お決まりの朝
「…お嬢様…」
ローニの柔らかい表情は私にしか見せないと今ではよく分かっている。
「お嬢様」
ローニから呼ばれるのが何よりも心地良くてくすぐったかった。
「ミルティスお嬢様」
薄っすら目を開くと10年の歳月を感じさせない整った顔が視界一杯に見えた。
驚きで目が飛び出るかと思うくらいに目を見開くと、ローニの顔が優しく崩れる。
「っ…キャー!!」
「何事ですかお嬢様!?」
悲鳴に機敏な反応を見せた私付きの侍女、リリンは扉を壊す勢いで部屋へと駆け込んできた。
「し、し、し、執事長!何をなさっているのですか!!」
「ミルティスお嬢様を起こしに来ました」
ローニはリリンに何を当たり前のことを聞いているという顔で振り返る。
「いえ、私が聞いているのはそういう事ではなく…」
「貴方がなぜ私のベットで一緒に寝ているかって事よ!!!!」
「起こしに来た私を引っ張り込んだのはミルティスお嬢様ですよ」
添い寝をするように私の隣に寝ているローニはにこやかに私の真っ直ぐな金髪を梳く。
そしてローニの胸元を握っていた私の手を優しく撫でてくる。
「なっ!?」
手を離してベットから逃げるように降りてリリンの背後に隠れる。
ドキドキと脈打つ胸を抑えながら深呼吸。
「執事長、毎日申し上げておりますが、お嬢様も年頃となりました。未婚のお嬢様を殿方が起こすのは如何なものかと」
「それに貴方はもう私付ではなく執事長なのよ!私ではなく他の執事達の事を気にしなさい!!」
リリンの後ろから目元までを出して、ベットからゆっくり降りてくるローニを睨み付ける。
少し乱れた格好は色気が零れ落ちて駄々漏れ状態。
扉から何事かと伺っているメイド達もポッと頬を赤らめてキャーキャー言っている。
「執事長はとても便利かと思ったのですが…ふむ、そうですね」
乱れた服を直したローニは納得顔でリリンを通り越して私の方まで歩いてくる。
寝乱れた恥ずかしい格好を見られないようにリリンを盾にして動きつつ、少しずつローニから距離を取る。
「朝食の準備は整っております」
爽やかに笑っているが、部屋から出て行こうとしない。
「そう。分かったから早く出ていって」
「今日は何色のドレスに致すますか?今日は天気も良いですし、暖かくなってきているのでピンクのドレスが宜しいかと思います」
私の話も聞いていない。
爽やかな笑みを浮かべながら両手に持った最新型のピンクとグリーンのドレスをこちらに見せてくる。
「貴方には関係ないわ!着替えるから出て行ってちょうだい!」
何を言ってもスルーされると毎朝の行いで分かっていた。
強硬手段として見せたくもない姿を晒してローニを力尽くで部屋から追い出す事に成功した。
いつも思うのだが、身長も体格も力でさえローニに敵わないのに絶対私のやる事を拒否しないのはなぜなのか。
話も聞かなくて人の言う事をスルーするくせに私が力尽くで何がする時には大人しく従ってくれる。
毎朝同じ攻防をして本当に何がしたいのか分からない。
私は私がいる時にしか見ないローニの微笑みを思い浮かべて重い溜息を吐いた。