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僕は人身御供にされた。

街の冒険者ギルドに戻ったフィリップとモリガンは、ギルドマスターの執務室に呼び出され、こう言われた。


「お前ら…西のエルフの王国の冒険者ギルドに行って来い。」


「は………!?」

「へ………!?」

キョトンとするフィリップとモリガン。

ギルドマスターはむすっとした顔で、続ける。

「エルフの王国から、出頭命令が出たのだ。

あの夜、『境の村』での行動について、本人たちに直接出向かせて説明させろと言われたのだ。」


「しかし…僕たちは…」

「まだおうちにかえりたくなーい…」


「………行って来い!」

ギルドマスターはギロリと2人…特にフィリップを睨んだ。


「お前、『歴史は教科書の中だ』と言ったな…なら、お前が、『今日』と『未来』を作って来い!

『モンスターに襲われてる人を助けてどこが悪い』とも言ったな…なら、王国でオークに襲われているエルフどもを助けて来い!

………自分の吐いた言葉の責任を、お前自身に取らせてやろうと言ってるのだ。ありがたく思いたまえ!!」


「「………はい…」」


「………あと、これもやる。」

ギルドマスターは、自分のデスクから、2つの小さな箱を取り出す。

そこに入っていたのは、新しい冒険者タグ…


「お前ら、たった今からランクBだ。

ランクCを国の代表として出す訳には行かんのだよ…

…以上だ。下がりたまえ!!」


フィリップとモリガンは、上級者の冒険者として認められた…


     ※     ※     ※


同日、夜、ギルドの『酒場』…


「ランクでお前に抜かれるなんて…世の中、間違ってる…」

金髪ロン毛のアルバートは、フィリップをなじった。

「…そう思うんだったら、今すぐギルドマスターの部屋に行って、僕らの王国行きに反対してくれぇ…」

フィリップが漏らした。

「そんな事したら、どんな処分を受けるか…」

「それ程でも無いぞ、案外大丈夫だったぞ…僕を見てみろ…」

「……大丈夫じゃないから、そうなったんじゃないのか!?」

「……………うっ!」

金髪ロン毛の言葉によろけるフィリップ。

「まぁ…モンスターに襲われそうになってる自国民を助けない共和国やギルドに問題があったのは確かだが…

それを、人間全体への呪詛にしてしまったお前の言動にも問題はあったな…」

「ぎくぅっ!!」

確かに…フィリップは少し…いや、大いにやらかした。

「それにしても…王国という未知の地へ行って、オークという未知の敵と戦って…冒険者として大きな誉れじゃないか…」

「そうだよ…お前みたいな奴にこそ、ふさわしいよ、この役目は…」

「どうした……お前、さっきから何か様子が変だぞ…!?」

アルバートは怪訝そうに言うと、フィリップは何も答えず、真っ青な顔をして、ガチガチと自分の爪を噛み始めた。


「あ、そうか…王国へ行くという事は、モリガンの父親と会うかもしれないのか…」


「頼むぅぅぅぅぅぅ!!お前、僕の代わりに王国へ行ってくれぇぇぇぇぇぇぇ!!」


ついにフィリップは、アルバートに泣きつき、アルバートに怒鳴られた。


「出来る訳無いだろう、そんな事!覚悟決めて行って来い!!!!!」


それからフィリップは、ふぅ…、と、ため息をつき、真面目な顔になり、言った。


「………分かってるんだよ…僕はともかく、モリガンは、一旦、王国へ戻らなくちゃいけないって…」

「…そうだったな…」

アルバートも、その事を、人づてに聞いた。


モリガンは、この国へやって来た目的を果たしたのだ。


     ※     ※     ※


『境の村の奇跡』の戦闘の後、村長の家で仮眠を取らせてもらい、昼頃目覚めた後、変わらずお礼の言葉を重ねた後、ゆっくりお休みになられましたか、とたずねた村長とその妻とおぼしき女性に、フィリップは今朝、村に入った後からずっと気になっていた事を聞いた。

「失礼ですが、奥さんには、エルフの血が流れているのではないですか!?」

「………やはり、分かりますか…」

村長は穏やかな声で言った。

夫に促されて肩までかかる髪をかき上げてみせた村長夫人の耳は、わずかに尖っていたのだ。

「仰る通り、私はクォーターエルフです。」

村長夫人は答えた。

「母はハーフエルフで………私の母方の祖父は、エルフです…」

「もしかして…」

モリガンがわなわなと震え始め、フィリップが代わって言った。

「村長さん、このモリガンは、第3次大戦で行方不明になった、自分の兄弟を探しているんです。」


フィリップには、薄々気づいていた。

『パイライト』として共和国のあちこちをまわって、エルフの存在を探したが、手掛かりは全く無かった。

なら、疑う場所は一か所だけ。第3次大戦終了時は共和国領だったが、第4次大戦後に王国に奪われた、海岸地帯、それも、ヒューマンしかいないとされているため、王国から蔑ろにされている、『境の村』…

第3次大戦に従軍したモリガンの兄弟は、何らかの理由で故郷である王国に帰れなくなった末に、共和国に出頭して虜囚になる事を拒んで『境の村』に隠れ住んだ。

そして、第4次大戦で海岸地帯が王国領になった後も、ここに住み続けたのではないか、と…まあ、理由は分からないが…


「こちらに来てください…」

村長に案内されたのは、村はずれの小さな家。

村長がノックすると、ドアの向こうから返事がある。

がちゃり…

ドアが開き、家から出て来たのは、ヒューマンの老女。

村長に連れられた見知らぬ訪問者に怪訝な表情を浮かべたが、モリガンの顔を見て、

「おぉ…おおお…」

皺の中に埋もれた目に涙を流し、

「申し訳、申し訳ございません…」

モリガンにすがりついた。

「ここに…いるんだね…!?」

モリガンがたずねると、老婆はうなずいた。

恐らく彼女が、村長夫人の祖母だろう。

家の中に入ると、そこにいたのは…

…ベッドの横にいる、老境に差し掛かったハーフエルフの女性と、ベッドに半身を横たえている、エルフの老人。しかも、見た目かなり高齢の…

「………にーる…」

モリガンが涙を流した。

「モリ………ガン!?」

エルフの老人…ニールと言う名前だろうか…が、掠れるような声で言った。

「にーる!」「モリガン………!!」

ひしと抱き合う2人…


こうして、モリガンは生き別れの兄弟との再会を果たした。

それにしても…フィリップは思った。エルフやハーフエルフというのは永遠に若いままなのでは無かったのか…兄弟と聞いていたが、モリガンの兄さんだったのだろうか…


その後、モリガンとニールは、早口のエルフ後で話し始めた。

フィリップも本でエルフ語を勉強していたが、2人の会話は部分的にしか分からなかった。


モリガンが言った。<<汝>><<若い>><<より>><<我>><<老人>><<何故?>>

ニールが答えた。<<我>><<妻>><<ヒューマン>><<得る>><<子供>><<定まる>><<命>>

モリガンが何やら早口で言うと、ニールは、<<仕方ない>><<受け入れた>>と、答えた。どういう意味だろうか…


ニールは、エルフの王国に帰る事を望まなかった。

第一、本人の体調を考えると、長距離の移動は不可能そうだ…

そして、午後半ばに冒険者ギルドから出頭命令が出て、2人は『境の村』を後にしたのだった…

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