シア先生
「魔導師には4つの階級があります」
魔導師のクラスと聞いた俺は、ある出来事を思い出すのだった。
(出来れば忘れていたかったが、前回のループの時に追手の人達が俺の事を『大魔導師』って言ってたよなぁ。シアの話しだと俺は世界魔導師って事らしいけど、結局どっちなんだろう……?)
俺は追手から死にもの狂いで逃げた事を思い出しながら、うろ覚えの知識を披露するのだった。
「あ~そういえば、大魔導師って言うクラスがあるんだっけ?」
「はい。流石はマヒル様です」
「なんじゃ、知っておったのか。つまらんのぉ」
俺の発言を聞いたシアは嬉しそうに、アンは退屈そうな表情をしている。
「では、他の階級についてご存じの事はありますか?」
「世界魔導師と……、あとは知らない」
「ぷっ……あははっ。なんじゃお主、知っておったのは大魔導師の事だけじゃったか!」
俺のにわか知識を知ったアンは、お腹を抱えて笑うのだった。どうやら、俺の発言が笑いのツボにハマったみたいだ。
アンの笑い声を聞いていると、少し離れた位置から"こほんっ"という可愛らしい咳払いが聞こえてきた。
「アン様、あまり人の事を笑うのは良くない事だと思いますよ。マヒル様は、まだコチラの世界に来て日も浅いのですから、知らない事が有って当然では無いでしょうか?」
「うっ……、そうじゃったな。すまんのぉ」
シアのお叱りを受けたアンは、"シュンッ"として俯いてしまう。
二人の様子はまるで本物の先生と生徒のように見え、俺はその様子を微笑ましく思いながら眺めるのだ。
(こうやって見ると、シアって本当に先生みたいだな。アンの方は凄い年上だったから、もっと堅苦しい人なのかと身構えていたけど、精神年齢は俺と近しいモノを感じる……)
アンの年齢が300歳を越えていると聞いた時はかなり驚いたが、どうやら精神年齢が年齢に比べかなり低いようだ。
もしかしたら、外見に引っ張られる形で精神の年齢も下がっているのかもしれない。
俺がそんな事を考えていると、目の前に居たシアは姿勢を正してコチラに向き直った。
「では改めて『魔導師の階級』について、お教えいたしますね」
「お願いします」
中断していたシア先生の講義が再スタートしたのだった。
◇
シアの講義は、ちょっとした雑学を交えながら進めるモノだったので面白く聞く事が出来た。
俺の知識に合わせてくれたのか、学年平均以下の"残念"な頭脳にも分かりやく丁寧な内容であった。
あえて欠点をあげるとすれば、雑学を交えたぶんだけ話しの時間が長くなってしまった事だろうか。
俺の隣に座っていたアンは、知らぬ間に寝てしまっていたのだ。
(シアって教え上手なんだな。たぶん他の先生が同じ内容で講義をしたら、俺もアンと同じように眠っちゃってたかも)
シアがした講義内容の要点をかいつまむと、
~~~~~~
■魔導師の階級
↑高い
・世界魔導師
・大魔導師
・魔導師
・見習い魔導師
↓低い
~~~~~~
という感じだった。
「魔導師の階級についてはこれくらいにして……、長くなりましたし一度休憩を挟みましょうか?」
「いや、調子もイイしこのまま続行しよう」
「はい!」
「Zzz……」
相変わらず俺の隣に座るアンは寝ていたが、過去最高に頭が冴えていた俺は休みなく講義を受け続けるという判断を下すのだ。
この時した判断がとても軽率で有った事など、今の俺は知るよしも無かったのだった。
◇
ざっくりと内容をまとめると、魔導師は『基本的』に一つの系統しか魔法を極められ無いとか、複数の系統を極めた者を大魔導師と呼ぶとか、世界魔導師は世界に干渉する力を持っているとか、色々と説明をしてくれたが脳の記憶容量の少ない俺の頭には知識として定着する事は無かったのだ。
「うーん……」
休みなく講義を受けきった俺の頭からは、"プシュー"と言う機械が出すようなオーバーヒート音が聞こえてくる。
「マヒル様、顔が真っ赤ですが大丈夫でしょうか? もしかして、何かご無理をされているのでしょうか?」
「いや。久しぶりに勉強したから、少し疲れただけだよ」
心配そうにコチラを伺うシアに、俺は大丈夫だよと片手を挙げた。
オーバーヒートした頭を落ち着かせるべく、体を伸ばし凝りを取ったり、深呼吸して心を落ち着かせたり色々と行う。
なんとか頭の回転が多少戻ってきた俺は、
(魔導師のクラスについては何と無く分かったが、俺の体を作り上げている魔法についてはまだ分かって無いんだよなぁ)
と、本来知りたかった情報を思い出す。
「えっと、俺の体を作った【写し見】と【空想創造】って具体的にどんな魔法なの?」
「ふむ。やはり気になるかの?」
隣で寝ていたアンは、いつの間にか起きていたようで腕組をしながら厳かな表情をしていた。
「そりゃあ、自分の体の事だからね。とても気になりますよ!」
俺が食い気味で話しかける様子を、アンは"ニヤニヤ"とした表情で見てくる。
「アン様。引き続き私がマヒル様にお教えしてもよろしいでしょうか?」
アンがいたずらっ子の目をしている事に気付いたシアは、すかさず俺とアンの間に入る。
「うーん、もう少しマヒルで遊びたいんじゃが……、まぁ良いか。シアよ、この者にワシの偉大さを教えてやるのじゃ」
「はいっ!」
外見がもう少し大人びていれば王者の風格だと言えるのかもしれない。しかし目の前のアンは、慎ましやかな胸を大袈裟に張った少女でしかなかったのだ。
シアの方はというと、どこから出したのか分からない眼鏡をかけ始める。
俺はそんなシアを見て、突然眼鏡を取り出した事による驚きより眼鏡姿が様になっている様子に目が奪われるのだった。
(眼鏡姿似合うなあ……。まさに美人教師って感じだ)
眼鏡を"クイッ"と上げたシアは、
「では、続きを始めましょう」
と、見えない黒板を手で指したのだ。
シア先生の二時間目の講義が始まるのだった。