僕はついにあれを完成させた。
10分後、街の近くの洞窟…
「なにここー、えるふなんていないよー…」
相変わらずボケた発言をするモリガン。
『この国にいるエルフを知っている。』明らかに怪しい男達にそんな事を言われ、のこのこ着いて行ったのだ。そいつらのアジトに…
「嘘でーーーす!俺達にエルフの知り合いなんていませーーーーん!!」
嘲り笑うゴロツキども。
「だ…だましたなーーー!!」
ようやく気づいたモリガンに、ゴロツキどもはニヤニヤと笑い、
「珍しいエルフの上に、これだけの上玉だ。高く売れるぜ。だがその前に…少し味見をさせてもらおうか…」
この世界では既に奴隷制度は廃止されている。
だが、違法になっても美しい女性を餌食にする者は、いた。
闇に潜っただけだった。
ィィィィィ…
「く、くるなーーーー!!」
モリガンは腰の剣を抜いてゴロツキどもに向けるが、その先端はカタカタと震えていた。
これまで多くのモンスターの血を吸ってきた剣を、振るうことが出来なかった。
ィィィィィ…
「た…」
モリガンは叫んだ。
「たすけてふぃりぽーーーん!!いますぐきて、わたしにまほうをかけてーーーー!!!」
ウィィィィィ…
「…さっきから何の音だ、これは…!?」
ゴロツキ達とモリガンが洞窟の外を見ると、音の主は…
「何だ、ありゃぁ…首の無い、鉄で出来た、馬!?」
そうとしか表現出来ない物が、こっちへ向かって走って来る。
乗っているのはもちろんフィリップだ。
正確にはその『馬』には、脚すら無かった。
その代わりに前後に車輪が着いており、首の代わりに火の灯ったランタンが着いている。
その近くから左右に管が伸びており、フィリップは手綱を握る代わりに、それを左右の手で握っている。
我々はこれとよく似た物を知っている。
ただし、『それ』と異なる点は、前後の車輪は、細い物が2つ重なっている事と、そもそも動力源が違うため、『それ』程の大きな騒音も、排気ガスも出さない事だ。
【ファイヤーーーーボーーーーーール】!!
フィリップが呪文を唱えると、ランタンの前が開き、そこから小さな火球が飛び、真ん中に立っていたゴロツキに命中する。
「ぎゃーーーーー、熱ちぃぃぃぃぃーーー!!」
ゴロツキの上半身が炎に包まれ、それを消そうと地面を転がる。
(まほうだーーー!!ふぃりぽんはきょうりょくなこうげきまほうがつかえないっていってたのにーー!?)
それがフィリップが跨がっている奇妙な物のおかげなのは、魔法に疎いモリガンにもすぐに分かった。
キキィーッ!!
フィリップはゴロツキどもから少し離れた位置でその乗り物を停止させると、右の取っ手の根本に着いている矢印を、『rad』から『zauber』に切り替える。
ウィィ…
前後の車輪が更に左右に分かれ、横になると、そこには各々に魔方陣が描かれていた。
4つの魔方陣を起点に、さらに一つ、大きな魔方陣が地面に描かれる。
【エリアパラライズ】!!
またもフィリップの魔法が飛んだ。残ったゴロツキどもが全員、麻痺の呪文で体が動かなくなる。
敵全体への弱体化魔法。またもや彼が使えないはずの魔法である。
「ふぃりぽーーーん!!」
モリガンがフィリップに駆け寄る。
「ごめん、遅くなって。」
「ううん、きてくれるってしんじてたよ。でも…」
モリガンはフィリップが跨がっている奇妙な物に目を向ける。
「これって、なに!?」
「ツァウベラッド」
フィリップはそう答えた。
フィリップはなおも熱い熱いと言って地面をのたうち回っている、
名前の通り本当にゴロついているゴロツキに、【ウォータースフィア】の呪文で水球を作り、掲げると、
「もう二度と、僕たちに関わらないと約束するなら、その火を消してやる。」
「します…約束します。だから…ぶふぇっ!!」
ゴロツキに水球をぶつけて火を消すフィリップ。彼は再びハンドルの根本を操作し、『zauber』から『rad』に戻すと、ツァウベラッドは再びバイクの形に戻った。
「帰ろう、モリガン。後ろに乗って。」
「え!?これわたしものれるのー!?」
「2人までなら乗れる。麻痺の魔法が効いているうちに逃げよう。」
言われるままにモリガンはツァウベラッドの後ろに跨がる。
「しっかり掴まって。行くよ!」
「うん!」
モリガンはフィリップの腰に腕をまわしてしがみつく。
ウィィィィィ
ツァウベラッドはその場でUターンして、街へ向かって走り出した。
「うわぁぁぁー、はやいーーー!!」
左右の景色が、次々に後ろに流れていく。
馬に乗れないモリガンにとって、それは初めての経験だった。
「ほら、もう街が見えて来た。」
街の城門前には、日の出ているうちに街へ入ろうとする者でごった返していた。
それら多くの人に、ツァウベラッドに跨がるフィリップと、その後ろに、彼に抱きつくように跨がるモリガンは見られた。
モリガンはフィリップにまわした腕にギュッと力を強め、背中と、胸に、お互いの体温を感じながら、このままの速度だと城門を潜ったらギルドまですぐに着いてしまうので、二人はツァウベラッドがもっとゆっくり走れればいいのにと思った。