僕は先生になった。
最初にその変化に気づいたのは、木こりや薬師…森へ頻繁に出かける者たちだった。
最近、森を歩きやすくなった。オークとの遭遇の回数が減った。
その理由も、分かっていた。
最近、王都に現れた、『冒険者』を名乗る5人組。
彼等がオークを退治してくれているのだ。
エルフは優秀な狩人で魔術師だ。オークの一匹や二匹、退治する事は出来るが、数が多すぎた。認めたくないが、彼等の活動には助けられている。
青い鎧のヒューマンの青年は、『困った事があったら、ギルドに言って下さいね。』と言ってくれているが…
あまり、関わりたくないな…あいつらが勝手にしてる事だし…
※ ※ ※
※ ※ ※
フィリップは考えていた。
ナインとニェットは、順調に育っていた。
彼とモリガン、オヤジといった強者と共に、いつも戦っているのだ。危険を最低限に減らしつつ、経験を積ませている。当然だ。だが…
そろそろ、彼等を次の段階に進ませないとな…
5人体制の『パイライト』を結成してから1か月後、
これまでの営業、宣伝活動の効果が現れたのか、木こりや薬師から、ギルドに依頼が来るようになって、もう少し人手が欲しいなと思っていた、ある日…
※ ※ ※
「ここに来れば、差別される事も無く、お金を稼ぐことが出来ると聞いて来ました。」
そう言って、冒険者ギルドにやって来たのは、ハーフエルフの青年だった。
「でも…その分、命を落とす危険性だってありますよ…!?」
フィリップがそう念を押したが、
「よろしくお願いします!!」
青年は、深々と頭を下げた。
一時間後…
「近接戦闘、弓術、魔法、全て合格だ…」
フィリップは言った。やっぱりハーフエルフは優秀だ。
「へん…!始めたての頃の俺の方がずっと強かったぜ!」
ナインが言ったが、
「でも、ないんよりすなおそうだから、すぐにおいぬいちゃうかもー。」
モリガンにそう言われて、
「はうっ!」
ナインの胸に、見えない矢が刺さった。
「兄さん…たった1ヵ月違いで先輩面して、みっともない…」
「はうっっ!!」
実の妹にまでダメ出しされて、今度はナインの背中に、見えない矢が刺さった。
「ははは…」
などと言いながら、彼等が『酒場』に戻って来た時…
そこでは、2人のそっくりなドワーフが睨み合っていた。1人はオヤジだ。
「ワシもオヤジみたいに、モンスターを退治してカッコ良く活躍したいんぢゃ!」
オヤジじゃない方のドワーフがそう言った。
「お主みたいな青二才に何が出来る!?」
オヤジが睨み返した。
「えーっと…あのドワーフは、若者なの…!?」
見分けがつかないけど…
「だったら、若者の可能性の芽を摘むのは良くないねぇ…」
性別不詳のギルドマスターが、試験を受ける様に促した。
結局、ドワーフの若者(?)も合格になった。
ちょうどいい…フィリップは思った。
「僕とモリガンは、これから3日かけて、2人に冒険者の初期講習を行う。」
フィリップはそう言った。
「…ワシは、久しぶりに武器屋に戻るかの…」
オヤジが言った。
「必要になりそうぢゃからの…」
「ナイン、ニェット…」
「お…おう…」「はい…」
フィリップは2人に、こう言った。
「これから3日間、2人だけでクエストをこなしてくれ。」
「「え…!?」」
そろそろ、彼等を次の段階に進ませないと…
「え…あ…」
突然の命令に戸惑うナインに、ニェットは、
「了解しました。」
と冷静に答え、ナインも、
「え…わ、分かったよ。やりゃぁいいんだろう!!」
と叫ぶ。そして、
「最初はクエストの受注だったな…」
と、いつもの『オークまたは緑小人3匹』手を伸ばそうとし…フィリップはその手をスッ…と横から押すと、ナインの手は、隣りに貼ってあった『ビターハーブ採集』に触れる。
「え…は…はぁぁぁぁぁっ!?」
ナインは頓狂な声を張り上げる。
「お、俺たちは薬師じゃあねぇぞ!!」
ナインは抗議したが、フィリップはニコニコと微笑みながら、
「ランク制限。」
そう、ナインとニェットはランクEだ。
オークまたは緑小人3匹はランクD以上でなければオファー出来ない。
「わ…分かったよ!今日はこれにしといてやる!!」
それからナインはカウンターのギルドマスターにクエスト受注の手続きを取る。
「ブツブツ…報酬は体力ポーションか、魔力ポーションの選択式って…物納かよ!依頼人の薬師が売れ残りを押し付けてんのかよ!!」
ナインはまだブツブツと言っている。
「魔力ポーションだったら僕が買い取ってやってもいいぞ。」
フィリップはそう言った。ナインはチェッ…と、もう一度悪態をつくと、ニェットを連れてギルドを出ていった。
「お前たちは初期講習…だが、その前に体力づくりだ。モリガン!」
「はーい。きみたち、おおどおりを、はしって10おうふくね!」
「「は…はい!!」」
ちなみに…その10往復が終わるころには、2人の新人はヘトヘトになっていたが、いつもの金属鎧にハルバードを背負ったモリガンは、息一つ上がっていなかった。




