表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/69

僕は不意打ちを食らった。

翌朝、王都、冒険者ギルド…


ギルドの宿泊スペースで一泊したフィリップ…いや、しばらくここが、彼の寝床になる…


「やぁ、おはよう…」

カウンターでギルドマスターが出迎える。

それから、彼…いや、彼女…どっちか分からないが、マスターに勧められて、軽めの朝食を取り、


(とりあえず、クエストに出るか…)

と、掲示板を見る。が…


「え………」

依頼が殆どない。

とりあえず、『森でオーク3匹討伐』のクエストを受けるが、危険手当は無いらしい。

ちなみにランク制限は無し…

「ごめんねぇ、依頼が来ないから危険手当も出せないんだよ…」

ギルドマスターが言う。

「…どうしてですか…!?」

「まぁ、しばらくここで行動すれば、分かるかもしれないよ…」

フィリップはギルドマスターから、この周辺の大まかな情報を仕入れ、王都周辺の森へと出かけた。


王都周辺の森林…


昇ったばかりの太陽の光は、鬱蒼と生い茂った木々の間まで入りきらず、暗さと障害物の多さで、遠くまで見通せなかった。そんな中を徒歩で進んでいたフィリップ。


”この王都の周りの森の木々は、どれも皆、どこにでもある木だが、どれ一つとして同じ木は無いぞ。

君が言った問題は、要はそういう事じゃあないのかね!?”


…嫌な言葉を思い出していた。

考えてみれば、フィリップの周りには、嫌な言葉を言う奴らばかりだった。

アルバート、共和国のギルドマスター、今回そこに伯爵が加わった。

だが…更に嫌な事に、そいつらの嫌な言葉は、どれ一つとっても間違っていなかった…

(確かに、要はそういう事だ。だが、だからこそ問題なんじゃあないか…)


それからフィリップは頭を何度も振って、中の雑念を振り払い、冒険者の仕事に集中しようとする。

(いた。)

フィリップは木々の中に、錆びた手斧を持った一匹のオークを見つけた。

(まず一匹…)

フィリップは【パラライズ】の魔法を唱えたが…


ヒュン!トスっ!!「BUHI!」「え…!?」


どこからともなく飛んで来た一本の矢が、オークに命中した。「ど…どこから…!?」フィリップが矢の飛んで来た方向を見ると、遠くで何かがキラリと光り、そこから雨の様な大量の矢と、魔法が飛んで来た。


ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!!


オークは…恐らく自分の身に何が起きたのか、分からないまま死んだろう。

フィリップがあっけにとられていると、やがて矢の飛んで来た方向から、数名のエルフが現れた。

皆、革鎧に弓か魔法の短杖を持っている。


「…これは失礼。君の獲物だったのかね…!?」

中心にいるエルフが、嫌味な口調で言った。

「冒険者か…だが、この国に、君たちの仕事は無いと思うがね………さっさと国へ帰りたまえ!!」

では、失礼。そう言い残して、彼らは去って行った。

(あれが…王国の騎士団…!?)

ノブレス・オブリージュの思想の下、エルフの貴族の子息たちが、この国を脅かすモンスターを討伐しているという…

王国冒険者ギルドのマスターから聞いた情報だ。しかし…

(僕からは彼等が見えなかったが、彼等は僕を避けてオークにだけ矢を命中させていた…あの距離から見えていたのか…!!)

あれが、冒険者ギルドに、依頼が無い理由その1だった。


     ※     ※     ※


数時間後…


それでも2体のオークを討伐し、森を歩いていたフィリップは、不意に木々が開けた所に、小さな村を見つけた。

(そういえば…)

正直、フィリップは『今からやろうとする事』が苦手だった。

だが…(やるしかないか…)


村の中には、2~3人のエルフが歩いていた。

だが、フィリップが近づいて来ると、皆、家に駆けこみ、扉をバタンと閉めた。

「こんにちはぁ!」

フィリップは大きな声で言った。

「驚かせてすみませぇん!、僕は共和国から来た冒険者でぇす!

何か、お困り事はありませんかぁ!?」

フィリップがやろうとした事、それは、冒険者の営業。

依頼が無いのは存在を知られていないから、かもしれないと思ったのだ。

バタン!不意に、一軒の家から、弓矢を持った一人のエルフが現れる。

「あのー…モンスター退治とか…この村でもオークの被害にお困りではありませんかー…」

エルフの村人は、黙って弓に矢をつがえ、引き絞り、放った。

ヒュン!

矢はフィリップのはるか後方へ飛んで行き、見えなくなった。

「御覧の通り、我々は自衛出来ますので、そういうのは間に合ってます。」

(御覧の通りって…見えなかったぞ、何も…!?)

「あぁ、そうだ…ここまでお越しいただき、ご苦労様でした。どうぞこれをお納めください…」

エルフは懐に手を入れ、何かジャラジャラと音を立てる…

「………失礼しますっ!!」

フィリップは踵を返し、村を出ていった。

その途中、村のはずれに建っていた一軒のあばら家から、よく似た顔をしたエルフの男女…王国へ来た時に助けたあの2人だ…が、こっちを見つめていた。

男の方は、瞳を憎しみに燃えたぎらせていた…


(くそっ!)

フィリップは思った。

(あれは多分、銅貨だ。あのエルフが懐から取り出そうとしていたのは…!!)

あのエルフは、フィリップを物乞いか何かの様に扱おうとしたのだ。

フィリップは、我ながら良く耐えた、よくあそこで爆発しなかったと思った。

それより気になった事があったのだ。

(いた…!!)

あのエルフが矢を放った先にいたのは、一匹のオークだった。

腹に矢を受け、重要な内臓の何かに致命的なダメージを受け、息も絶え絶えの…

(やっぱり…あのエルフには見えていたんだ…村に近づくこいつを…)

フィリップは魔導書を開いた。

(とどめを、刺そう…)

彼は【パラライズ】の呪文を詠唱した。が…

ヒュン!「………っ!!」

どこからともなく飛んで来た矢が、フィリップの肩に当たる。

それは前もって自分自身にかけていた【バリア】の魔法によって弾かれたが、せっかく成立した【パラライズ】の魔法は、あらぬ方向へ飛んで行った。

「BUHI!」

オークに気づかれる。

(不意打ちは失敗したか…だが…)

フィリップはすぐさま【ダークネス】の魔法をかけ、オークの視界を遮る。

続いて【ポイズン】、自身に【エンチャント】…

そして、数合の剣戟によって、オークは倒れた。


「ふぅ…」

倒したオークの身体の一部を切り取るフィリップ。だが…

(あれが、冒険者ギルドに、依頼が無い理由その2だ…)

エルフは皆、優秀な狩人で、魔法使いだ。

モンスターもある程度は自分で狩れる。自衛が出来る。

他人へ依頼する必要が無い。

問題はそれだけでは無かった。

エルフは非常に目が良い。

ヒューマンよりもはるか遠くを見通せ、暗闇でも目が効く。

という事は、仮にフィリップが『普通の』エルフとパーティーを組んだとしても、フィリップの視界にモンスターが入る前に、エルフの弓兵や魔法使いが、それを倒してしまうだろう。


(あれ…!?ひょっとして、僕、この国にいらなくない…!?)

レーゾンデートルの喪失に、フィリップは軽く頭を抱えた。


(でも…)

だとしたらフィリップには、一つ、腑に落ちない事があった。が…

(その前に、あっちだな…)

フィリップは森の中を歩いて行った。

さっき、オークに当てなかった【パラライズ】の魔法。

肩に矢を受けながら、咄嗟に標的を変えたのだ。

オークから、フィリップを射た人物へ…


果たしてその人物は、分け入った森の中にいた。

【パラライズ】の魔法を受けて、動けなくなって地面に転がっていた。


「なんと…君か…」


ボロをまとい、伸び放題の髪の間から、ギラつく瞳でフィリップを睨んでいたのは、昨日オークから助け、フィリップの手を振り払い、そしてさっき、エルフの村にいた、


あの、エルフの青年だった!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ