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僕は英雄にされた。

『境の村の奇跡』と呼ばれる事となった事件から半年、街から少し離れた荒野…


「やーーーーーーっ!!」

モリガンはワイルドボア(イノシシ)型モンスターをハルバードを両断にした。

「でないねー…」

ワイルドボア型のネームドモンスターが出没しているとの噂を聞いてやって来たフィリップとモリガンだったが…

「出ないな、『フェイタル・ファング』…」

今回は空振りに終わった。

「ふぅ………」

モリガンは額の汗を拭うと、彼女の耳のイヤーカフが、キラリと輝いた。

フィリップはそれを綺麗だと思ったが、同時にちくりと胸が痛んだ。

「かえろか。」

「ああ…」

2人はツァウベラッドに跨って、街へと走らせた。


     ※     ※     ※


半年前、2人は『境の村』を襲撃したゴブリンの一隊と一晩がかりの戦闘を行い、全滅させた頃には白々と夜が明けて来た。

村に入った2人は、村人たちから涙を流しての歓迎を受け、村長の厚意によって、彼の家で仮眠を取らせてもらい、目覚めた頃には昼近くになっていた。

そして午後半ばに、街の冒険者ギルドから出頭命令のテルが来て、ツァウベラッドで街に帰った頃には、夜…

2人はそこでギルドマスターから自宅謹慎処分を受けた。

どのみち2人には、休息が必要だった。

その謹慎処分も、結局、3日で解除された。

王国のエルフ達の動きが何かと遅いため、有能な冒険者を遊ばせておく訳には行かなかったのだ。

『パイライト』の2人は、通常任務に戻った。

もっとも、謹慎解除には他にも理由があったのだが…


ゴブリン殲滅の大規模作戦は、失敗に終わった。

『想定外の援軍』が敵に現れたのだそうだ。

何が現れたのかは何となく想像が着くが…

作戦に参加した軍人や、Bランク以上の冒険者たち、撤退支援のCランク冒険者たちに、多数の死傷者が出た。


『境の村の奇跡』だけが、あの日の唯一の勝利となった。


『パイライト』は英雄として祭り上げられてしまった。

あの日、冒険者ギルドの会議室にフィリップとモリガンが乱入した以降のやり取りは、表の飲食スペースに筒抜けになっていた。

フィリップが切った啖呵と、『境の村』がゴブリンの襲撃による全滅から救われたらしい事が、Dランク以下の冒険者たちの噂によって尾ひれがついて広まってしまったのだ。

国も、ギルドも、『英雄』を謹慎させ続ける訳には行かなかった。

国民の関心を、失敗した作戦から、『境の村の奇跡』へ向けさせたのだ…


それから、2人は街を歩いているだけでも声を掛けられる様になり、彼等を名指しでの依頼も、以前にも増して増えて来た。


     ※     ※     ※


プップー!!


不意にホーンの様な音が響き、三台のツァウベラッドが、フィリップとモリガンのツァウベラッドを追い抜いて行く。


アルバートのパーティー一行である。


先頭の黒いツァウベラッドには、アルバートと、後ろにエレン、

その次の白いツァウベラッドには、重装備の戦士、チャーリー、

最後尾を走るのは…ツァウベラッドの前半分に、後ろ半分が馬車の様になった、前輪一輪、後輪二輪のツァウベラッド…いや、これは最早『魔動バイク』と呼んでいいのか…とにかく、ベティという魔法使いが運転し、残り2人も後ろに乗っている。


彼等がツァウベラッドに乗っている理由は…本人の名誉のために説明するのは辞めておこう。

何故、アルバートはあそこまで、フィリップに…と言うよりツァウベラッドに食って掛かったのか、

何故、アルバートはあそこまで、ツァウベラッドの運用上の欠点を正しく(・・・)指摘できたのか。

まるでツァウベラッドに乗る自分自身の姿を、何度も何度も想像したかの様に…

廃鉱山で青石と赤石を採り、その他素材を集め、3か月前になんとか納品出来た。

アルバート機とチャーリー機は、『ロート』と同じ走行特化型の、更に出力強化したもの、本人たちは勝手に、各々を『ツァウベラッド・シュヴァルツ』『ツァウベラッド・ヴァイス』と呼んでいる。

三輪の物は『ツァウベラッド・ドライ』だ。非可変で魔法陣を展開出来、ベティに加えてエレンも、戦闘時はこちらへ移動し、弱いが詠唱時間が短く、魔力消費量も小さい魔法を魔法陣で強化する戦法に変えたらしい。

『ヴァイス』は、魔力コンデンサから魔力を供給しているが、『シュヴァルツ』は、エレンが魔力を供給してる。

エレンと2人で乗っても『ヴァイス』に着いて行ける様に、魔動エンジンを大型の物に換装し、その搭載スペースを確保するため、コンデンサの容量を削った。

『ドライ』の魔力供給元はベティだろう。結局、彼女は『ヴァイス』のコンデンサへの魔力充填を引き受けたらしい。


が…


フィリップは叫んだ。


「壊すなよーーーーー!それ、あと33回ローンが残ってるんだからなーーーーー!!」


先頭の『シュヴァルツ』が、ガクッと揺れた。


「ちょっとアル…気をつけてよ…」

アルバートの後ろにしがみついていたエレンが非難し、アルバートが呻いた。

「あいつ………余計な事を…!!」


ともかく…

共和国のヒューマン、特に冒険者は、『アイテムストレージ』や『テル』等の、出所不明のオーバーテクノロジーの使用を受け入れて来た歴史がある。

ツァウベラッドも、その一つとなるかもしれない…


     ※     ※     ※


街の冒険者ギルドに戻ったフィリップとモリガンは、ギルドマスターの執務室に呼び出され、こう言われた。


「お前ら…西のエルフの王国の冒険者ギルドに行って来い。」

ツァウベラッド・シュヴァルツ


アルバートが搭乗する、黒いカウルの走行特化型ツァウベラッド。

エレンを後ろに乗せる事が前提で、2人乗りでも他の機体に着いて行ける様に、魔動エンジンを大型化し、その搭載スペースを確保するために、コンデンサの容量を削った。結果、エレン無しではまともに走れない機体となっている。そして後ろのエレンのためにランスチャージを行わないため、危険なアクセルロックは搭載されていない。


『境の村の奇跡』の後、アルバートのパーティーは『ツァウベラッド』の導入を決定。納車後も意識の高いアルバートは、実際使用してみた上でのクレームを連日の様にフィリップに突き付け(周囲に危険を知らせるクラクションもこうして搭載された)、フィリップはその都度対処する羽目になった。

『境の村の奇跡』の後、フィリップは3台分のツァウベラッドの新規作成とその改修で多忙を極める事になるが、皮肉な事にアルバートの数々のクレームによって、ツァウベラッドは飛躍的に完成度を高める事となった。



現在、読みにくいとご指摘があった部分を再編集しておりますが、この期に『シュヴァルツ』の魔動エンジンとコンデンサの設定に関する部分を変更しました。

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