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僕はあいつと言い争いになった。

フィリップとモリガンのコンビ、『パイライト』は、今日も戦い続けていた。


ランクCの2人が、ランクD向けのクエストを中心に遂行し、次々と成功を修めていた。

報酬は少ないが、頭数も少ないので2人で分けて十分以上な収入となった。2人しかいない故の危険もあったが、ランクCの経験でカバーした。

彼らの後輩の大量離脱による人手不足でニーズは常にあり、ツァウベラッドの機動力で、共和国のあちこちに出向いた。

エルフの女戦士を含めた2人組は非常に目立ち、評判は上々だった。

ここ4ヶ月で、ツァウベラッドにも改良を重ね、青いカウルを着けた機体を『ツァウベラッド・ブラウ』と呼んだ。

一方で、モリガンも練習の末、乗りこなせる様になり、ツァウバーフォームへの変形機構を廃し、走行に特化した赤いカウルの『ツァウベラッド・ロート』を製作した。


     ※     ※     ※


冒険者ギルド、飲食スペース、通称、『酒場』…


「それにしても、あぶなかったねー、さっきのこたち…」

「ああ…」

モリガンの言葉にフィリップも同意したが、別の意味での危険も感じていた。


(僕らはこれまで、順調に戦績を重ねて来た。…順調すぎた。

まず、ホブゴブリンが2体、次が、ゴブリンシャーマン、その後も、上位種を何体も。言い換えれば、それだけ多くの上位種が出現しているという事だ。

これは異常だ。さっきだって、新人がホブゴブリン3体にからまれていた。街の近くにホブゴブリンが現れ、ゴロツキとはいえ、人死にが出た事さえあった。

新人定番の、ゴブリン3匹討伐クエストは、ついに安全のため、危険手当が無くなった。上位種に遭遇したら逃げましょう。上位種目当ての上級者さんたちに任せて、という意味だ。


何が、起きてる…!?)


「よう、」

かつてフィリップを追放した、パーティーのリーダー、金髪ロン毛のアルバートが一行を伴って2人に近づいてきて話しかけ、フィリップの思索は中断された。

だがそんなフィリップの内心の不機嫌をよそに、アルバートはこう言った。

「お前、まだあのガラクタに拘ってるのか!?」

「…あれがあったら、どこへでも行けるぞ。」

ツァウベラッドをガラクタと呼ばれ、更に不機嫌になったフィリップが反論する。

「高価な素材をたくさん使うんだろう!?馬に乗れりゃ要らねぇじゃねぇか。」

「馬だって…育成や維持に多くの労力やエサ代がかかるぞ…」

「結局、馬に対する優位点は無いな。」

「工業製品だから量産化は可能だし、そうする事で安くすることは可能だ。」「昨日今日出来たものに命を預けられるかよ…馬の方が信頼出来る。」「それにあれなら、少し練習すれば誰でも乗れる…」「馬だって、練習すれば乗れるんだよ。それに、輸送力はせいぜい人間2人だけだろう。」「…それはお前の大好きな馬だって同じだろう。」「だったら信頼できる方を選ぶ…」「えい!」

モリガンがアイテムストレージから出した骨付き肉を、金髪ロン毛の顔面に押し当てる。例の骨の周りに肉が丸く着いている奴だ。


「熱ちぃぃぃぃぃぃぃ~~~っ!!」

アイテムストレージの中では時間が経過しないので、骨付き肉は作り立ての熱々のままだ。

「な…何すんだよ…」

アルバートが顔に着いた肉の脂を拭いながら文句を言う。

「あんたがつまんないこというからだよ…もぐもぐ…」

骨付き肉にかぶりつきながら言うモリガン。一体どんな動物の、どこの部位の肉なんだろうか…

「だがモリガン、それはマナー違反だぞ。」

フィリップが窘める様に言った。

「そ…そうだ。お陰で顔がベトベトだ…」

「食べ物屋で他の店の品物を出すのは…」

「違ーーーーーう!!」

「えー…これ、ここのちゅうぼうをかりてあたしがつくったものだよ~」

「そうか…ならいいのか…」

「良くなーーい!!」

どこかズレた2人の会話に、アルバートがキレる。

モリガンはともかく、フィリップはわざとずらしてる可能性が高い。


「まぁいい…あと、あの形が変わって魔方陣になる奴、ベティ…。」

「あいよ。」

アルバートのパーティーメンバーの女魔法使いが横から出て来て言う。

「あたしがあれ、使ったら、地面に穴が開くね。」

「…」

「強力すぎんだよ。本職の魔法使いが使ったら…あたしには要らない。」

「だそうだ。」

元々あの機能は、おまけでしかない。受け入れられなくても仕方がない。

「あと、あれ、動力は結局、魔法だろう。魔法の使えない一般人には、結局使えないぞ。」

「乗る人の魔力を使う必要は無い。魔法使いにチャージしてもらえれば…」

「はぁ!?あたしがなんでそんな事を…」

ベティが横から不満を漏らす。

「見ろ。魔法使いはプライドが高いんだ。チャージなんてしてもらえないぞ。結局、俺はあれに乗れないんだ。」

「…」

「それから、最大の問題だが…あれ、移動先ではどうするんだ!?洞窟の前に置いていったらゴブリンに盗まれる、フィールド戦でも邪魔になる…」「えい!」ぽかっ!

肉を食い終えた骨で金髪ロン毛の頭を殴るモリガン。


「痛ぇぇぇっ!!さ、さっきから何しやがんだ、この着け耳エルフ!!」

神秘的、弓と魔法が得意という共和国民のヒューマンが持つエルフのイメージに反するモリガンに、『あの耳は着け耳じゃないのか』という噂から着いた仇名だ。

「ほんものだもん!」

自分の耳を引っ張りながら言うモリガン。


「…ツァウベラッドは生き物じゃあない。馬とは違って、邪魔ならアイテムストレージにしまう事が出来る。」

フィリップがまたも反論した。

「…なに!?」

「それにフィールド戦では、わざと近くに置いてんだ。ゴブリンとか、無駄に知能がある奴ほど、あれを気にして、破壊するか奪おうとして、注意がお留守になる。倒しやすくなる…」

「そ…それはお前たちが2人しかいないから、姑息な手を色々考えなきゃならんだけだろう。結局お前らが、パーティーを組めない紛い物…」「もういっぽんいくか…」

アイテムストレージからもう一本骨付き肉を取り出そうとするモリガンに、アルバートは、

「や…やめろ…さっきから何すんだ…」

「すなおじゃないきんぱつろんげにおしおきだ!」

「…ぐっ!」

モリガンは時々訳の分からない事を言う。しかもアルバートには効いている様だ。


「この着け耳エルフ、さっきからうちのリーダーに何すんじゃぁぁぁ!!」

パーティーのもう一人の戦士、チャーリーが吠える。

「おー、やるかー!?」

モリガンがファイティングポーズを取り、

「あはははは…面白いね、あんたら…」

ベティが笑い、

「面白い、エルフ相手に弓勝負ってか!?」

フィリップの代わりに入った弓兵のフレッドが話しに乗り、

「…あっしは厄介事はごめんっすよ…」

「や、やめてよみんな…」

スカウトのダスティーとヒーラーのエレンが遠慮がちに言う。


「………やめろ、お前ら…」

妙に冷静に、アルバートが制止し、チャーリーが振り上げた拳を納める。


「もういい。あんなもん使っても何の役にも立たん。じゃあな!」

「おい…!」

アルバートはパーティーメンバーを引き連れて去って行った。

結局、何しに来たんだろうか…


「ふぃりぽん、わたしはすきだよ、ろーとちゃん…」

モリガンの言葉は本心だろう。

馬に乗れないモリガンは遠出が出来ず、いずれ冒険者として限界が訪れていたはずだった。

ロートちゃんもといツァウベラッドはそれを解決してくれたのだ。

「あたしたちはきのうも、ろーとちゃんにのって、やまのなかのむらまでいって、まものをたいじしたね。そのまえは、かわのそばのむら、そのまたまえは、おおきなどうくつ…

みんな、みんな、『ありがとう、ありがとう』って、とってもよろこんでたんだねー。」

モリガン…単純で純真な奴だ…

「これもみんな、ふぃりぽんのかけたまほうだねー、ありがとーー。」

そう言って、お日様の様な笑顔を自分に向けるモリガンと、それにドキっとするフィリップ。だが…


「おい…」

と、アルバートだけが戻って来て、フィリップに呼びかけた。

「うわぁ!な…何だよ…」

良い雰囲気をブチ壊されて怒鳴るフィリップに、アルバートは言った。


「お前………本っ当に何をやりたいんだ!?」


「………え!?」


「よく考えろ………じゃあな。」


「おい…」


     ※     ※     ※


僕の…やりたかった事!?


じいさんの残したツァウベラッドを完成させる…

冒険者になる…

ツァウベラッドを開発する資金や素材を稼ぐ…

冒険者として成功する…

ツァウベラッドで交通や輸送に革命をもたらす…

戦士になる…

魔法使いになる…

最近頻発している危険なモンスターの出現…

モリガンの兄弟を探す…

「パイライト」の名を売る…


あ…


あれ………!?

ツァウベラッド・ロート


モリガンが搭乗する、赤いカウルの走行特化型ツァウベラッド。


きっかけはモリガンが共和国の街で見かけた、古式ゆかしい馬上槍試合であった。

当時モリガンはフィリップの後ろに乗って移動していたが、

「わたしも『つぁうべらっど』で、あれ(ランスチャージ)をやってみたい」と言い出し、

自分がランスチャージに巻き込まれたくなかったフィリップは、急遽2台目を作成した。


右グリップがアクセルになっていたため、ランスチャージのために右手を放すとツァウベラッドが走れなくなるため、『アクセルロック』と呼ばれる、アクセルを入れっぱなしにする機構が追加された。

しかしこれは、有事の際に止まれなくなる欠点があるため、後に改良される。


なお、モリガンは最終的に本機を、「ろーとちゃん」と呼んで可愛がっていたが、当初彼女はフィリップの背中から降りる事を渋っていたらしい。何故だろう…

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