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after3 僕達のエピローグ、この子のプロローグ・1

冒険者になり、仲間とともに、叙事詩(サーガ)に謡われる様な冒険や、神話・伝説に登場するモンスターを倒し、英雄になっていく。


俺の隣りには惚れた女。日が昇れば共に戦い、日が沈めば共に昼間狩った獲物を食らい、夜はその女を抱いて…


…そういった展開は、どうやら物語の中にしか無いらしい。


今、俺の座っているテーブルの横を、笑いながら通り過ぎて行った一団が、俺の元パーティーメンバー達だ。


そして、俺の惚れた女は…


俺は、一人になった…


「…バート、アルバート!!」


フィリップの野郎が俺に声をかける。うぜぇ…


「アルバート!!」


     ※     ※     ※


「てめぇアルバート!!僕のモノローグを勝手に盗用するんじゃねぇ!!」バッチーーーン!!「ぐぇっ!!」


フィリップに叩かれてアルバートは悲鳴を上げた。

ここは共和国冒険者ギルドの、『酒場』、フィリップとモリガンの結婚式から、2年後…


「てめぇフィリップ!!他人様の心の中を読むんじゃねぇ!!」

アルバートは叩かれた頭を手で押さえながら叫んだ。


「読んでねぇよ!!分からい!そういう目をしてる奴の考えてる事なんざ!!」

フィリップも叫んだ。そう、フィリップにも、こんな目をしてる時期があった。

「お前、冒険者だろ!何してんだよ!!こんな昼日中から、こんな所で………」


アルバートからは酒の匂いが臭いくらいにしていた。自分もあの頃、酒が飲めたら、こんな醜態を晒していたのかと、フィリップは内心、頭を抱えた。


こんな時、オバチャンがいたら、叱り飛ばしてくれるのだろうが、彼女は高齢を理由に、ギルドを退職した。


「お前こそここで何してんだよ!もう冒険者辞めたんだろ!!」

アルバートの言う通り、今のフィリップは、かつてトレードマークだった青い鎧ではなく、ツナギ姿だ。

フィリップは今、冒険者を辞め、魔道バイク『ツァウベラッド』や、魔動四輪車『ツァウベラウト』を製造・販売する工房、『パイライトカンパニー』の工房長をしている。


「仕事だよ。お前の事はついでだ。」

今、ギルドの外には、頑丈そうなピカピカの、新車『ツァウベラウト』が止まっており、その周りを6人の冒険者が取り囲んでいる。

「すげぇ…とうとう手に入れたんだな、俺達…」

「早速これ乗って、どこかへ行ってみるか!?」


7人乗りの大型ツァウベラウト、『ティーガー』…冒険者御用達の車両だ。

彼等はかつて『パイライト』が、ホブゴブリン3体に全滅させられかけていたのを助けたパーティーだ。

あれ以降仲良く順調に戦績を積み、ランクCへ昇進、お金を貯め、素材を納入の上、今回のご購入となった。


「へっ…!!商売繁盛でうらやましい事って!」

アルバートは皮肉たっぷりに言った。


嘘だ。新車の納車は、工房長でなければ出来ない仕事ではない。専任の職員がいるのだが、わざわざ代わってもらった。「ついでの用事」こそが、本来の用事だった。


「儲かってるんだったら金くれよ!」

みっともなくもそう言うアルバートに、

「昔のお前だったら、『クエストくれ』と言ったぞ。」

と言うフィリップ。


「うるせぇ!!」

アルバートは叫んだ。

「知ってるだろ!俺はもう、昔みたいな働きは出来ないんだよ!!」


アルバートのパーティーは、解散したのだ。


     ※     ※     ※


2年前、フィリップとモリガンの結婚式の日…


フィリップがアルバートとナインから、手荒な祝福を受けていた時、モリガンはエレンと、何やら話しをしていた。エレンは深刻そうな表情で、時折涙ぐみながら…

どうやらあの時、モリガンはエレンから相談を受けていたらしい。

『アルバートの子供を妊娠した。彼に話したら捨てられるかもしれない。』

と…

『あたしにまかせてー』

モリガンはいつもの調子でそう答えたらしい。そして、あの世界初の『ブーケトス』が行われた。


「これ、うけとったひとが、つぎのはなよめさんだよ!!」

そう叫んでモリガンはブーケをエレンに投げ、それを受け取ったエレンはこの事を使ってアルバートに懐妊を告げた。


真っ青になったアルバートは『ツェウベラッド・シュヴァルツ』に乗って逃げようとする。が、

「動かん………」


「動くわけ無いよぉ…」

『ツァウベラウト』の運転席でフィリップが言った。

「だから反対したんだよぉ…大型の魔動エンジンを積むのに、コンデンサの容量を削るのは…」


『シュヴァルツ』は出力強化のため大型の魔動エンジンを搭載し、そのスペースを確保するために、コンデンサを小型の物に換装したのだ。

もちろんアルバートは指示を出しただけで、実際に改造したのはフィリップ、そしてフィリップは一度は反対した上で、最終的にオーナーの指示に従った。

エレンを後ろに乗せた上で、スピードを確保するための処置…だが、そのために、エレンの魔力供給無しではまともに走れない機体になっていた。

「誰のおかげで走れてたのか忘れちゃあお終いだ…ん!?」


『シュヴァルツ』をあきらめたアルバートは、今度はこっちへ走って来た。『ツァウベラウト』を乗っ取る気だ。

しかしそこに、ウエディングドレス姿のモリガンが立ちはだかる。


「どけぇぇぇぇぇ!!」

モリガンを横へ除けようと手を伸ばすアルバート。

「あのバカ………!!」

もしモリガンやお腹の子に何かあったら、お前を許さないからな! だが…

「えい!」

モリガンはその手を掴んでストン!とアルバートを転がす。

「お前、大事な体なんだから自重しろーーーー!!」

フィリップがボヤく。


地面に転がるアルバートに、エレンがツカツカと歩み寄る。


「え…エレン…これは…」


何か言い訳しようとするアルバートに、エレンは冷ややかな視線で言った。


「もういいです、アルバートさん(・・・・・・・)。この子は私が一人で産んで、育てますから、あなたはどうぞご自由に。」


女が、母親になった瞬間だった。エレンはアルバートの側から求婚される形で彼と結婚し、モリガンからやや遅れて女児を出産した。


だがこれが、アルバートパーティー解散の原因となった。


ヒーラーの離脱、それもリーダー自身による妊娠が原因…このせいで、いくつか引き受けていたクエストをリタイヤせざるを得なくなった。


重戦士のチャーリーと魔法使いのベティが脱退した。

これまで冒険者として意識の高いアルバートに心酔していた事もあり、たった一度の失敗が、彼等には許せなかった。

フィリップとモリガンの結婚式で見せた醜態も、大きな原因だった。

妊娠させた女から逃げて、返り討ちに会ったとはいえ、妊婦を突き飛ばそうとしたのだ。

同じ男として、同じ女として、2人はアルバートを許せなかった。


落ち目のアルバートを、ダスティーと、王国から連れて来た騎士エルフも見限った。

ダスティーはチャーリー達に拾ってもらい、王国へ行く前に離脱したフレッドも合流したらしい。

一時期、『酒場』で回復魔法の初等教本と取っ組み合うベティの姿が見られた。

そう言えばさっき、『酒場』を横切ってギルドから出ていった。上手くやっているらしい。


そしてチャーリー達は『ヴァイス』と『ドライ』も持って行った。

フィリップの工房にも、メンテナンスのために時々持って来るが、大事に乗ってくれている様だ。

だが、アルバートにとっては、自分から奪われた感じがした。

彼に残ったのは、ローンの残った『シュヴァルツ』だけ…それすらも、エレンがいないためまともに動かないのだ。


今更新規メンバーを募集するなり、他のパーティーに入るなりしようにも、アルバートはこれまで、彼の望む高い能力水準を発揮できず、多くの追放者を出してきた事で敬遠されていた。

加えてあの不祥事で彼の評判は地に落ち、最早、彼のパーティーに入ろうとする者も、彼をパーティーに入れようとする者も、いなかった。


余談だが『パイライトカンパニー』では、『ロート量産型』のカラーバリエーションで、『シュヴァルツ』と『ヴァイス』の量産型も販売していたが、『シュヴァルツ』の販売台数が、他の色より抜きんでて低かった全くこれ誰のせいだ!?

こうして、クエストに出れない冒険者となったアルバートは、昼日中から、『酒場』で油を売っていた。


『わーっはっはっは!お前のパーティーはまた求人を出さないとなぁ!!』

…あの時はああ言ったが、笑い事じゃなかったと、フィリップも反省してる…

ツァウベラウト『ティーガー』


『パイライトカンパニー』社製、大型ツァウベラウト。

前列座席2人、中列座席2人、後列座席3人の7人乗り。


フルメンバーの冒険者パーティーの使用を想定して販売された。


出来上がった試作機の後列座席の狭さに、かつて冒険者時代、パーティーのお荷物として苦労したフィリップ工房長は、「これじゃ誰がここに座るかでパーティー内にいざこざが起きてしまう」と、再設計を命じ、その結果、ドワーフ驚異の技術力によって、大きくなりすぎない全長と余裕のある内部スペースとの両立が図られた。


ツァウベラッド シュヴァルツ量産型、ヴァイス量産型


走行特化型の『ロート量産型』の、黒と白のカラーバリエーション。

だが作中の通り、黒の人気が非常に悪く、パイライトカンパニーはこの対策として、白いペンキを大量購入したと言う。

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