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弱ると甘えたくなります

屋敷に着いた私は自分が思っていた以上に疲れていたみたいだ。

急に体が重く感じて2階にある自分の部屋がとても遠く感じる。


「大丈夫ですか?」


「ええ…疲れたみたいだわ」


室内着よりも遥かに重くて締め付けてくるドレスがとても煩わしい。

それでも着替える為には一度自分の部屋まで行かなくてはいけないと分かっているのに足が進まない。


「失礼いたします」


ローニが耳元で囁いたかと思ったら体がフワリと中に浮く。


「きゃあ!」


咄嗟にローニの首に腕を回して抱き付いてしまう。

そう、私はローニに抱き上げられてしまったのだ。

これを人はお姫様抱っこと言うそうだ。

顔が近い。

体が密着している。

これで正気を保てとは難儀な事ではないか。


「お嬢様!!?」


何度叫んでも必ず駆けつけてくれるリリンはローニと私の姿を見ると驚きで目を見開いて固まった。


「お…かえりなさいませ。お嬢様はどうなさったのでしょうか」


それでも瞬時に自分を取り戻して状況を整理しようとしているリリンはとても出来た侍女なのだ。


「お疲れで少し熱があるようだ。寝室の用意をして医師の手配をしなさい。お前はホットミルクを作る用意をしなさい。作るのは私がやる」


「はい、かしこまりました」


執事長らしくリリンと近くに居た侍女に命令すると足早に私の部屋へと向かう。

私は熱があったらしい。

ローニに言われるまで自分でも全然気付いてなかった。

でもそう言われてみれば少し寒気を感じる。

私が体をふるっと震わせると抱えてくれていたローニの手に力が入った。


「早く気付いてたら……」


口の中でモゴモゴとローニが何かを呟いた気がしたが、頭までボーッとしてきてるみたい。


「ローニ?」


「すぐにリリンが来ます。寝間着に着替えたらベッドでお休み下さい。私はホットミルクをご用意してきます」


部屋に入るとドレッサーの椅子に優しく座らせられ、膝を付いて私の下から見上げるように話してくれる。

今では膝を付いたらローニを見下す事が出来るのねと感慨ふけっているとローニは立ち上がって離れて行こうとした。

咄嗟に手が動いてローニの服を掴んで止める。


「ミルティス様?」


振り返ったローニは再び膝を付いて私の言葉を待ってくれる。


「行かないで。ローニが着替えを手伝って」


普通の状態なら絶対に言わないであろう、言ってはいけないはしたない言葉が口から溢れ落ちる。

私の中では全てが重く辛いこの状況からローニが救ってくれるような気がしていた。

他意はない。

本当に子供の我儘のようにするっと言葉が出た。


「ミルティス様、その様なことは決して他の方には言ってはいけませんよ」


「ローニだから言ってるのよ」


「本当に……貴女は私を振り回す天才ですね」


いつも振り回されているのは私の方ではないか。

そんな疑問も出てきたが、今はただローニに甘えたかった。


「ローニは私が嫌い?」


「それはあり得ないことです」


「なら手伝って」


聞き分けのない子供が駄々を捏ねるように頭を左右に振ると酷い眩暈に犯された。


「貴女の服を脱がす男は私だけですが、その時が来るまではお預けです」


耳元で小さく囁かれた言葉に一気に熱が上がる。

ローニが離れた気配がした時リリンが部屋へ入ってくる。


「では後を頼む」


「はい、かしこまりました」


深々と頭を下げるリリンを見ながら私の頭を一撫でしてローニは部屋から出ていった。

耳に残る熱い囁きはいつまでも私の熱を下げてくれなかった。

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