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僕は彼女とコンビを組んだ。

「モリガン、一つ考えがある。」

フィリップは言った。


「この国ではエルフは非常に珍しい上、戦争の事を覚えている老人も、わずかだがいる。だからエルフがいたとしても、人目を避けて、隠れて住んでいる可能性が高い。そんなエルフを探すとしたら、国中に赴いてくまなく探すか、向こうにお前がこの国にいる事を知らせるかだ。」


「じゃあどーすれば…」


訊ねるモリガンに、フィリップは言った。


「これからもこの国で冒険者として活動する事。

冒険者をすれば、クエストで国中に行けるし、『エルフの冒険者』、しかも女戦士となると珍しいから有名になるし、いつか兄弟の耳にも入るはず。」

「おー!!」

「ただし、エルフはこの国では不信がられて仕事が来ない危険性があるから、ヒューマンである僕も一緒にやる。

僕と組めば、ツァウベラッドでどこでも行けるし、僕はツァウベラッドの実用試験と改良費用稼ぎが出来る。危険な仕事だけど、僕と君が組めばきっとやって行ける。」

「それじゃあ、これからもふぃりぽんといっしょなんだね、やったーーー!!」

エルフ耳をピコピコさせて喜ぶモリガン。家族探しはどこへ行った!?

「明日は二人揃ってランクCの辞令が出る。その後、早速何かクエストを受けよう。」

「うん!」

「あと…何かコンビ名が要るなぁ。何かインパクトのある…」

「ふぃりぽんにおまかせー…」

「…分かった。宿題にしとく。」


受付嬢とオバチャンは、そんな2人を見て、

「仲直り出来たみたいですね。」

「全く…あの宿六もたまには役に立つんだね…」

「聞こえとるぞーーー!!」

最後のは宿六もとい武器屋のオヤジの声。

しかし…そんな彼らの様子を、窓から覗き見る者がいた。


     ※     ※     ※


数時間後、深夜…


「掴んだぜぇぇ…奴らのヤサをよぉぉ…」


あの時、モリガンを襲おうとして、フィリップに【ファイヤーボール】で燃やされたゴロツキだった。

他の者達が【パラライズ】でまだ動けない中、彼だけが街に潜入し、冒険者ギルドを影から見張って、最後に二人が話を終え、モリガンが自分の部屋へ引き上げ、フィリップが自分の家へ戻った所まで確認したのだ。全員で寝込みを襲って復讐するために…!

「あの男は強力な魔法を使う危険な奴だ。一人暮らしの様だが用心のため全員で当たらなねぇと…」

ゴロツキは影の様に音も立てず街から抜け出すと、仲間の待つねぐらへ戻った。が…


「な…何だ、あれ…」


ねぐらの洞窟には、背中を向けてあぐらをかいている奇妙な人影が一つあるだけ。

しかも何やらクチャクチャ音をたてて食っている。

周囲に何か変なものが散らばっている。


月明かりに照らされる中、そいつがこっちを向き、彼に気付き、ニタァと笑った…


「あ…あ…あぁ…」


     ※     ※     ※


翌朝…


「こんな街の近くまで…!?」

フィリップは呻いた。

『そう言えば、あのゴロツキの事を街の衛視に通報した方がいいな』と、朝になって気付いて一人で衛視の詰所に出向き、

女の感でフィリップの気配りに感づいたモリガンと鉢合わせ、『わたしはだいじょうぶだから』と、彼女も襲われた証言をする事になり、

二人で衛視達を伴ってゴロツキどものねぐらに行こうとすると…

そこにいたのは、一匹のホブゴブリンだった。


「周囲に人間のパーツらしきものが散らばってるな…」

ねぐらの洞窟を、ホブゴブリンに気づかれない距離から遠巻きに見守る衛視は言った。

「彼らは全員やられたと考えていいみたいだけど、これじゃあ奴が邪魔で捜査のしようも無いね。どのみちこれはもう、我々ではなく君らの領分だよ。」

「衛視さん…」

フィリップは言った。


     ※     ※     ※


1時間後、街に戻ったフィリップとモリガンは、冒険者ギルドで正式にランクCに任命された。


     ※     ※     ※


辞令を受け取り、冒険者ギルドの『酒場』に、青い革鎧を着たフィリップと、赤い鎧を着たモリガンがやって来ると、そこにいた冒険者達は、一斉にこっちを向いた。


金髪ロン毛が声をかける。

「お前…やっぱ冒険者向いて無いわ…」

「…!」

「お前、これからもずっとモンスターだけ相手するつもりか!?

あの時お前が奴らを始末するなり、縄を打って衛視に突き出すなりすれば、奴らは少なくともモンスターに惨たらしく殺される事は無かったんだ。」

あの時、モリガンも剣を抜いたがゴロツキどもにそれを振るえなかったらしい。

そしてフィリップも、奴らを殺せなかった。

6人パーティーを組んでいなかったので、奴らを拘束する人的余裕も無かった。

更に言えば、最早誰も知らぬ事だが、ゴロツキどもは彼等の住まいを突き止め、報復しようともしていたのだ。

いずれにしろ、彼らの失態だ。

「お前らは紛い物の冒険者だ。さっさと辞めちまえ!」


「いや、やる。冒険者を続ける。」

フィリップは言った。

「しかし、紛い物、か…いいね、それ…」

「あぁ!?」


フィリップとモリガンはツカツカと受付まで歩くと、受付嬢はいつもの無表情で、

「お二人をご指名のクエストが来ております。」

と告げる。

あのゴロツキどもを殺したホブゴブリン一匹の討伐、街周辺の安全確保。依頼人は、さっきの衛視だ。関係者という事で、回してもらった。

書類にサラサラと必要事項を記入すると、まずモリガンに見せる。

「あははははーーー」

と、彼女は笑う。

どうやらOKらしいので、受付嬢に渡す。受付嬢はそれに目を通し、

「はぁ!?」

と、すっ頓狂な声を上げる。

「あの、これは…」

慌てる受付嬢に、フィリップはすました顔で、

「僕らのコンビ名。今、考えた。」

と言うと、モリガンもその横でニッコリと微笑む。


「か…かしこまりました。それでは…『パイライト』様、クエストを受注されました。」


「ぱ…」

冒険者達は一斉に声を上げる。

「「「パイライトだってぇぇぇーーー!!!」」」


それは、鉱山の国の者なら誰でも知ってる、金の紛い物の名前。


フィリップは唖然とする金髪ロン毛に言う。

「ありがとうな、アルバート、名付け親になってくれて。

これからも名を売らなきゃならないから、こういう人を食ってる感じのがちょうど良かった。

じゃ。」


手を降ってアルバートの目の前を通り過ぎ、ギルドを出て行くフィリップ、去り際に金髪ロン毛に

「べぇ!」

と舌を出して見せるモリガン。

彼らが去ったギルドで、

「クックックッ…」

と、何故か愉快そうに、口に手を当てて笑いを殺すアルバート。


青と赤、ヒューマンとエルフ、魔法戦士と戦士、男と女…パーティーを組まぬ紛い物(パイライト)の、二人の冒険者の行く末や、いかに…

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