僕は彼女と謎のモンスターを退治した。
2人は正体不明のモンスターの巣とされる、村はずれの洞窟に移動した。
ツァウベラッドはアイテムストレージに納めて、徒歩での移動だ。
「ふぃりぽん、みえたよ。」
モリガンがはるか遠くを指さすが、
「僕にはもう少し近づかないと見えないな…」
「ふぃりぽん、むずかしいきかいいじりばかりしてるから、めがわるくなるんだよ…」
「いや、そういう次元の話じゃあ…見えて来た。」
洞窟の前には一匹の人型モンスター。見張りだろうか…
「モリガン…」
「うん…」
2人は足音を立てない様に気をつけながら洞窟に近づき…魔法の効果範囲に入ると、フィリップが【パラライズ】を唱える。
「BU!?」
突然、己の身が動かなくなったことに驚く人型モンスターだが、そこにバスタードソードを構えたモリガンが近づき、そいつの胴に突き付ける。
「BUHIIII!!」
人型モンスターは悲鳴を上げて倒れる。わざと声を上げさせた。
「buuuuUUUU!!」
洞窟の奥から何匹かの人型モンスターが駆け寄って来る。
フィリップは洞窟の入り口の真ん前に、剣と盾を構えて立つ。
人型モンスターが駆けて来る。こちらへ向けて、まっすぐに。お陰で狙いやすい…
【パラライズ】!!
洞窟から出てすぐのタイミングで、先頭のモンスターに呪文を当てると、身動きが取れなくなったモンスターにぶつかって後続のモンスターが転ぶ。そこへ…
「えーーーーーーい!!」
入り口の陰、中から見て死角になる箇所に待ち構えていたモリガンのハルバードが下り、モンスターを両断する。
視界が効かず、存分に武器を振るえない洞窟内では戦わない。洞窟から出たところを、順に叩き潰す。2人が経験を重ねた末に、編み出した戦法だ。
戦闘音を聞き付けて、出て来たモンスターを、次々に倒して行き、最後に仲間が倒されても出て来ない慎重な、あるいは臆病な者を、暗闇でも見通せるエルフのモリガンが先頭に立ち、見つけては倒して行った。
クエスト、完了。だが…
洞窟の前に転がっている、人型モンスター…人間の身体にブタに似た頭が乗ったそれの死体を見下ろして、フィリップとモリガンは呻いた。
「オーク、だな、これ…」
「うん…」
※ ※ ※
その後、2人は村へ帰り、クエストの完了を村長に告げ、村長を始めとした村人たちから浴びるようなお礼の言葉を受け、例の鳴子を撤去した後、ツァウベラッドに乗り、村を後にした。
なお、訪れた場所で毎回訊ねている、『この地にエルフはいないか?』という質問の答えは、やはり、『知らない』だった。
だが…
フィリップの心中には重い疑問が渦巻いていた。
(オーク…王国のエルフが敵対している、人型モンスター…共和国にはいないはずの、オークが何故…しかも、王国との国境から遠く離れた、こんなところに…)
山道はやがて終わり、平坦な荒野の街道に合流する。
(オークが何故…分からない…なら、視点を変えよう。オークがらみで、何か他に手がかりは無いか…!?)
街道を行く、2台のツァウベラッド…
(オーク…そう言えば、会ったばかりのモリガンが、ホブゴブリンをオークと見間違えていたな…今となってはあいつの盛大な勘違いだとも思えない。違うモンスターのはずのホブゴブリンとオークを、何故…!?)
やがて、街が見えて来た。
(ホブゴブリン…ゴブリンの上位種…同じ上位種であるゴブリンシャーマンは、ゴブリンとヒューマンの混血だ。では、ホブゴブリンは…!?ホブゴブリン…田舎者のゴブリン…田舎…田舎者って、何だ!?ゴブリンにとっての田舎って、どこだ!?)
街の門をくぐり、大通りを進む。陽は西に傾いていた。
(田舎…田舎…辺境…余所者…異邦人………異種族!?)
冒険者ギルド前でツァウベラッドを止めた時、その考えにたどり着き、ギルド内に入る。
「お帰りなさいませ。」
受付嬢が2人を迎えるが、フィリップは、
「モリガン、クエスト完了の手続きを頼む。」
と言い残し、ギルドの奥へ入って行く。
「ふぃりぽん…ごめん、あと、おねがい。」
受付嬢にそう言い残して、モリガンも後を追う。
「あの…ちょっと!」
大規模作戦の詰所になっている会議室のドアをバタン、と開ける。
そこに待機していた、アルバートをはじめとするCランク冒険者パーティーが、一斉にこちらを向く。
「…何だね君は…」
ギルドマスターがフィリップをギロリと睨んだ。フィリップは言う。
「山奥の村に、オークが出ました。」
「なんだって…!?」「オークがなんで共和国に…!?」
Cランク冒険者からガヤガヤと声が上がる。
「思うのですが、ゴブリンの上位種である、ホブゴブリンは、ゴブリンとオークの混血なのでは!?」
「「な…何だってーーー!?」」
フィリップの言葉に、冒険者たちから一斉に声が上がる。
「具体的な方法は分かりませんが、ゴブリンとオークは、関係を持っている。
少なくとも、街の周辺に多数のホブゴブリンが現れるくらい、何件もの交配が行われる程度には…」
それが本当なら、現在遂行中のゴブリン殲滅大規模作戦も、想定していたより険しいものになる。
「ふぃりぽん、それ、ほんとなの!?」
モリガンもたずねる。
故郷である西の王国のエルフも、オークによって多数の被害を受けていた。
それがゴブリンと関係している!?
ざわざわざわ…
その声を、ギルドマスターが、片手を上げて制する。
そして、いかめしい視線のまま、フィリップに言う。
「なら、お前、今から王国へ行って、エルフどもにその事を話して来い。」
「………」
フィリップは何も言えなくなった。
フィリップの話が正しければ、その先の話の展開は、『だから、オークと戦っているエルフ達と共闘しましょう』ということになる。
長年にわたって血みどろの戦いを続けていた、エルフと…それがいかに難しい事かは、彼自身も良く分かっていた。
「君のご高説は、Bランク以上の経験豊富な冒険者たちや、在野の賢者たちの間で、半ば定説となっていた事だ。分かっていたのだが、ずっとどうする事も出来なかったのだ、我々は。」
「そ…んな…」
「君はモンスターを倒す事については優秀な冒険者だ。これからは剣で倒せる敵だけを相手したまえ。
分かったら出て行け!!」
そう叫んでギルドマスターはびしっ、とドアの向こうを指さす。
「あ………か………」
その場に膝をつくフィリップ。
「ふぃりぽん!」
モリガンが声を上げる。
近くのテーブルに座っていたアルバートが蔑む様に言う。
「お前………何しに来たんだ!?」
と、その時…
「最前線の軍からテルです!!」
通信係になっていたギルドの職員が入って来る。
「予想を上回る敵が出現したそうです。後詰の冒険者に、撤退支援の指令が出ました!!」




