僕達の最後の冒険、その前夜。
その日のうちに、2人は王都周辺の森を抜け、海岸地帯の中心、『港町』に着いた。
「やどやがあって、よかったねぇ…」
モリガンは言った。
寂れた港町は、ほとんど何も無く、商店と酒場を兼ねている商店が、2階を宿として貸していた。が…
「………」
フィリップは、目の前にある、2個のベッドを見つめていた。
宿に部屋は、1つしか無かった。
「わたし、こっちつかうね…」
モリガンが一方のベッドを指さした。
「あ…ああ…(一晩、一晩だけこらえれば…)」
フィリップの浮かない顔の理由は、もう一つあった。
「さっき見た、人型モンスター…」
「うん………」
海岸地帯に入って、目撃したのは、見た事も無い、身の丈3m近い、人型モンスター…明らかに、ゴブリンやオークより、強そうだ…
ツァウベラッドの速度で巻いて、町に到着したが、明日のクエストで、この様な敵が何体も現れたら………
「………っ!!」
フィリップの身体がビクッと震えた。このパーティー…いや、コンビでは、明らかに火力が足りない。
「ふぃりぽん…こわいの………!?」
「ああ………恐い。」
フィリップは自然に、その答えが出た。
「明日、向かった場所で、あんなのがまた現れたら………」
『境の村の奇跡』の事が思い出された。モリガンの耳についた傷…今度はあの程度では済まない危険性があるのだ…
「だいじょうぶだよ。ふぃりぽんはまほうがつかえるんだよ。だから、あしただって、なんとかなるよ…」
(僕を信頼してくれてるって事か………!?)
「モリガンは、強いな…いつだって、みんなのために戦って…
共和国では異種族のヒューマンのため、そして王国では、貴族の子息なのに、平民のエルフ達のために…」
それは、フィリップがついに、到達出来なかった境地だった。
「なに、いってるの!?」
モリガンが大きな声で言った。
「ふぃりぽんおぼえてる…!?わたしたちが、さいしょにあったとき…」
「…ギルドで掲示板の前にいたお前を突き飛ばしたんだよな。悪かったよ…」
「そのあと!」
「………え!?」
「ふぃりぽん、どうくつでごぶりんたちにおそわれていたわたしを、たすけてくれたよね。
ひゅーまんなのに、えるふのわたしを…!!」
「………!!」
「わたし、あのとき、おもったんだよ。『このひとすごい!』って………
わたしもこのひとみたいに、だれかをたすけるためにたたかいたいって!!!」
「………え…!?そ…それ、ほんと………!?」
フィリップの問いに、モリガンはコクリとうなづいた。
「な…なんて事だ………!?そ…それじゃあ………」
弱きを助ける、『本物の冒険者』、モリガンを生んだのは…
……他ならぬ、僕自身だった………!?
冒険者を続けていた理由の1つ…『本物』達への嫉妬…
……その一片が、報われたのだ………
フィリップは後ろを向いて、天井を仰いて、涙をこらえた。
モリガンはそんなフィリップに、背中からそっと抱きついた。
「あした、がんばろうね………。」
「………うん…」
この人となら、何でも出来る。フィリップはそう思った。
※ ※ ※
これより数日後、『港町』では、共和国と王国の冒険者ギルドの会談が成された。
これまで、王国のエルフ…主に貴族達の意向で、断っていた冒険者どうしの交流を、徐々に行って行こうというのだ…
「やぁ、久しぶり…しばらく見ない内に、また老けたねぇ…」
まず、王国のギルドマスターが言った。
「………あなたは、相変わらず、若く、美しい………」
いかめしい顔の共和国のマスターが言った。
「聞いたよ…若いのにしてやられたんだってぇ…!?かつては軍人に代わって共和国中のゴブリンを倒して回って、『始まりの冒険者』の1人に数えられた君が…」
そういう王国のマスターも、その『始まりの冒険者』の1人だ。
「………ヒューマンは、エルフとは違って、歳を取らなければいけないんです………」
むすっとした共和国のマスターが答えた。
「それを見るのが嫌で、私は王国に引きこもったんだけどねぇ…」
王国のマスターが言った。
「彼…フィリップも、王国で叩きのめされて、現実を知り、身の丈に合った言動に収まってくれれば良いと思ったのですが…」
共和国のマスターは言ったが…
「じゃあ、思った以上の結果になったんだねぇ…」
王国のマスターはしれっとそう答えた。
「そういえばフィリップは、彼…スティーブの孫だったねぇ。血は争えないねぇ…」
王国での抑留から帰った後、二国の関係が徐々に険悪になる中、自ら『冒険者』を名乗り、5年かけてあちこちを周り、その過程で得たノウハウを、教えを請うた6人の若者に伝授した。
その後は伴侶を得て、『ツァウベラッド』の修復に入った…
「………恩人の孫だからこそ、えこひいきは出来なかった…
………私だって、分かってるんですよ。私はマスターの器じゃあない。『始まりの冒険者』の中でも、私は一番の下っ端だった。
私じゃなく、スティーブ氏か、『リーダー』の方が、ギルドマスターには向いてたって………
それなのに、スティーブ氏は表舞台に出る事を嫌い、リーダーは、『自分は第一線がいい』って言って、相棒の『彼女』と一緒に、生涯、あちこちを旅して回って………
そして、とうとう、帰ってこなかった………」
「そう言えば、『始まりの冒険者』の1人、ドワーフのオヤジも、フィリップ達と一緒に、年甲斐も無く戦っていたよ…
フィリップの顔はスティーブにそっくりだったから、オヤジさんにも思う所はあったのかもしれないねぇ…」
「………近いうちに、共和国のギルドにも来てください。『始まりの冒険者』の、最後の1人が、あなたに会いたがってます…」
「そう言えば、彼女は、今、そっちのギルドで、『酒場』を切り盛りしてるんだったねぇ…」
※ ※ ※
そして再び、時間は巻き戻り、フィリップとモリガンが、『港町』に着いた翌日…
2人は、探索対象の『遺跡』の前に立っていた。
最終話まであと4話。




