魔族との出会い
「いきなり大きな声を出してどうしたんだい?」
目の前のお婆さんが心配そうにコチラを見ているが今は、
そ れ ど こ ろ で は 無 い !
急いで窓ガラスに近付き自分の姿を確認する。
◇セミロングの髪
◇パッチリした二つの目
◇小さな口
◇華奢な肩
◇少し膨らんだ胸
どれも男の自分に似つかわしくないものだ。
衝撃の事実にワナワナと肩を震わせていると、
「オラッ! ノロノロしてないでサッサッと来い!」
ドスの効いた如何にもガラの悪そうな男の声が聞こえてきた。
(往来の真ん中で出すような声じゃ無いぞ)
先程無様な大声を出していた自分の事を棚にあげ声のした方を見る。
数m離れた位置に、身長2mはあろう大柄な男が灰色のフードを被った人物を引っ張っているのが見えた。
「奴隷の分際で手を煩わせるんじゃねぇ!」
バチーン! という大きな音と共に奴隷と呼ばれた人物が殴り飛ばされる。
周りにいた通行人は遠巻きにそれをただ見ているだけだった。
(何だアノ野蛮人は。誰か止めに入らないのか?! そうだ、警察はどこだ)
周りをキョロキョロと探してみたが警官らしき制服を着た人物は見つからなかった。
「いつまで寝てるんだ、早く起きて歩け!」
殴り飛ばさせた人物は横になってピクリともしない。
それを見ている大柄な男はイライラしている様子で、倒れて動けないフードの人物に尚も暴行を続けていた。
(くっ…何て酷いことを。許せない!)
あまりに酷い仕打ちにいてもたってもいられなくなる。
(誰も助けないなら俺がやるしかないっ!)
──自分よりはるかに大きな相手だ
──だが体格の差など関係ない
──ただ一方的に振るわれる暴力を止めたい一心でフードを被った人物を庇う位置に飛び込んで行く
「これ以上の暴力はやめろ!」
「あぁんっ?! 誰だこのチンチクリンは?」
「誰でもイイだろ、とにかく人を殴るのはやめるんだ」
「…どけ」
"ドンッ!"と肩を叩かれると痛みと共に景色が一回転する。
自分の体が簡単に吹き飛ばされた事に驚き、殴られた痛みを感じる暇など無かった。
「おい! 早く起き上がれ。俺の邪魔をしたんだ、この程度で済むと思うなよ。」
「ぐぅっ…」
男が近付き片腕を"グイッ"と掴んで持ち上げられた。
「なんだ? 小僧だと思ったら女だったのか。ハッ! この街にも気合いの入った女が居たんだな」
"ガッハッハッハッ"と男耳障りな笑い声をあげたのだ。
耳元で不愉快な笑い声を聞かされイライラが溜まってくる。
(癪に障る笑い声だ…黙れっ)
「っん…!!?」
男は突然笑い声を止め困惑した表情で目をキョロキョロとしだした。
笑い声が止まったことに満足すると同時に一つの疑問が生じる。
(なんだこの感覚は……黙れと念じたら男の笑い声が止まった?)
殴られた衝撃で朦朧としていた意識が完全に覚めるのを感じる。
(もしかして念じた事が現実に起こったのか? まさかな……いや、試してみるか?)
自分の予測が正しいか検証する為、今度は捕まれた腕を放すよう念じてみる。
(掴んでいる腕を放せっ!)
念じると同時に掴まれていた腕が解放されていく。
男は自分の意思とは関係なしに動く体に目を大きく見開き驚いているようだ。
この動きに自分の予測が正しかった事を確信する。
(ハハハッ……なんだよこれ。超能力かよ)
「んっ、んっ!」
男は声を出せず唸り声をあげる事しか出来ずにいる。
その様子を見た俺は、男が困惑している内にフードの人物を逃がす事にした。
「さぁ、今のうちに」
「えっ?」
倒れて動けないフードの人物に手を差し伸べて起き上がらせる。
「んーーーっ!」
男はその行動に気づき真っ直ぐコチラに近づいてきた。
「くっ、近づくな!」
男を睨み付け自分から離れるよう念じると、
「ぐわっーーーーーー!!!」
自分を中心に風が巻き起こり、大柄の男を軽く吹き飛ばしてしまったのだ。
「キャッーーー!」
自分に一番近かった影響だろう、フードの人物にも突風に似た強い風を浴びせてしまう。
風に飛ばされてしまわないよう懸命に腕を伸ばし、
「この手に掴まれ!」
"パシッ!"と手を握り何とか突風に耐える。
足を踏ん張り飛ばされないようしていたが、風は強く頭を覆っていたフードが捲れてしまった。
そこには、本来、人の頭に無いはずの角らしきものが突き刺さっていたのだった。
「ええええぇ?! 頭から角が生えてるううぅ?!!!」
往来の真ん中で俺は人生二度目の大絶叫を上げてしまうのだった。