目覚め
──"ズキリッ"という痛みで目が覚める
「おぉ、やっと目を覚ましたか」
「アナタ良かったですわね」
「あぁ。そうだ、エイジ私が誰だか分かるか?」
二人の大人が心配そうに見つめていた。
(父さん? 母さん? どこだ、ここは?)
四方を真っ白い壁に囲まれた部屋と呼んで良いか分かりづらい空間にベッドが一つ、どうやら自分はそのベッドに寝かされているようだった。
「意識は大丈夫そうなのか? 声は出せそうか? 目が覚めたとは言え心配だな」
「3日も眠ったままでしたものね」
「よし待っていろ、いま先生を呼んでくるからな」
「えぇ、お願いしますわね」
(戻ってきたのか? どうやって?)
突然、異世界から元の世界に戻され頭が混乱する。
何とか落ち着こうと瞼を閉じ、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
気持ちが落ち着いてくると、ある一つの考えが頭に思い浮かぶのだった。
(もしかして、ただの夢だったのか?)
──異世界で目覚めたこと
──性別が女に変わっていたこと
──魔法を使ったこと
──シアと出会ったこと
──追手に追われたこと
──『ニャ』の語尾が特徴的な少女とシアと3人で魔族の国を目指したこと
──謎の集団に襲われたこと
──右腕を無くしたこと
すべて夢だったのだろうか……
ベッドに横になっていると白衣を着た医者と自分の父親が部屋に入ってくるのが見えた。
医者の話しを聞くと、どうやら俺の『右腕』に異常が見つかったという事らしい。
(右腕? そういえば、右肩の付け根辺りから感覚が無くなっているような気がする)
「ぐぅっ……! あれ?」
右腕に力を入れ手を挙げようとしたが、右肩から下がピクリとも動かない。
(どうなってるんだ?)
「どうしたんだ? 突然唸ったりして?」
父が不安そうな顔で俺の顔を覗きこむ。
「右腕が動かないんだ……」
「なに?!」
「そんなぁっ」
俺の右腕の状態を知った両親は、『父親は怒りに似た表情』を『母親は不安に押し潰されそうな表情』を、それぞれ浮かべているのだった。
「先生、栄治の腕は治るんですか?」
「お願いしますっ! この子は野球が大好きなんです。利き腕が動かないなんてあんまりです……」
「ええ、ご安心ください。もちろん最善を尽くします。栄治君の腕を元通り動かせるよう、我々医療スタッフ全力で治療にあたらせて頂きます」
両親は医師の話しを聞き落ち着きを取り戻していった。
いくつか検査をしたあと、右腕以外に異常が無ければ一時帰宅の許可が貰える事になった。
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無事検査を終えた俺は右肩の付け根から先を固定された以外、特に不自由の無い状態で病院を出る事になった。
──病院を出て父親が運転する車に乗せられる
──嫌な予感がする
「父さん、前っ!!」
「えっ?」
金属がぶつかる大きな音が聞こえると同時に痛みが体全体に広がっていくのを感じる。
徐々に意識が遠退いていくのを自分はただ黙って受け入れるしかなかったのだった……