僕は…(最終話)
あれから、王国と共和国の、冒険者どうしの交流が始まり、共和国にもエルフの冒険者が流入して来た。
王国の冒険者ギルドも、大勢の冒険者で賑わい、日々、住人のために戦い続けているらしい。
そして、『魔法戦士』等、万能タイプのバトルスタイルや、これを取り入れた、ツーマンセル等の少人数編成も、見直される様になった。
だが、それらの立役者である2人の冒険者は、『遺跡』の探索の翌日、共和国と、王国のギルドで、各々、冒険者を引退した。
最終ランク、B…結局2人は、その腕を買われて、ギルドの要望で、予備役に留まった。
※ ※ ※
3か月後、共和国、冒険者ギルド………
「……ップ、フィリップ!!」
オバチャンがフィリップに言った。
「あんた、昼日中からこんな所で何してんだい!」
「別にいいだろう!?僕は冒険者を辞めたんだから………」
僕はそう答えた。
「だったら尚更、何でここにいるんだい!?」
「うるさいなぁ…僕がいなくても工房は回るんだよ。もう放っておいてくれないか!?」
「フィリップ………」
オバチャンはまだ何か言いたそうだったが、
「しょうがないですよ…色々あったみたいですから…」
受付嬢がオバチャンを止めた。
冒険者を引退した後、僕は、これまでに貯めた金を元手に『ツァウベラッド』の工房を作った。
ドワーフ達への『貸し』を使って、王国のドワーフ達を職人として共和国に招致、雇用し、『ツァウベラッド』や、足こぎ式二輪車を量産、販売した。
また、『遺跡』から持ち帰った多人数運搬用の4輪型の乗り物も、ツァウベラッドのノウハウを流用して復元し、『ツァウベラウト』と名付けた。
3日前、『ツァウベラウト』の試作1号車が、アルバート達のパーティーを護衛に従えて、共和国-王国間の試験往復運転に出発し、今日、戻って来る予定だった。
だが…到着予定時刻を大幅に過ぎても、『ツァウベラウト』は現れず、しびれを切らした僕は、後を他の者達に任せて、ここで油を売っていた。
工房の立ち上げや、『ツァウベラウト』の開発で、日々、忙しく働いた。そうする事で、忘れられる事もあったから…
でも、その忙しい日々が一段落し、全てが軌道に乗ると、待っていたのは…底知れない喪失感だった。
冒険者を辞めてアイテムストレージを返納したので、壊れた『ブラウⅡ』の残骸と、モリガンの『ロートⅡ』は、工房の隅で埃をかぶっていた。
『いずれ修理する』という事を周囲への言い訳に、誰にも手を触れさせず、さりとて僕自身、見ただけで、あの日々の事を思い出させるため…放置されていた。
モリガンに会いたい…あの天然で、能天気で、お日様の様な笑顔を見せるエルフの少女に触れたい…
ほら見ろ。希望なんか持っちゃいけない。必ず裏切られる。
異なる国や種族の男女が出会い、産まれた国や種族の垣根を越えて結ばれ、末永く共に生きる…そういった展開は、どうやら物語の中にしか無いらしい。
国や種族の違う男女は、その国や種族の違い故に引き裂かれて、結ばれる事は無い。それこそ、魔法みたいな事でも起きない限り…
僕はまた、一人になった…もうずっと、一人でもいいや…また、あんな思いをするくらいなら………
カラン!ギルドの表のドアが開く音がした。
「いらっしゃ…」
…オバチャン、台詞最後まで言えよ…
「フィリップ………!あんたにお客さんだよ!!」
興味が無いので聞こえないふりをした。そこへ…
「やっぱりこんなところにいたーー!!」
………聞こえて来たのは、ここ3か月間、ずっと聞きたかった声。
「モリガン………」
振り向くとそこにいたのは、恋焦がれていたエルフの美女。
プラチナブロンドの髪が伸び、出会った頃と同じ長さになった…
「こんなところでなにさぼってるの!?
あなたこれから、いままでいじょうにしっかりしなきゃいけないのに…」
モリガンは呆れたような声で言った。
「あたし達は用事を思い出したから…」
「ごゆっくり…」
オバチャンと受付嬢は奥へ引っ込んで行った。
「ど………どうしてここに!?」
僕が問うと、
「おうこくにきた、『つぁうべらうと』って、ふぃりっぷがつくったんでしょ!?むりいって、あれにのせてもらってきたの。」
到着が遅れたのはそのせいか…
「お前…家へ帰ったんじゃ無いのか………!?」
「でてきちゃった。」
「はぁ……!?」
「おとうさまたちと、いっしょにすめなくなっちゃったの。」
そんな簡単に…
「でもこれで、ふぃりっぷといっしょに、おばあちゃんになっていけるね。」
モリガンはにぱぁっと微笑んだ。
「あのおうちで、いっしょにすませてね。ただし、かぞくがふえるんだから、やくそくどおり、もっとひろいおうちにすもうね。
ぼうけんしゃも、ふぃりっぷがつづけるなら、わたしもやるよ。でも、2ねんはおやすみさせてね。」
「分からないよモリガン…一体何があったの!?」
フィリップは突然の展開に目を白黒させた。
「あなたがわたしにまほうをかけてくれたのー。」
それからモリガンは、少し顔を赤らめ、自分の下腹部に、愛おしそうに両手を当てた。
全てを理解した僕は、みっともなくもボロボロと涙を零し、そして、僕の胸に飛び込んで来たモリガンを、優しく抱きしめた。
僕はほんの少し魔法が使える
完
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白洲詠人




