僕の弟子たちは大きな成長を遂げた。
翌日、冒険者ギルド…
フィリップとモリガンの、新人2人への講義は続いていた。
「パーティーの基本は、重い鎧を着れる者が前に立って近接武器を使い、そうでない者が後ろから、前に立っている人を援護する。
それは例えば、遠距離の武器だったり、攻撃・弱体系の魔法だったり、回復・強化系の魔法だったり…」
「わたしたちは、わたしがまえにたって、ふぃりぽんがまほうでえんごしてくれてるのー。」
「じゃあ、ワシが前に立って…」
「私は後ろから援護ですか…」
※ ※ ※
ビターハーブの群生地付近…
「………いたぜ…今日も…」
「…じゃあ兄さん、昨夜打合せした通りに…」
ナインとニェットの2人は弓をつがえた。
この距離からでは、オークの視野からは見えない…
※ ※ ※
冒険者ギルド…
「うぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!どぉぉりゃぁぁぁっ!!」
ドワーフの青年は、手に持った木刀を、盾を構えたモリガンに打ち込んだ。
「もっとほんきでうちこんでこい!!」
モリガンの檄が飛ぶ。
「もにゃもにゃもにゃ…」
その後ろでフィリップが適当な呪文をつぶやき、
「エネルギーボルト!」
と、魔法攻撃に見立てたお手玉を投げ、
「あ!」
それはドワーフの後ろのハーフエルフに当たる。
「はい、これで君は魔法攻撃を食らった。
そうなる前に、君が【サイレンス】で魔法を封じるか、君がウェポンバッシュを使うかして詠唱を止めて。」
「もういちどさいしょから!!」
「「はい!!」」
※ ※ ※
ビターハーブの群生地付近…
「Bu…Hi…」
全身に矢や魔法を受け、息も絶え絶えのオークが、手斧を振り回しながら近づいて来た。
「ニェット!」
「ええ!!」
ニェットが杖から剣と盾に持ち替え、ナインは魔法を弱体系から回復系に変更した。
(アウトレンジから十分、体力を削った。これなら…行ける!!)
※ ※ ※
翌日、冒険者ギルド…
ゴリ、ゴリ…ハーフエルフの青年が、何やら気味の悪い物を色々と乳鉢ですり潰していた。
「………何してるの!?」
引き気味になったフィリップが問う。
「毒を作ってるんです。これを矢尻に塗って、弱体魔法の代わりにこれを使って、魔法は回復系に限定すれば…」
「毒…!?」
「ええ…一般的な毒の他、麻痺毒、神経毒…一通りの物がありますよ…」
青年の、意外な知識だった。毒矢使いか…
「はぁ…これ、どこで習ったの!?」
「自分でです。」
「…え!?」
「食べ物をくれる人なんて、いませんでしたから…何でも自分で食べて…効能を知りました。」
フィリップは青年の肩をポンと叩いた。
「………それがきっと報われるよ…」
同時刻、武器屋…
「ラウンドシールドの表面に鋲を打った。これを敵に叩きつければダメージを与えられるぞ。」
オヤジが久しぶりに武器屋の仕事をし、ドワーフの青年の装備を見立てていた。
「ウヒョー!恰好いいのぉ!あいつは弓を使うだろうから、ワシは打撃系でハンマーを装備して…」
ドワーフの青年は己の姿を見て興奮した。
「フン…恰好良く活躍したかったら、精々死ぬなよ…」
※ ※ ※
夕方、薬師の家…
「…ごめんください、冒険者です…」
ナインとニェットが、あちこちから変な匂いの漂う依頼者の家へ入った。
依頼者であるエルフの薬師は、向こうを向いたままゴリ、ゴリ…と、薬研を使っている。
「ああ…そこ置いといて…」
ゴリ、ゴリ…
「……」
ナインとニェットは顔を見合わせて、採って来たビターハーブをテーブルに置いた。
森で会ったあの時と同じく、ハーフエルフは相手をしてくれないらしい…
「………失礼します。」
それでもフィリップの教え通り、依頼者には礼節を持って接し、家を出て行こうとした時…
「………ありがとうな…」
薬師がボソっと言った。
「「………!?」」
2人は我が耳を疑ったが、薬師は相変わらず、ゴリ、ゴリ…と薬研を使っていた…
※ ※ ※
夜、冒険者ギルド、皆が寝静まった後の『酒場』…
「ううう…がんばった…がんばったんだよぉぉ…」
慣れない教師役を3日間勤め上げたフィリップは、カウンターでギルドマスターに管を巻いていた。
本来、これは退役した冒険者がやる仕事である。だが、誰もいない王国のギルドでは、いて、出来る者がやるしか無かった。
「僕は剣も魔法も中途半端にしか出来ないけど、それを知る過程で何から何まで試して来た…まさかそれが、教師役で役に立つとは…」
ちなみに彼は今、お酒を飲んでいない。素面でこれだけ乱れるのだから彼の心労は相当なものである。
「お疲れさん…」
ギルドマスターはそんな彼を労った。
「…あいつらもがんばったんだよぉぉ…」
生徒である新人2人の事である。
「うん…そうだね…」
「そして…あいつらもがんばった………」
フィリップがボソっと漏らした。彼の手を離れて活動している2人の事である。
それを聞いたギルドマスターは、
「………じゃあ、もういいんじゃあないかな…!?」
※ ※ ※
翌日…
ハーフエルフの青年と、ドワーフの青年には、ランクEの冒険者タグが与えられた。
「これで君らも冒険者だ。仕事に励んでね…」
性別不詳のギルドマスターは魅惑の笑みを浮かべ、
「「は…はい!」」
2人は緊張しながら答えた。
「それから…これは君らに…」
ギルドマスターは小箱をナインとニェットに渡す。
「こ…これは…」
「お前らはたった今からランクDだ。」
何故かムスっとしてフィリップは言った。
「…まだ早いかとも思ったんだが…新人が入ったんだ。そろそろ自覚を…」
「ちょうどいいころだよぉ。」
モリガンが割って入った。
「わたしは、ぼうけんしゃになっていっしゅうかんで、らんくDになったけど、むしろはやいほうだとおもうから…」
グサッ! フィリップの胸に見えない矢が刺さった。
実は彼は、モリガンと出会う前に半年間、ランクEで冒険者をしており、その間いくつものパーティーを実力不足で首になったのだが…
「ま…まぁいい、とにかく今日からまたビシバシしごくぞ!!」
と、ごまかすフィリップに、ニェットとナインは、
「…お手柔らかに…」「…」
と返した。




