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疲れからの熱ですよね?

寝る準備が整ってやっとベッドへ入れた頃には結構な熱があって朦朧としていた。

今側に居るのがリリンなのかも定かではない。

というか、もう誰でもいい。

早くこの熱と目眩と気持ち悪さから逃げ出したい。

ただそれだけを考えながらベッドで目を閉じる。

湯を使う前には医師に色々見られて只の疲れからくる熱だろうと診断を受けたがいつもの事。

定期的に来るこの体調不良は悩みの種だった。

別段体が弱いわけでもないのに。


「ミルティス様、ホットミルクを持ってきました」


「あり…がと」


もう声も掠れて出にくい。

でも耳に響くこの声だけはローニの物だと分かる自分が少し可笑しい。


「今回は少し楽そうですね。こんな時に笑みが見れるなんて思いませんでした」


頭を優しく撫でてくれる大きい手はひんやりしていて気持ちいい。

薄く目を開けると視界も歪んで回る。

隣に居るはずのローニは黒い塊で私の周りを回っているみたいに見える。

目眩の気持ち悪さに目を閉じるとフッと眠気が強くなった。


「ゆっくりおやすみなさいませ」


薬の影響なのかいつも熱を出すと眠気に襲われる。

夢すら見ない程深く寝ているのに、今回は少し違う感覚がする。

熱の出方も緩やかだし掠れていても声が出る。

ローニが言ったように少し笑いも出てきた。

そして今眠いのに眠っていない中途半端な状態。

目を開けないけど側にあるローニの気配は分かっている。


「眠ったか…」


頭を撫でていた手がゆっくり遠退くのを感じたが同時にベッド端が沈む感覚もあった。


「徐々に間隔が開いてきているが今回の症状は軽い方だな。俺の気にも慣れたという事か」


いつもとは違う畏まっていないローニの口調。

それだけでも心臓が静かに早くなっていく。


「それでも油断は禁物だな。まだ完全に俺の生気を取り込んでいない…耐えて下さいねミルティスお嬢様」


枕元が沈んだかと思えば耳元でローニの声がした。

そして唇に冷たくて柔らかい感触がしたかと思えば、人肌温度のほんのり甘い香りのする液体がゆっくり流れ込んでくる。

それをコクリと飲み込むと近くでフッと笑う気配を感じた。

その感覚が何なのかを確信する前に睡魔に負けて本当に眠りの時間となった。




目が覚めたのは朝のとても早い時間。

使用人ですら起きていないようなとても静かな時間帯だ。

カーテンの隙間からは微かな朝日が入ってくる程度。

上体を起こしてみると熱も無く体も軽かった。

熱が出たのが夢だったかのように調子がいい。

いつもそう。

結構高い熱が出る割りには一晩寝たら終わり。

風邪と違うし、疲れから来る発熱はこんなものなのかといつも不思議で仕方がない。

自分の体なのに分からないものだ。

いつも一番に気付くのがローニ。

急に上がる熱を予知して体調不良になる前に気付いている。

エスパーかも知れないと何度思った事か。


「今回も助けられちゃった」


ふと唇がほんのり甘い感じがした。

唇に触れても何もない。

不思議な感覚に戸惑いが生まれた時、狙ったかのように扉を小さくノックする音が聞こえた。


「はい」


返事を返すと扉がゆっくり開いてローニが現れた。

夜の寝た後もローニが側に居た気がするのにこんな朝早くにも来るなんて、ちゃんと寝てるの?

そんな疑問が口から出る前にローニが側に来て膝を付き、私の顔を覗き込んだ。


「顔色が良くなりましたね」


「私はもう大丈夫だから。そろそろ朝礼の時間でしょ?執事長が遅れるなんて笑い者になるわよ?」


朝早くに行われる侍従や侍女達を集めて連絡事項等をやりとりする。

私達が起きる前から働いてくれている彼らには感謝しかない。


「執事長の職は辞職して参りました」


「ん?」


「これからはミルティスお嬢様専用の執事としてずっとお側におります」


「………待って!どういう事!?」


「そのままです」


「無理!」


「もう決まった事です」


「私にはリリンが居るわ!」


「侍女が側に居るのは当たり前です。私は侍女しか出来ない事以外を担当します」


無茶苦茶だ。

早朝なのに声を荒げて目眩がする。


「何で……何でローニは私から離れないのよ」


これ以上好きになりたくないのに。


「離れる理由がありません。そして側に居る理由は私がミルティス様の側に居る事を望んで居るからです」


「止めて〜」


ローニはきっと深い意味で言ってる訳ではない。

そう自分に言い聞かせても顔は勝手に熱くなって情けない声が出てしまう。


「ずっと側に居てくださいね、ミルティス様」


甘い声が脳内で溶ける。

本当に劇薬を流し込んでくるローニは強くなった朝日に照らされてそれはそれはとても格好良かった。

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