僕はとっておきの魔法を使った。
部屋に入って来たのは…身の丈5mはある、巨人!!そして………目が合ってしまった。
フーーーーっ!!フーーーーーーっ!!!
フィリップ達を見て興奮している巨人。
フィリップは気づいた。さっきの疑問の答えに………
ランダム召喚の末、遺跡内に、こいつが召喚され、さっきの人物はこいつに殺され、遺跡もこいつに壊された………!!
「U………UGO………!!」
巨人に見下され、フィリップは言った。
「モリガン…クエストはここまでだ………逃げるぞ!!」
「う………うん………」
フィリップとモリガンは、巨人の脇をすり抜けて、部屋の入り口から出て行った。
「UGO---!!」
入って来た廊下を、大急ぎで駆けて行く。
後ろで巨人の雄叫びが聞こえる。
ズシンズシン言う足音も聞こえており、追いかけて来ている様だ。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ………」
ようやくの思いで、遺跡の入り口まで戻った。既に日は暮れようとしていた。
「あ…あの入り口を、巨人の身体じゃあ抜けれないはず…」
そう思ったが………
ズーーーーン……… ズーーーーーーーーン………
入り口の壁が震え、徐々にひびが入って行った。内側から体当たりをしているのだ。
「あれじゃあくずされるーーー!!」
モリガンが叫んだ。
「も………モリガン…」
伯爵からのクエスト指令書。実はフィリップの物だけ、最後に一文追加されていたのだ。
「………お前だけでも、逃げろ!!」
………その一文とは、『有事の際には、モリガンの生命を最優先せよ』、である…
「ふぃりぽん…いったよね。ぼうけんにいくときは、わたしもつれていけって………」
…どうやら相棒は彼だけを置いて逃げてはくれないらしい。
「それに…あいつほうっておくと…」
「ああ………」
フィリップには分かっていた。もし、2人そろってここから逃げても…あいつは閉鎖空間に召喚の後、何日も閉じ込められていて、空腹だ。
そして2人は、巨人に遺跡の出口を教えてしまった。
あの入り口が崩されたら、巨人は外へ出て、近隣の村を襲ってしまう。
「あいつは、ここで倒さなければならない………」
「ふぃりぽん……まほうは………!?」
「………とっておきの魔法が残ってる。」
「じゃあそれつかおう…」
「ああ………」
やれるはずだ………あいつは空腹で弱っている上に、体当たりで壁を破壊したダメージも負っている。
ズーーーン!!ズーーーーーン!!!
遺跡の壁のひびが徐々に大きくなっていく中、まず、フィリップは、アイテムストレージから『ツァウベラッド・ブラウⅡ』を取り出し、『ツァウバーフォーム』に変形させる。
『ブラウⅡ』の右ハンドルのフォームチェンジスイッチは、これまでは”rad”と”zauber”の2つだけだったが、ドワーフ達の改造によって、もう1つ増えていた。
フィリップは『ブラウⅡ』から降り、サドルの裏に指を突っ込み、そこに隠されている安全装置ボタンを押しながら、変形スイッチを第3段階、”einbisschen”に合わせる。
フィィィィィィ………
『ブラウⅡ』の描く魔法陣の放つ光が更に強くなり、パカン、と、サドルが上がり、中から1つのサークレットが出て来る。
フィリップはそれを頭に装着し、額の紋章をクルリと1回転させる。
「………っ!!」
不意にフィリップの頭がクリアになる。『ブラウⅡ』と彼とは、見えない糸の様な物で接続されたのだ。
そして、アイテムストレージから小瓶を取り出し、飲み干す。ナインが薬師からクエスト報酬にもらった魔力ポーションを、買い取っておいたものだ。
これまでの戦闘で消費した分に加えて、『アインビッシェンフォーム』の効果で一時的に魔力限界が増えた分も、魔力を回復させる。
ズシーーーーン!!!ガラガラガラ………
「U………GO…………」
丁度そこで、壁が崩れて、中から満身創痍の巨人が出て来る。
「………待たせたな………デカブツ!!」
フィリップは言った。
「ほんの少しの魔法、使い尽くすぜ!!!………」
それからフィリップは、
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
と、『ブラウⅡ』から離れて巨人に突進して行く。
「ふぃりぽーーーーーーん!!!」
彼の暴挙に声を上げるモリガン、
小馬鹿にした様な笑みを浮かべて、右手で薙ぎ払おうとする巨人。だが…
【アイン】!!
フィリップは叫び、左腕を立ててガードしようとする。巨人の腕とフィリップの細腕が衝突した時、まばゆい光が発し………砕けたのは巨人の右手の方だった。
「U……UGO………!?」
巨人が悲鳴を上げる。
発想の出所は、王国のギルドマスターや、ニェットが使っていた、射程を犠牲に詠唱を短縮した近接魔法だった。
フィリップはこれを観察して盗んだ。内容を分析し、分からない部分は独自の解釈を加え…
【ツヴァイ】!!
フィリップは右ひざに魔力を込め、巨人を膝で蹴り上げる。巨人は一瞬よろけ、隙を見せた。
ニェット達の呪文から更に短縮し、魔力操作すら省略した、純粋な魔力の爆発。
【ドライ】!!
フィリップは魔力を込めた左回し蹴りを巨人に食らわせる。巨人の膝が砕け、残った片手を地に着けた。
ただしその超短縮魔法が使えるだけの魔法の素養がフィリップには無いため、『ツァウベラッド』の魔力増幅機能を用いた。
変形した『ツァウベラッド』から離れても魔力を増幅・供給するために、新たな形態『アインビッシェンフォーム』への変形機能を追加し、無線で魔力を供給するサークレットも追加した。
それでも…撃てるのはたった4発である。
【フィアーーーーーーー】!!!!!
フィリップは魔力を込めた両掌を前に突き出す。バシュッ!!音がして巨人の背中から光の柱が立ち、胸に大きな穴が開き、
「……………!!」
巨人はそのまま動かなくなった。
「はぁ………はぁ………」
全ての魔力を使い果たしたフィリップは、巨人が倒れてはたまらないと、這う這うの体でその場から逃れ、
「ふぃりぽーーーん!!」
モリガンが彼に駆け寄り、そして…
ボォン!過負荷に耐えれなくなった『ブラウⅡ』は、煙を上げて魔法陣が消えた。
「ふぃりぽんすごい!!」
モリガンは興奮して言ったが、フィリップは、
「はぁ、はぁ…魔力が空っけつだ………モリガン…帰りは『ロートⅡ』の後ろに乗せて行ってくれるか!?」
「うん!…なんか、いつかとぎゃくだね………」
それからフィリップは、壊れた『ブラウⅡ』を回収すると、モリガンの『ロートⅡ』の後ろに乗って、遺跡を後にした。
(いずれにせよ…ここ1年半のモンスター大量発生事件は、これで終息を迎えるな…まぁ、既に召喚された奴らの討伐が残っているが………)
誰もいなくなった遺跡の最奥の部屋で、モリガンがデタラメにいじった操作板には、ある文字が浮かんでいた。
”Elf”………
最終話まであと2話。




