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僕の弟子たちが一人歩きを始めた。

10分後、王都付近の森…


「全く…ふざけやがって…!!」

ナインは不機嫌そうにズカズカと森を歩いていた。

「あいつ…今まで俺たちが、何匹オークを倒して来たと思ってんだよ…!!」

「兄さん…」

ニェットは兄を窘めて言った。

「…いい加減、フィリップさんの事を名前で呼んであげたら…!?」

ニェットにはもう分かっていた。

フィリップが当初思っていた様な粗暴でいい加減な人間では無い事に、そして、兄も彼に敬意を持っている事に…だが…

「うるせぇ!あいつなんか、『あいつ』で十分だ!!」

素直じゃない兄である…

「今日だって、あんな雑用みたいなクエストを受けさせて…」

「兄さん…そろそろ目的地に着くわよ…」


     ※     ※     ※


10分後、王都の冒険者ギルド…


『酒場』に黒板を持ち込んで、即席の教室とし、フィリップはその黒板の前で、ヘトヘトになっている新人2人に講義していた。

「…冒険者の仕事といえは、まず思いつくのは、モンスター討伐である。

まぁ、それは、我々がこの王国で主に、人型モンスター討伐ばかりをやって来たから、君たちもそういうイメージを持ってるかもしれないが…」

「でも…あのお2人には、ハーブの採集をする様に仰ってましたね…」

ハーフエルフの青年が言った。

「あいつらが言っとった様に、そんな事、薬師でも出来るぞぃ!」

ドワーフの青年が言った。

「うーん…例えば共和国では、冒険者は、廃鉱山での採掘が認められているんだ。

その理由の1つは…そこがモンスターの巣窟になってて危険だからなんだ…」

フィリップもかつて、それで失敗しかけた事がある…

「だから事実上、戦闘力のある冒険者しか、採掘出来ないという事情があるんだ…」


     ※     ※     ※


10分後、ビターハーブの群生地…


「「………」」

そこにいたのは、1匹のオーク…

「そう言えば…ここ、毎日必ず1匹オークがいたな…」

ナインは呻いた。フィリップ達とのモンスター狩りで、何度か来た事があったので知っていたのだ。

オークはその場でゴロゴロと転がって、身体をハーブになすり付けていた。薬効がある草が生えているのを知っているのだろうか…

「………あれ以上やられたら、ハーブの商品価値が無くなっちゃうわよ…!!」

ニェットも呻いた。

「倒すしか…無いわね…」


2人はようやく、この仕事が冒険者に依頼された理由を理解した。


     ※     ※     ※


10分後、王都の冒険者ギルド…


「これが、我々の敵である、オークだ…」

フィリップはオークの大きなイラストを黒板に下げて説明した。

「豚の頭が乗った人間という、特徴的な外見だ。そして…」

フィリップはもう1枚のイラストを出した。

そこに描かれていたのは、醜悪な顔の小人。肌に矢印が引かれ、『緑色』と書かれている。

「…これが『緑小人』こと、ゴブリンだ。最近ではこの王国でもみかける様になったらしい。

クエストには、『オークまたは緑小人3匹討伐』とされているが、君たちは最初は、ゴブリンを狙って討伐した方が良い。」

「なぜじゃ!?オークの方が数も多いし、被害も多く出とるはずじゃ。」

ドワーフの青年は聞いた。

「それはな…」

フィリップは言った。


「…ゴブリンの方が弱いからだ。身体が小さいからすばしこい反面、体力が弱いから倒しやすい。

言い換えれば…オークは初心者にはやや手に余る相手なんだ…」


     ※     ※     ※


10分後、ビターハーブの群生地…


「はぁ…はぁ……」

ニェットは肩で息をしていた。

どれだけ剣を、魔法を、打ち込んでも、オークは倒れてくれなかった。

「………くそっ!」

ナインは悪態をついた。

フィリップ達は、自分達よりはるかに強いだろう事は分かっていた。だが…

(俺たちが、こんなに弱かったなんて………っ!!)

オークと切り結んでいるニェットは、もう何度も、生命の危険に差し掛かっていた。


やがて…太陽が南中した頃…


「「はぁ、はぁ…」」


オークの死体の側で、背中合わせにへたり込むナインとニェット。2人ともボロボロだ…

「………あと5匹よ…」

ニェットが、切れ切れの息の中で言った。

「…あぁ!?」

ナインは聞いた。

「…もし、オーク討伐のクエストを2人で受けていたら、これをあと5匹だった…。」

「…………」


それから2人は、その場で昼食を済ませると、他のオークと遭遇しないうちにビターハーブを採集し、その場を後にした。


     ※     ※     ※


夕方、冒険者ギルド…


「ただいま。」

ナインはそう言って、ニェットと共にギルドのドアをくぐった。

「お帰り。」

もうその頃には、初日の講習を終えたフィリップは、『酒場』でくつろいでいた。

「ビターハーブは納品して来たぜ。これ、受取書類。」

ナインは2人分の受領書をマスターに差し出した。

「はい、ご苦労さん、これ、報酬ね…」

ギルドマスターはそう答えた。

「で…どうだった!?」

フィリップはたずねた。

「…オークがいた。群生地に…」

ナインは答えた。

「で…どうしたの…!?」

「倒したぜ。当たり前だろう。」


「へぇ…それで…明日はどうするの!?僕らの名義を使えば、オーク狩りもオファー出来るけど…」


「………やっぱり明日も、採集クエストでいい。」

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