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僕は今日も彼女と走っていた。

『パイライト』結成から4ヶ月…


     ※     ※     ※


「ち…畜生ぉぉぉ…!!」

新米パーティーのリーダーの剣士は最後の力を振り絞って立っていた。

「う…うぅ…」

地面に倒れている戦士に、ヒーラーが

「ごめんなさい、ごめんなさい…」

と呟いていた。

出血がひどいが、もう回復させる魔力が残ってないのだ。

他の3人も、何も出来ずに震えていた。


ここは街から少し離れた荒野。


「な…何だよ…」

剣士が叫んだ。

「これ、ゴブリン3匹討伐って、初心者向けの簡単なクエストじゃなかったのかよぉぉ!!」


しかし、彼らの周りを取り囲んでいるのは、

ホブゴブリンが3匹。

絶体絶命である。

「GUEEE…」

ホブゴブリンの一匹が、嫌らしい笑みを浮かべて自分の獲物を高く掲げる。

「…っ!!」

6人は恐怖で目をつむる。そこへ…


ヒュン! ストッ!!「GUA!?」


どこからともなく1本の短い矢が飛んで来て、ホブゴブリンの手首に当たり、たまらず武器を落とす。さらに、


ウィィィィ…


謎の怪音が段々近付いて来る。

音の主は…首の無い鉄で出来た、真っ赤な馬の様な乗り物…ツァウベラッドに跨がった、赤に薄い金色の差し色が入った金属鎧を着た、戦士。

驚くべき事にその戦士はエルフで、しかも女性だった。

エルフの女戦士はハルバードの槍の穂先を前へ向けて構えると!


「えーーーーーーーい!!」ザシュッ!「GUA…」


手首を撃たれたホブゴブリン目掛けてスピードを落とさずに突撃(チャージ)する。胸を貫かれて絶命するホブゴブリン。


その後ろには、同じく青いツァウベラッドに跨がった、深い青に金の差し色が入った革鎧を着た男。

こっちはヒューマンの様だ。右手にはさっきボルトを放ったとおぼしきクロスボウが握られている。


キュルキュルキュルっ!


クロスボウから音がして弦が巻き上げられ、男性はそれを腰に戻す。

彼が跨がっているツァウベラッドの動力である魔動エンジンと同じ原理を用いた、巻き上げ機(クレインクイン)が着いているのだ。


「GUA!!」「GUA!!」

2匹のホブゴブリンが女戦士に抗議する様に声を上げると、女戦士はツァウベラッドを降りてハルバードを構える。その隙に男性がツァウベラッドで近付いて来て、6人全員に、

【グループヒール】!!

彼らの傷はあっさり回復し、それまで荒い息をしていた戦士の呼吸も穏やかになる。

「君たち大変だったねぇ。あとはあっちの怖ーいお姉さんがやってくれるから、安心して。」

青い革鎧の男性が穏やかな声で言う。

「きこえたぞーー!!ねぇ、これ、やっつけちゃうけどいい!?」

エルフの女戦士が言うと、聞かれて剣士はコクコクと頷く。

彼等には荷が重い相手とはいえ、状況的に獲物の横取りと取られても仕方がないので確認してきたのだ。

「モリガン、最近のゴブリンクエストは、危険手当は無くなった。気を使わなくていい。」

「そっかー…じゃあやろうかぁ…」


モリガンはホブゴブリン2匹にハルバードを突き付ける。


「このふぃりぽんはまほうがつかえるんだよーー!!」


フィリップがその後に付け加える。


「ほんの少し、だけどな…」


     ※     ※     ※


それからは、額に入れて飾りたいくらいの、何かのお手本の様な戦闘が繰り広げられた。


モリガンと呼ばれたエルフの女戦士はハルバードを軽々と振るい、2匹のホブゴブリンをものともせず相手をし、そこに、ふぃりぽん…フィリップ、だろうか…とにかくその男性は青いツァウベラッドを魔方陣に変形させると、次から次へと的確に強化魔法や弱体魔法を繰り出し、最後はフィリップ自身もショートソードを抜いて接近戦に加わった。

ホブゴブリン達は魔法でまともに動けない中、次々に倒れていった。


6人パーティーが基本のこの世界の冒険者の中で、彼らのやり方は異端だろう。

だが、こんなやり方もあるのか、と、6人は思った。


     ※     ※     ※


戦いが終わるとフィリップは6人に言った。

「さて…どうしてこんな事になったの!?」

「あ、あの…ゴブリン3匹って言われて、獲物を探して…」

「でも、ここまでまちからはなれたのは、あぶなかったねー。」

モリガンが言った。

「は…はい…」

「続けるかリタイアするかは君たちで決めるといい。どちらにしても、少し街の近くまで戻って。」

「しんじんさんは、たから()。むりしないでぼうけんしてねー。」

そう言い残すと、フィリップとモリガンは、各々ツァウベラッドに跨がって街へと走って行く。


後ろ姿を見送る剣士が呟いた。

「聞いた事がある。あれが、あの2人が、『パイライト』…」


『パイライト』結成から4ヶ月…


フィリップとモリガンの2人は今日も…


走り回っていた!!


「でもヒューマンの方は、いつも機嫌悪くしてる、取っつきにくい人だって聞いてたけど…」


その呟きが聞こえたのか、遥か前方で青いツァウベラッドがガクッと揺れた。


「言ーわーなーいーでー!あの頃の事は僕にとっても黒歴史なんだからー!!」

「あははははーー!!」

ツァウベラッド・ブラウ


フィリップの搭乗するツァウベラッド。前々回に登場した世界初のツァウベラッドに、青いカウルを着けたもの。

『ツァウバーフォーム』と呼ばれる、魔力強化形態に変形する事で、フィリップの魔力を一般的な魔法使いレベルまで高める事が出来る。ただしその間、ツァウベラッドは移動する事が出来ず、術者もツァウベラッドから動くことは出来ない。


ただし、非変形時の魔力増幅率でも、前方に設置された夜間走行時用のランタンを火種に、『ファイヤーボール』を使用する事が出来る。


変形機構は試行錯誤を繰り返した結果、各部に冗長な部分が見られ、機体を脆弱化させたという欠点もある。

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