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after1 僕達のそれから・下

結婚式の後、オヤジさんとナイン、ニェットは、数日間、共和国に滞在し、その間ナイン達は『腕試し』と称して、こちらのクエストを何件かこなしたらしいが、その後王国へ帰って行った。もう向こうに、彼等がいなければ回せない仕事があるらしい…


     ※     ※     ※


時が駆け足で流れた。


約半年後、モリガン出産。男の子だった。フィリップの喜びようと言ったら無かった。

1か月後にエレンも出産。母親同士の仲が良かったため、アルバートとは家族ぐるみの交際が始まった。


ツァウベラウトに乗って王国へ行き、息子を伯爵に会わせた。

フィリップは伯爵に殴られたが、伯爵は可愛い孫に破顔した。

そして…余計なお世話と知っていたが、伯爵夫妻をツァウベラウトに乗せ、『境の村』へ行き、ずっと行方不明だったニールと、親子4人の再会を果たさせた。

ニールはその数日後、思い残す事を全て果たしたかの様に、息を引き取ったらしい。


更に1年後、モリガンとともに冒険者復帰。赤ん坊をオバチャンに預けて、2人は、冒険者と、工房長夫妻と、親との3役を忙しくこなした。


丁度その時、『海岸地帯』に多くの巨人型モンスター…トロール、オーガ、ジャイアントと名付けられた…が集結していたため、2人は拠点を港町に移していた。


そして、モリガンの第二子の妊娠と同時に、2人は冒険者を引退。

ツァウベラッドと、ツァウベラウトは、フィリップの工房、『パイライトカンパニー』で量産され、共和国と王国の人や物品の運輸に革命をもたらした。


やがて2人の貢献が、共和国でも王国でも無視できない物になると、フィリップは二国に、ある提案をする。

共和国はフィリップを『海岸地帯』の知事に、王国はフィリップを『海岸地帯』の一代限りの男爵に任命し、二国の領土問題は玉虫色のまま解決する。


フィリップはそれまでに蓄えた莫大な私財を投じて『港町』を改修、冒険者ギルドの支部を招致し、港の大改修を行う。

『港町』は高ランク冒険者の拠点となり、周囲の安全が確保された上で、南の大陸からもたらされた珍しい物品を求める人々で賑わう様になる…


晴れの日ばかりでは無かったが、嵐の夜も、皆で切り抜けて来た。


更に、時が駆け足で流れた…


     ※     ※     ※


「………まさか孫まで、冒険者になるとはなぁ…」

ベッドの上で半身を起こした老人が呻いた。

「危険な仕事だから止めろと言ったのに…」


「あら…わたしはわかっていましたよ。」

ベッドの脇のエルフの老婆が返した。

「だって、あのころのことをはなすあなたって、ほんとうにたのしそうでしたから…」

言われて老人は更に不機嫌な顔になった。


2人の手元には、若いころの2人にそっくりの男女が描かれた絵。二人の孫だが、絵の中の男女の耳は、わずかに尖っていた。

ベッドの脇に座っている老婆をはじめとして、彼等の親族にはエルフやその血を引いている者が何人もいるのだ。


その絵も普通の絵では無かった。『スクリーンショット』。本物そっくりの、まるで生きている様な絵を記録できる魔法道具。ちなみにこれは、数年前に孫たちがギルドに入隊した時に撮った物だ。

工房『パイライトカンパニー』を継ぐ事を嫌い、冒険者になった老人と老婆の息子が、どこかの太古の遺跡から見つけて来て、復元させた技術が、冒険者の間であっという間に普及したのだ。

老人は自分の意に反した息子に怒ったが、彼の功績は認めざるを得なかった。

後に息子は自身が作った工房を、『パイライトカンパニー』のスクリーンショット部門として併合させる。

兄の作ったスクリーンショットに興味を持ったのは2人の第二子…娘だった。

彼女もまた、工房長令嬢としての平穏な生き方を好まずに冒険者となり、自作した『ツァウベラッド』に乗って、世界各地を旅して回り、行く先々で自身の姿と共に『スクリーンショット』を撮って書物として出版し、ベストセラーになった。

その書物は、ツァウベラウトの普及に伴って増えた交通事故を、発明者である老人のせいにする風潮を鎮め、人々に魔動車両に乗って旅をするという基本的な事の楽しさを思い出させた。

家長の意にそぐわなかった、自慢の子供たち、そして、孫たち…


「いっそ、わたしたちもぼうけんしゃとしてふっきしますか!?」

無邪気に問う老婆に、老人は、

「無理に決まっておるじゃろう…お前、何年も前に、腰をやったじゃろう…」

「そうでしたねぇ…」

老婆は穏やかに言ったが、身体の健康という点では、老人の方がよっぽど深刻だった。

彼はもう、ベッドから立ち上がる事が出来ないのだ…


老婆にベッドに横たえてもらう老人。

窓からは青空に太陽が暑いくらいに照っている。

なのに風が強いのか、震えるくらいに寒い。

あぁ、今日は、暑くて、寒い日だ…


「おい…」老人は老婆に言う。「疲れた。少し休む…」そう言うと、老人は両眼を閉じた。「はい…」老婆や柔らかくそう答える。


一番弟子は不肖の男だった…冒険者引退後、『海岸地帯』の西側に広大な土地を買い、入植、そこに大勢のハーフエルフ達が集まり、『迷ひ家の村(後に、迷ひ家の街)』を設立した。

が、生前にいかなる業績を積もうが、師匠より2年であるにしろ、先に逝ったは何事にも許し難い逆縁だ。会ったら叱ってやろう…


「………ありがとうな…」


老人の唐突なその言葉に、老婆は

「あなた…」

と、呼びかける。が、もう返事は無い。

「あなた………!!」


老人は、眠っていた。まるで、眠る様な、安らかな、顔…


老婆は、静かに言った。


「………おつかれさまでした…」

今回の書き直しに合わせて、『ある台詞』を追加しました。

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