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after2 僕達は5人になった・上

バキ………っ!!


伯爵に殴られたフィリップは2~3m後ろに吹っ飛び、


「ふぃりっぷ!!」

モリガンは悲鳴を上げた。


「お…お前………自分が何をしたか、分かっているのか!?」

興奮して肩で息をしながら伯爵は怒鳴った。


「ぞ…存じております…」

へたり込んだフィリップは殴られて口許から流れた血を右手で拭った。

モリガンの腕には、1歳くらいの赤ん坊が抱かれている。フィリップとの間に産まれた子供だ。

永遠の命を持つエルフが、ヒューマンなど定命の者と結ばれ、子を成すと、「寿命」が定まり、他の純血のエルフ達と、同じ時を生きられなくなる。例えそれが、血を分けた親子であっても…


「す…全て、モリガンから聞きました。」

フィリップはヨロヨロと立ち上がりながら言った。

「それでもなお…礼を欠く訳にはいかないと思い、ご挨拶に伺いました…」

そしてフィリップは、伯爵に向かって、深々と頭を下げた。


「お嬢さんを………僕にください………。」


ここは王都、伯爵の邸宅。フィリップとモリガンの「結婚」から1年半くらい経った頃である。

フィリップとの間に子を設け、駆け落ち同然で共和国へやって来たモリガンは、無事、出産を終えたので、両親にあたる伯爵夫妻に、これまでの非礼を詫びた上で、改めて結婚を許してもらおうと思って、ここを訪れたのだ、が…


「………もう是非も無い所まで来ているのだ…分かっておろう…」

伯爵は無理やり平静を取り繕って言った。

「幸せにします…必ず添い遂げます…」

フィリップは頭を下げたまま言った。彼がモリガンから奪った物は大きすぎた。

その言葉通り、彼は一生浮気をしなかったと言う…

「…男が女にしてやれる事なぞ、元よりそのくらいしか無い…」

伯爵はフィリップの肩を上げ、

「それで…婿殿…」

娘婿の名前が自分と同じだと、呼び方にも苦労するが、ともかく、伯爵は言った。


「その子の名前は………!?」


モリガンの腕に抱かれている、耳が少し尖った赤ん坊。男の子だ。

伯爵の妻のオリヴィアが顔を近づけると、キャッキャッと笑った。

「『ままがふたりいる』!?ちがうよ。そっちはばぁばだよ。」

モリガンが赤ん坊に言った。彼は母親にそっくりなオリヴィアを、一目見て気に入ったらしい。


「『スティーブ』…です。」


息子に自分の祖父の名前を着けるフィリップのオリジナリティの無さについてはこの際置いておこう。とにかく…


「………………」

スティーブを見つめる伯爵の瞳が、段々と潤んで来た。

『スティーブ』…もう会えない異国の親友の、ひ孫…しかも同じ名前…

スティーブが帰って来てくれた…しかも自分自身の血も受け継いで…


「抱いて………みてもいいかね!?」

伯爵は恐る恐る聞いた。


「もちろんです。お義父さん。」


モリガンからスティーブを受け取った伯爵。そして………


「ギ ャ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ !!」


それは…ワーン…とか、エーン…とか言う、生易しい物では無かった。

伯爵に抱かれたスティーブは、ギャー…と、焼け火箸に突かれた様な悲鳴を上げた。


「お…おい…これは一体どうしたんだ!?モリガン!?お、オリヴィア!?」

子育てなぞ何千年もしたことの無い伯爵は、どうしていいか分からずあたふたしていると、


「『ぱぱをいじめるわるいひと、きらい』って。」

モリガンが言った。

「あなたさっき、婿殿を殴ったのを見ちゃったから…」

オリヴィアが付け加えた。


「え………」

意外な二人の言葉に、伯爵は、努めて穏やかな口調で

「そ…そんな事は無いぞ…じぃじとパパとは仲良しだぞ。な! な!!」

と言い、

フィリップと握手をしてみたり、肩を組んでみたり、頬をくっつけて見たり…さすがに少し気持ち悪い…して、ようやく、伯爵の腕の中のスティーブは、キャッキャッと笑った。


「『じぃじだいすき』だって。」

モリガンは言った。そして…


十二氏族の一席に数えられる、誉れ高き伯爵は、顔と、耳の先端をデレーーっと、見るも無残に崩して…


「決めた!」

と、高らかに宣言した。

「この子が成人した暁には、私の家督を譲…」「えい!」ポカッ!「痛っ!!」


宣言は途中でブッた切られ、オリヴィアがどこからともなく取り出した、骨の周りに丸く肉が着いている例の肉を取り出して夫の頭を叩き、伯爵は悲鳴を上げた。

ちなみにオリヴィアは冒険者では無いので、かつてのモリガンの様に、『アイテムストレージ』は持っていない。一体どこから出したのか…


「あなた…いつも申し上げてるでしょう………あなたは短慮だって………」

オリヴィアはニコニコと微笑みながら言った。

「す…すまん…」

骨付き肉を頬にグリグリと押さえつけられ、小さくなる伯爵。

フィリップは己の数十年後の姿を見た様な気がして、頭が痛くなった。

そして伯爵は、オリヴィアに責められて小さくなりながらも…

(私はあきらめんぞ…20年後、どうせあの子はあのスティーブそっくりになる!)

「それに…忘れたのかしら!?あなたには既に、孫どころか、ひ孫、玄孫までいるという事を…」


「その事なのですが…」

オリヴィア義母さんは助け舟を出してくれたのだろうか…


「一つ、提案があるのです…まずは、お庭に来ていただけますか!?」

ツァウベラッド・グリュン:


ナイン搭乗のツァウベラッド。所謂オフロードバイク。カウルの色は緑色。

フィリップが王国滞在中に、ナイン達に極秘で開発を進め、王国出立直後に彼に託された。

確かに不整地の多いこの世界では、オフローダーの実用性は高いが、既に高い実績を持つロート系ではなく、オフローダーを与えた理由は、ドライバーの性格との関係にフィリップの他意があるのかは不明。


いずれにせよ、本機は以降、『ダブル・ディナイ』の象徴として活躍するが、案の定ナインの荒っぽい運転が後ろに乗っているニェットには不評で、彼女は後に『ツァウベラッド・ピンク』を購入。


なお、ナインはテストパイロットという位置付けだったが、後にお金を貯めて本機を購入し、自分の物とした。

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