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僕はエルフに出会った。

自分を追放したパーティーが、その事が原因で機能しなくなり、後に自分に頭を下げて、戻って来てくれと頼んで来る…そういった展開は、どうやら物語の中にしか無いらしい。


今、僕の座っているテーブルの横を、笑いながら通り過ぎて行った一団が、僕の元パーティーメンバー達だ。

先頭を行くリーダー、金髪ロン毛の戦士の首からは、ランクDのタグが下がっている。順調に戦績を上げているらしい。僕を追放したパーティーは、どこも…


僕はまた、一人になった…


     ※     ※     ※


「…ップ、フィリップ!」


冒険者ギルドで食事、宿泊スペース…通称、『酒場』を切り盛りしているオバチャンが、テーブルでチビチビと水を飲んでいる青年に声をかける。

革鎧に短めの剣と、小ぶりの盾を装備した、見るからに暗くてとっつきにくそうな男だ。首から下げているタグは、最低のランクE…


「あんた、昼日中からこんな所でで何してんだい!冒険者だったら依頼受けて仕事しな!」


「………もうこのギルドに、僕とパーティーを組んでくれる物好きはいないんだよ…」

フィリップ、と呼ばれた彼は鬱陶しそうに答える。


オバチャンははぁ…とため息をついて、

「…じゃああんたは、なんで冒険者なんかになったんだい!?」

と、問う…

「………金が、いるんだよ…知ってるだろ!?」

彼は素っ気なくそう答えた。

と、そこへ、


ガラン、ガラン、と、ベルの音がして、ギルドの入り口の扉が開き、

「いらっしゃい」

と、オバチャンが声をかける。入って来たのは、


透き通った金髪碧眼の、革鎧を着て剣を腰に挿した美少女。だが何より目を引くのは…


そのアーモンド形の瞳と、尖った耳。


(エルフ…)

西の森の王国に住む、永遠ともいえる時を生きる妖精…

この東の鉱山の共和国との戦争はとうに終わったというのに、未だ交流はほとんど無い。例え冒険者と言えども、だ。

それがどうしてここに…


ちなみに首から下げているタグは、ランクE。フィリップと同じ、駆け出しの様だ。


(ま、僕には関係ないか。オバチャンもうるさいし…)

フィリップはのらりと席を立つと、掲示板の前でオロオロしている少女を横にのけて掲示板をじっと睨み、

「これ受けます。」

と、掲示板に貼られた1枚のクエスト募集を指さす。

廃鉱山でゴブリン族3匹の討伐、危険手当あり、ランク制限無し。安全確保のための間引きだ。

これなら達成出来るだろう。そう、ソロでも…


「かしこまりました。」

受付の席に座る受付嬢は、無表情かつ事務的に、フィリップの応募手続きをする。

「じゃ、行って来る。」

素っ気なく言ってギルドを出て行くフィリップに、オバチャンは

「気をつけて行っといで。」

と声をかける。


なおもオロオロとしていたエルフの少女は、去って行った青年がくぐって行ったドアと掲示板を何度も見比べた末、自分もさっきの青年と同じクエストを受ける事を告げ、受付嬢と手続きを済ませると、オタオタとギルドを後にした。

「行ってらっしゃいませ。」

無表情に言う受付嬢の隣りで、オバチャンは2人が出ていった入り口のドアをしばし見つめた末に、言った。

「あの娘大丈夫かねぇ、あのクエスト受けて…」


     ※     ※     ※


1時間後、廃鉱山洞窟…


ゴツゴツとした岩肌が露出した、暗く狭い洞窟。名前通り、かつては鉱山として機能していたらしいが、今となってはゴブリンやバット(コウモリ)系モンスターの巣となっている。駆け出し冒険者にとっての「主戦場」の一つだ…


戦闘を終えたフィリップの足元には、緑色の肌に尖った耳の小人の死体が横たわっていた。

ゴブリン。この東の鉱山の共和国周辺に多く住み、住民を襲う小鬼だ。

「これで2匹…」

フィリップはゴブリンを倒した証に身体の一部を切り取ると、

「もうこの辺にはいないな…」

と、来た道を戻って行った。


本坑の広場を避け、枝道で1匹でいるゴブリンを標的に倒していた。ソロであるため安全のためそうせざるを得なかったのだが、あと1匹、都合よく1匹でいるのがいてくれれば…

と、そこへ、


「きゃーーーーーーーーーっ!!」


女の悲鳴が聞こえた。本坑の方からだ。枝道と本坑とが合流する角に身を潜めて、向こうの方を伺ってみると、そこにいたのは…

(あのエルフ…!!)

ギルドにいた女エルフの冒険者だ。2匹の巨大な鬼族に囲まれ、パニックを起こし、両手で持った剣をデタラメに振るっている。

(ホブゴブリンか…よりにもよって…)

ホブゴブリン…ゴブリンの上位種だ。このまま放っておけば彼女は『負ける』だろう。だが…

(放っておく訳にも行かないよな…)

それからフィリップは盾の後ろにしまっていた本を取り出し、ぶつぶつと何やら唱えると、彼の目の前に、何やら小さな光の玉が現れ、彼の術が完成する。


【ヒール】!


その瞬間、光の玉が女エルフの方へと飛んで行き、ホワンと音を立てて、彼女の傷を癒す。

治癒魔法。彼女が傷を負っていたかどうか確認していないが、念のためだ。

「GA!?」「GA!?」

2体のホブゴブリンが、自分たちを邪魔した主の方を見る。


「あ…」

女エルフが呆然としている中、更にフィリップから魔法が飛び、彼女は再び光に包まれる。防御魔法だ。そして、やって来たのが、ギルドにいた青年である事に気づく。


「大丈夫か!?」

フィリップは問う。

「まだ戦えるか!?」

フィリップが彼女に駆け寄りながら、足元に2匹のゴブリンの死体が転がっているのに気づく。

この女がやったんだろうか…


「え…あ、は、はい!」

女エルフは再び剣を構えると、2匹のホブゴブリンに対峙する。


「あと2体、行くぞ!!」「おー!」

女エルフがホブゴブリンに駆け寄ると同時に、フィリップは魔法の詠唱を始める。


【スロー】!!


女エルフに斬りかかろうとしたホブゴブリンが靄の様なものに包まれたかと思うと、敵の動きが泥の中でもがいているかの様に遅くなる。

女エルフはアーモンド型の目を大きく見開いて、異変が起きたホブゴブリンを見つめ…ゆっくりと降ろされて来た錆びた剣を、難なく自分の剣で受け止めた。彼女の後ろの青年は、続けて魔法を詠唱する。


【パラライズ】!!


もう1体のホブゴブリンもまた靄の様な物に包まれ、こちらは動きが止まった。雷にでも打たれたかの様にピリピリと痙攣している。更に青年から魔法が飛ぶ。


【ポイズン】!!


まだ動ける方のホブゴブリンの、緑色の肌が、さらにどす黒くなった。まるで体内に毒でも湧いたかの様に…


(よし…)

フィリップは自分の剣に【エンチャント】の魔法をかけると、近接戦に加わろうとする、が…


「U,UGOOO…」

ホブゴブリンの1体が、何合か女エルフと切り結び、沈んだ後だった。


(ありゃ…ならば…)


フィリップは女エルフに【リジェネレーション】の魔法をかけると、【パラライズ】で身動きの取れないもう一体のホブゴブリンに【ポイズン】をかけ、女エルフとともにそちらに剣を振り下ろす。


先の戦いで彼女が負った傷が魔法で徐々に癒えて行く中、体内に毒を盛られた上で2人に斬りかかられたホブゴブリンは、仲間と同じ道をたどった。


     ※     ※     ※


「ふう…」

剣の血糊を落として鞘に納めるフィリップ。それから女エルフの方に向き直り、

「あんた、大丈夫かよ…」

と、言いかけたところに…


「すっごーーーーーーーい!!!」


女エルフがぬっとその整った顔を突き出し、無邪気な笑顔でフィリップの両手を握った。興奮しているのか尖った耳が上下にピコピコと動いている。


「ね、ね、ね!あれ、どうしたの!?」


「はあーー!?(な、何だ、この頭の悪そうな女は…!?)」


自分に顔を近づける美女にドギマギしながらも、フィリップは彼女の言動に面食らった。

生まれてこの方、おとぎ話などで聞いて持っていたエルフに対する『知的な』『神秘的な』というイメージを、その数秒の邂逅で彼女は跡形もなくきれいさっぱりとブチ壊してくれた。


「ね、ね、おしえて!あれ、なに!?さっきの『もやーーーっ』ていうやつ。すごいね、すごいねーー!!」

そこから更に両耳をピコピコと上下させる。

(な…何言ってんだこいつ、エルフってのは、みんな魔法使いなんじゃないのか!?それなのにあの程度の魔法を…)

先の戦闘でフィリップが使った魔法は、いずれも初歩的な物ばかりだった。だから…


「大した事は無いよ。」

女エルフの握る両手を鬱陶しそうにほどくと、フィリップはぶっきらぼうにこう言った。


「僕はほんの少し、魔法が使えるだけさ…」

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