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僕は彼女とすれ違った。

翌朝、フィリップの家…


形を例えるなら、小さな鉄アレイ。

冒険者ギルドで戦士職の者達が、日常のトレーニングで用いていた、あれだ。

短い棒の両端に、廃鉱山で採掘して来た赤石と、青石の欠片が刺さっており、

更にその短い棒に垂直に左右に短い棒が結び付けられており、台座の上にしつらえられた軸受けの上に乗っている


「…これ、なに!?」

モリガンはきょとんとした顔で聞いた。

「いいか…これの左右に両手をかざして、魔力を注ぎ込むんだ。左手から右手に向ける感じで…」

フィリップがそう言って、実際にやって見せると…

鉄アレイの一方、赤石がググっと上がり、反対に青石が下がり…そのままクルクルと、垂直な軸を中心に回転し始めた。

「うわ!」

驚くモリガンに、フィリップは

「…で、今度は右手から左手へ向ける感じで魔力を注ぐとと…」

回転がいったん止まると、今度は逆向きに回り始めた。

「おー!」

さらに驚くモリガン。

「右、左、右、左…」

魔力を込める手を左右に変える度、回転方向が変わる。

「すごーい!!」

エルフ耳を上下にピコピコ動かして喜ぶモリガン。

「お前もやってみるか!?」

フィリップはモリガンにその玩具を渡す。

エルフならたとえ使えなくても魔法の手ほどきは受けているはずだ。

「わーーーーーおもしろーーーーーい!!」

モリガンが左右の手をかざしている玩具の、赤と青の鉄アレイがグルグルと回転し、彼女のエルフ耳が更にピコピコと動いた。


「それで遊んでていいから…」

そう言うとフィリップはモリガンに背中を向けた。

やれやれ…突然訪ねて来た時は驚いたが、これで「作業」に専念できる。

モリガンが遊んでいる『玩具』。あれが、原理の根本だ…


同日、夕方、冒険者ギルド…


「だからって…ブッ倒れるまでやる事は無いだろう!!」

「ごめ~~~~ぇん…」

日が暮れるまで『玩具』で遊び続けた結果、魔力切れで倒れ、フィリップにおんぶされて冒険者ギルドへ帰って来たモリガンだった。

「お疲れさん、フィリ坊。あとはあたしがやっとくから…」

オバチャンがフラフラのモリガンに肩を貸す。

「じゃあ、僕はこれで…」ギルドの扉から出ようとするフィリップに、モリガンが言った。

「ふぃりぽん~あしたはぼうけんにいこうねー…」


フィリップの家…


一人になった彼の住み家で、フィリップはある事に気づいた。

「もしかして今日、僕の家に女の子がいたの………!?」


     ※     ※     ※


翌朝、フィリップの家…


「ふぃりぽん、ぼうけんにいこうー。」

あーそーぼー、とでも言う様な口調で言うモリガンに、

「ごめん、今、忙しい。」

フィリップは背中を向けたまま、何やらやりながら答えた。

「そう…ねぇ、ふぃりぽん…このいえ、だれもいないのー!?」

「両親は流行り病で死んだ。あと、じいさんもいたけど、その少し前に…」

「さみしいね…」

「もう慣れた…今、忙しいんだけど…」

「………わかったー…」

モリガンはとぼとぼとフィリップの家を後にした。

フィリップはその間も、こっちを向かず、手を止めなかった。

「もう少しで、こいつが完成するんだ…」


フィリップの家を後にしたモリガンも、

「…わたしだって、やることがあるもんね…」

そう言って、街の人混みの中へ消えて行った。


     ※     ※     ※


翌朝、冒険者ギルド…


「モリガン、いるか!?」

昨日の埋め合わせをしようとギルドを訪ねたフィリップだったが…

「モリガンさんでしたら、朝早くからお出かけになられました。」

受付嬢はそう答えた。

「………分かった。」

フィリップは冒険者ギルドを後にした。

「…今日もあっちの作業をしよう…もう少しなんだ…」


その前に…と、フィリップは裏通りの古書店に立ち寄る。

特に目当てがあった訳ではない。

「あれ」の開発の参考になる本は無いかと日々通い、最早それがならいとなっていたのだ。

(それにしても…)

本棚を物色しながらフィリップは思う。

(一人で何かしてるらしいが…あいつはいったい何をしてるんだ!?)

…と、そこで一冊の本に目が止まる。

『エルフ語教本』

第3次大戦後に共和国軍が敵であるエルフの事を知る一環として、エルフ語について研究し、教本として纏めた物だった。

エルフは多くの言語に通じており、モリガンもエルフでありながら普段は共和国語を話していた。

だが、本来の母国語はもちろんエルフ語だろう。

(僕もエルフ語を喋れれば、あいつの考えている事が分かる…!?)

フィリップは即座にその考えを否定した。馬鹿馬鹿しい。


数分後、店員の「ありがとうございましたー」という声を背に、フィリップは古書店を後にした。

(早く作業の続きをしよう…)

脇にはさっきの店で買った『エルフ語教本』を抱えていた。


     ※     ※     ※


そんな感じで、お互い都合がつかず、一緒に冒険へ行かず、フィリップも『あれ』の開発作業と、その合間のエルフ語の勉強に夢中になり、分かったつもりですれ違い続きで一週間が過ぎた頃…


フィリップの家から歓声が上がった。


「で…出来たーーーーー!!」


これを作る金を手に入れるために冒険者にまでなって、その適性が無く思うように行かず、一時はあきらめかけていた『あれ』が、ついに完成したのだ。


「これでモリガンも喜んでくれる!」


そう口に出して言って初めて、自分がここ数日、モリガンと一緒にクエストに出ていなかった事に気づく。

(まずい…ずっとほっぽり出してしまっていたな…)


     ※     ※     ※


冒険者ギルド…


「モリガンさんでしたら、ここのところずっと一日中どこかへお出かけですが…」

受付嬢はそう答えた。

「え………!?も…モリガンは、どこへ行ったか知らないか!?」

「存じません。」

受付嬢は無機質にそう答えた。

「お言葉ですが、モリガンさんの事は、フィリップさんが一番良くご存じなのでは!?」

「なんで…」

「…パートナー、なのでしょう!?」

言われてフィリップははっとなる。

「ぼ…僕、あいつの事を、結局何も知らなかった…」

「エルフが自分の国から出て、冒険者になって、ヒューマンの国まで来てるのよ。」

オバチャンが続ける。

「何か、もごすごく深い理由があるに決まってるんだけど…あんた、何も聞いてないの!?」


呆然となるフィリップ。


「よう、とうとう相棒に見限られたか!?」

ちょうどそこへやって来た金髪ロン毛が口を挟む。

ヒーラーの少女エレンを始めとする、他のメンバーも一緒だ。

「いい機会だ。もう冒険者なんか辞めて、まっとうな職に…」

言いかけて、

「あの女エルフでしたら、うちの兄貴たちが、街の外へ連れ出すの見ましたよ。」

パーティーメンバーの一人である、ダスティーという通り名のスカウトの小男が口を挟む。

「え…!?」

驚く一同。スカウトが言うところの『兄貴たち』とは、盗賊ギルドのメンバーの事だろう。

「あの兄貴たち、かなりたちの悪い人たちなんスよ。だからあの女もきっと…」

「どこだ!?そいつらは今、どこにいる!?」

フィリップがダスティーの首元を掴む。

「いてて…く、苦しいっス…お、教えてもいいっスけど、も、もう間に合わないっスよ…」

そういうダスティーに、フィリップは、


「いいや、間に合う。今の僕なら…」

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