完全排除は困難だろう。

そして…『海岸地帯』には、大型の人型モンスターが、各地から集まって来た。結婚前の最後のクエストで出会った、『ジャイアント』や、『オーガ』『トロール』と名付けられた種族…


『海岸地帯』の人々は、安全を保障してくれる存在を必要としている。


だが、それには、『海岸地帯』の領有問題を何とかしなければならない。『何とか』とは、王国か共和国か、どちらかの領土にすれば良い訳ではない。

共和国領になればハーフエルフ達が、今の様に王国領のままだとヒューマン達が、不自由な思いをする。

両方の国から信頼されている、ヒューマンとエルフ両方の事を想いやれる誰かが、そこの領主になれば………でもそんな人間…


………いや、一人だけ、その候補にフィリップは心当たりがあった。だが、それには何年かかるか…


かちゃり………


王国とハーフエルフの問題を解決した時もそうだが、複数の問題を抱えた時、それらを組み合わせて解決しようとするのは、フィリップの悪い癖だった。だが…


いつか変わってしまう家族の姿と、アルバートの現状と、『海岸地帯』の窮状と、それらがまた、フィリップの中で一つに嵌った。


「………モリガン…」

フィリップは言った。

「……以前、お前も言ってたが、冒険者に復帰しないか!?」


「え………!?」

目を丸くし、極力優しい声音で言うモリガン。

「すてぃーぶのことは、どうするの!?それから、こうぼうのことは…!?」


「全部やる。どれ一つとして、中途半端にしない。」

きっぱりと言うフィリップ。


「…………なるべく、すてぃーぶのところへかえってあげるようにしましょう。」

モリガンは、折れた。

「わたし、きめてたんだ。これからのなんじゅうねんかは、いままでのなんぜんねんよりも、ずーっと、たくさんのことをしようって!」

ツァウベラッド シアン、マゲンタ


ツァウベラッド・ロート量産型とブラウ量産型のカラーバリエーション。青い走行特化型と赤い可変機。


なお、ネーミングがしにくくなるため、以降の新型機から、ツァウベラッドに色名を着ける事は無くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ