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僕は分からなくなった。

2人の話を終えて、階下の『酒場』に戻った時、掲示板の前に人だかりが出来ていた。

ただし、さっきとは顔ぶれが違っていた。


『明日は作戦不参加者は、作戦エリア内における冒険者活動を禁止』との通知だった。

「なお、明日はギルドの会議室を作戦参加者の詰所とします。そちらへの立ち入りも禁止です。」

受付嬢が付け加える。


「フィリップさん…」「フィリップさぁん…」


掲示板の周りに集まっていた後輩冒険者たちが一斉に不安気な顔をこちらに向ける。

中には昨日ホブゴブリン達から助けたパーティーもいた。

明日の作戦不参加の現役冒険者の中で、彼等『パイライト』が最高ランクなのだ。


「みんな、明日は作戦エリア外で仕事しよう。なるべく危険の少ないの選んで…」

「「はい!」」

フィリップの指示に、後輩たちが一斉に返事をする。


「あと、明日は『パイライト』様には、山奥の村での討伐任務に就いていただきます。」

「な…っ!!」

受付嬢の言葉に、フィリップの心の中が坂道を転げ落ちるようにドス黒くなっていった。

「そうまで…」「えい!」


モリガンが咄嗟にアイテムストレージから例の骨付き肉を取り出してフィリップの口に突っ込み、台詞を中断させる。


「もががががががががが!!熱ちぃぃぃ〜〜〜!!」


何すんだよ、モリガン…言いかけて、モリガンはフィリップにウィンクし、フィリップの口に入った骨付き肉にかぶりつく。これって間接…


「ひでぇな、ギルドも…」

そうまで(・・・・)してフィリップさんたちを、作戦から外したいのかな…」

後輩冒険者たちが口々に不満を言い合う。


(モリガン…僕が後輩たちの前で、あれを言うのを止めてくれた!?)

彼女の気配りに感謝すべきだろうが、にしてももう少し方法は無かったのか…


「ちなみに、明日、作戦に参加されるランクCの皆さんの任務は、『詰所での待機』です。」

受付嬢が言う。

「それって…フィリップさんたちが参加出来ても、出番はまず無かったって事!?」

後輩の1人が言うと、受付嬢はコクンと頷いた。

(じゃあ、アルバートも…)


「それから、先ほどの任務は、依頼者からのご指名です。詳細はこちらに…」

依頼書に目を通したフィリップの表情が、途端に強張る。

「なるほど…僕たちにはこういう任務の方がお似合いだ…」

というより、残った者たちの中で、この任務が出来るのは、彼等だけだろう。

依頼書には、こう書かれていた。

『人型モンスターの討伐、対象の詳細、頭数不明』…


『パイライト』以外のランクCはみんな出払ってる。

馬を持たない者が多いランクD以下は、現場まで徒歩か馬を借りるか…徒歩だと時間がかかるし、馬を借りるとクエストの報酬があっても赤字になる危険性がある。

おまけにターゲットは人型で正体不明…ツァウベラッドという『足』を持っている上、経験も豊富な『パイライト』にしか出来ないクエストだった。


     ※     ※     ※


明日はお前たちだけでも出来るよな。

そう言い残して、フィリップとモリガンは、ツァウベラッドに乗って、街を後にした。

今日のうちに現場に入るためだ。


     ※     ※     ※


「ようこそいらっしゃいましたぁ!」

依頼があった山奥の村に到着すると、村長とおぼしき老人が、村外れまで飛んできて二人を歓迎した。

「お話は隣村の村長からも伺っております。たいそう腕がたつとか…」

フィリップが話について行けないでいると、モリガンが、

「さんかげつまえに、となりむらで、とかげにんげんをたおしたんだよね。」

と言った。リザードマン討伐…そう言えば、そんな事もした様な…

「今夜はわしの家にお泊まり下され…」

村長は二人を村内へ導く。

「ふぃりぽん、あれ…」

モリガンが促した向こうには、何者かに荒らされた畑を前に、呆然と立ちすくむ農夫。

「まものがやったのかな…」

「…他にも被害が出ておりますじゃ…家畜をさらわれた牧場も…」

「…」

「だいじょーぶ。わたしたちがなんとかする!!」

モリガンが胸を張ると、村長は、

「おぉ!よろしくお願いします〜」

すがるように喜ぶ。


「お姉ちゃん…」

遠巻きに2人を見つめていた村の子供の一人が、モリガンに駆け寄って、こう言った。

「………その耳、本物!?」

「こ…これっ!失礼な事を言うんじゃない…すみません…」

子供をたしなめて謝ろうとする村長をモリガンは制し、子供ににっこりと微笑むと、

「ほんものだよー、さわってみるーー!?」

と言って、頭を低くして見せる。

「………」

子供がモリガンの耳に恐る恐る手を近づけて行き、あと少しで触れそうになった時…


ぴょこん!


モリガンのエルフ耳が、上へ逸れて子供の手から逃れる。

捕まえようとするかの様に子供の手が追いかけるが、モリガンの耳は上下左右に避ける。

「面白ーーい!!」

釣られて子供も笑った。

モンスターに襲われて、暗い雰囲気が渦巻いていた村に、わずかだが明るさが戻った様だった。


そして、通された村長の家で行われたのは、ささやかな歓迎の宴だった。

「どうぞ、お召し上がり下され。」

村の主要人物とおぼしき人々が並ぶ中、食卓に出されたのは、ささやかな夕食。だが…

「いいんですか!?」

現に農作物に被害が出ている状況で…

「はい。どうぞどうぞ…」

「では…」

「いただきまーす!」

遠慮するのは失礼なので、ありがたくいただく事にした。

(それに…ちょうどいい…)

夕食が終わった時、

「ターゲットとなるモンスターを目撃した方、皆さんの中にいらっしゃいますか!?あと、他にもいらっしゃったら、ここに呼ぶか、お家を教えていただけませんか!?」

今回はターゲットの事前情報が全く無いため、そこから行う必要がある。

その場に集まっていた猟師やら農夫やらから情報を集めて行くと、フィリップの顔がどんどん険しくなって行く。

(これって…)

隣に座っているモリガンに視線を送ると、相棒の女エルフも無言で首を縦に降る。

(やっぱり…)

全て話を聞き終えたフィリップは、

「分かりました。明日、ご依頼を遂行します。」

「お願いしますぅぅぅ!!」

涙を流してすがり付く村長に、モリガンは、

「だいじょうぶだよ。あたしたちがみんなやっつけるからね。もうこわくないよ…」


     ※     ※     ※


モリガンは他人の喜びを自分の喜びに出来る奴だ。

例えそれが異種族であるヒューマンであっても…

さっきの耳を触らせたのだって、村のみんなを元気づけようとしたに違いない。

僕たちは頼られているし、必要とされている。

多分、この依頼は成功するし、明日、村長からは盛大な感謝を受けるだろう。

それは、冒険者として大きな誉れのはず、なのに…


僕の心は、どうしてこんなに冷めているんだろう…


大規模作戦の方に参加したかった!?それも違うな…


『お前、本当に何をやりたいんだ…!?』


………


     ※     ※     ※


その夜、2人は村の周囲にある仕掛けを施した。

黒く塗った長いロープに、いくつもの同じく黒く塗った木の板と棒を着けた物…いわば鳴子である。

2人しかおらず、交代で夜の見張りが困難なための工夫だ。

その上で2人は装備を着けたまま、武器を枕元に置いて寝たが、幸いにして鳴子が鳴らず、

翌朝、2人はモンスター退治に出発した。


そして、時を同じくして…


2人がいる山奥の村から遠く離れた街で、


軍と冒険者共同の、ゴブリン殲滅大規模作戦が開始された…

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