僕はまた弟子を取った。
翌朝、王国冒険者ギルドの飲食スペース…
「………」
朝食に出された煮豆を、上の空でフォークで突いているフィリップ…
「それ、早く食べて欲しいんだけど…」
ギルドマスターが声をかけると、フィリップは、
「………あいつが部屋から降りて来なかったらどうしよう…」
と、心配そうに言った。
「…入り口、ここだけだから、それは無いと思うんだけど…」
相変わらず、慣れない師匠の役目に戸惑っているのだ…
ガチャリ…
「お…おはよう…」
ドアが開き、そこからナインが1階へ降りて来た。
「おはよう。」
「お…おはよう…」
ギルドマスターとフィリップが挨拶を返す。
「…で、今日は何をやるんだ!?クエストって、言うのか…!?」
朝食を取りながらナインが尋ねると、フィリップは、
「いや…今日はまず、あの村へ戻ろう。」
「え…!?」
「妹さんを説得しに…お前が冒険者をやる事を了承してもらいに…」
そこまで言った時だった。
バタン! 表のドアが開きそこに立っていたのは、ボロをまとった、ナインそっくりの、エルフ…もとい、ハーフエルフの少女。
「兄さん…」
つまり、さっき話に出た、ナインの双子の妹の…
「ニェット………!!」
朝になっても戻らない兄の行方を探って、ここへたどり着いたのだろう。
ヒューマンはこの国で目立ち、多くの者に目撃されていたから…ともかく…
…妹さんに、先に行動に出られた。
※ ※ ※
フィリップは、まず、ナインが自分に脅されて冒険者になった事を黙っている様に言うつもりだった。
あくまで自分たちの関係は友好的なものだ、と…
最初のきっかけはどうあれ、ナインの昨日の態度からも、彼が冒険者としての未来に希望を見出しているのは明らかだった。
が…
「………ニェット…俺はエルフの手助けをする事への憎しみから、この人を射てしまったんだ。
それを衛視に黙っていてもらう代わりに、冒険者になったんだ…」
「…何てことしたの、兄さん…!!
あなたもいくら何でもひどい!冒険者は危険な仕事なんでしょう…!!」
………何でそれを真っ先に話すかなぁ………!?
これでナインの妹…ニェットのフィリップへの第一印象は最悪になってしまった。
まだだ…ナインには冒険者としての才能がある事を丁寧に説明し、それでも渋る様なら、高収入で生活が楽になる事を理由に…
「…俺には才能があるって言われたぞ。
それに、冒険者になれば、お前にも楽させてやれるし…」
「私はそんなの望んでいない!!
たまたま出会ったあなたを冒険者にした人の言葉なんて信じられるの!?」
言い方が軽すぎる!ニェットのフィリップへの不信感は更に高まった。
「…冒険者を辞めるなら、俺は衛視につかまってしまう…」
「そんな…!!」
…これじゃあニェットを説得するのは無理そうだ…
しょうがない。残念だが、色々理由を着けて、ナインを開放するしか…
「分かりました。」
ニェットが自分で勝手に納得する。
「兄の罪は、妹の私も一緒に償います。」
「「へ………!?」」
「私も冒険者になります!」
※ ※ ※
「ま…まぁ…テストを受けて不合格になれば、諦めてくれるだろう…」
「………甘いな…」
フィリップの言葉に、ナインが言った。
トスっ! ニェットの放った矢は、遠く離れた的を的確に貫いていた。
「弓術、合格…」
試験官のギルドマスターは言った。
ボォっ! ニェットの手から放たれた魔法の火球は、的に命中した。
「魔法、合格…」
「………」
カン!カン!カン!!
「よ…よしっ!そこまで!!」
人型をした的への、ニェットの木刀による剣戟は凄まじかった。
無言で殴りかかって来るのがなお恐い。
「近接戦闘も合格でいいね…!?これで君も冒険者だよ、ニェット君…」
「ありがとうございます…。」
呆然とするフィリップに、ナインはげんなりした表情で言った。
「俺とあいつは双子のせいか、俺の出来る事は、大抵、あいつも出来るんだよ…」
「ま…まぁ、逸材、だな…」
※ ※ ※
「ともあれ…」
フィリップは2人に言った。
「冒険者としてやって行くからには、僕の言う事には従ってもらうぞ。
ニェット君が言った様に、冒険者は危険な仕事だが、共和国が40年かけて築き上げた冒険者のノウハウを全部注ぎこむ事で、事故の危険性を可能な限り減らず。」
「お…おう…」
「…分かりました。」
「君らは2人とも万能型みたいだし、どっちが前衛でも後衛でもいいな…」
「…私が前に立ちます。兄を危ない目に合わせられません。」
ニェットが言った。
「何言ってんだ!普通、逆だろ!」
ナインが抗議すると、フィリップが、
「ニェット、前に立つんだったら…」
「はい…」
「さっきみたいな詠唱時間の長い魔法は使うな。
詠唱時間の隙を突かれる危険性があるから…」
「でも…あれが最大の攻撃手段なんです!」
「だからそれは…」
「あー、それだったら…」
3人の様子を見ていたギルドマスターが、スタスタと的の前に歩いて行った。
「マスター、何を…」
怪訝そうなフィリップに、ギルドマスターは、
「現役だったのは35年前か…エルフにとっては昨日の事、だ!!」
ドカーーーーン!!
「「………」」
胴から煙を上げる人型に、呆然とするフィリップとナイン。
ギルドマスターは言った。
「エルフは言語に堪能だからね。魔法の呪文を作る事が出来るんだ。
ヒューマンの魔法は、それを彼等にも使える様に弱化した物にすぎないんだよ…」
それを見ていたニェットは、
「すごい…これなら、私も………」




