夢の中の記憶
「ローニはここに来て何年になるの?」
少し白い靄がかかる視界には20代後半程に見える執事服の男が立っている。
その光景に懐かしさを感じながらとても整った顔でスラリとした長身の男を必死で見上げる。
とても高いローニの顔を見るだけでも首が痛くなりそうなのを見越して、ゆっくり私の前に片膝を付く。
その仕草だけでも優雅で目が離せなくなる。
光の加減なのか、微かに赤みが交じる黒い瞳を細めると鬼の執事と言われているなんて嘘の様に柔らかくなる。
8歳の少女が恋心を募らせるには十分な容姿を優しそうに崩しながら甘いテノールで答えてくれた。
「今年で253年になります」
父であるバルフォード侯爵の右腕と言われていた彼を娘付きの執事にしてしまうほど父様に愛されていた私は箱入りというよりも、少し頭が弱い娘だった。
「まぁ!そうなの!?ローニは凄いのね!」
幼子でも冗談だと分かるだろうローニの言葉をそのまま信じ込み、深緑色の目を輝かせて綺麗に撫で付けられている黒髪を優しく撫でる。
「これからも私の側に居てね?」
「勿論でございます」
乱暴にはしてないのにローニの髪が少し乱れてしまったのを覚えている。
それでも優しく笑ってくれた。
「ミルティスお嬢様のお望みのままに」
ローニはその言葉の通り10年経った今でもずっと私の側に居る。