体の秘密
お婆さんの突然の発言に、俺は相手の意図が掴めず頭が混乱してしまう。
「世界に呼んだ? どういうこと?」
混乱した頭で俺は"シドロモドロ"になりながらも、何とか言葉を絞り出すのだった。
「『言葉通り』と言いたいところじゃが、まあ詳しく説明していこうとするかの」
目の前のお婆さんは、いたって落ち着いた雰囲気で静かに語り始める。
「まず、お主がコチラに呼び寄せられたのは偶然の事なのじゃ、という事を理解して欲しい」
「偶然?」
「そうじゃ」
『偶然』という言葉を聞いた俺は、何故か少しだけ"ホッ"とした気持ちになる。
俺のそんな様子を見ていたお婆さんは、優しげに頷いたのだ。
「お主をコチラの世界に呼び寄せたのは魔法なのじゃが、その魔法名は【魂の遷移】というものなのじゃよ」
俺は遷移と聞き、元の体から今の体に魂が移動したのだと漠然としたイメージを持つのだった。
「俺は魂だけコチラの世界に移動したと言う事なの?」
「うむ。そういう事になるかのぉ」
お婆さんは目を細めながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
俺は言葉の続きを無言で促すのだった。
「具体的に魂の遷移がどのような魔法かと言うとじゃな……」
お婆さんはコチラを焦らすかのよう、時間をかけて口を開く。
「コチラの世界で用意した器、つまり今のお主の身体じゃな。その身体に一番『適応』する魂を別の世界から探し出し、そこで見つけた魂とコチラの器とを融合させる魔法なのじゃよ」
「なるほど……」
実感は無かったが、どうやら俺の魂はこの体と相性が良いらしい。
そんな相性の良い自分の体を"ペタペタ"と触っていると、
「うっ……! 今はお主の身体じゃから強くは言えんが、出来ればあまり変な所を触るで無いぞぉ」
目の前の人物が赤面しながら注意してきたのだ。
俺は自分の体を一通り調べ終えると、突然ある疑問が頭に思い浮かぶ。
「あ! それと聞いておきたい事が有ったんだけど、俺とアンの姿が一緒なのって何でだっけ?」
「ん? そういえば詳しくは説明してなかったかのぉ。どれ、ちょっと待っておれ」
そう言うと、煙で姿が隠れると同時に目の前には少し幼さの残る少女が現れたのだった。
「うわ~、本当にマヒル様そっくりですね。不思議です」
その様子を見ていたシアは、アンの姿を"キラキラ"とした目で眺めていた。
「ふーん、これが俺の姿なのか」
俺はというと、ガラス越しでしか自分の姿を確認していなかったので、アンの姿が珍しく興味津々で見るのだった。
「ふっ……。ワシが絶世の美女だからといって、あまり見惚れるで無いぞ。惚れられても困るからの」
そう言ったアンは、凄いドヤ顔だった。
シアは頬を少し赤らめ恥ずかしそうにしていたが、俺は幼い少女が大人に憧れて背伸びをしているようにしか見えず、その様子を微笑ましいと思うのだった。
(そういえばアンが言うには、俺の体は用意された器なんだっけ。具体的にどういう意味なんだろう?)
『なぜアンと俺は同じ姿なのか?』未だ解明されていない謎について、俺はアンに聞いてみる事にした。
「俺の体は用意されたモノなんだよな。つまり、アンは自分の体と『同じ』物を作って、その体に俺の魂を入れたって事なの?」
俺の質問を受けたアンは、少し驚いた様子を見せた。
少し間が空いて、アンは少し微笑みを浮かべながら話し始める。
「物わかりが良い子はワシ、好きじゃぞ」
「まず、お主の身体を形成した魔法は何かと言うと、二つの魔法を組み合わせたモノなのじゃ」
アンは指を二本、目の前に掲げた。
「一つは【写し身】という魔法じゃ。これで外見を用意し、もう一つの魔法【空想創造】で生命に必要な臓器などを作り出したのじゃよ」
アンの話しを隣で聞いていたシアは驚いた様子で、
「あの空想創造ですか?! アン様も世界魔導師クラスの方だったのですね!」
と、シアは興奮気味にアンに急接近するのだった。
「マヒルが世界魔導師なら、元となったワシが同じ能力を持っていてもおかしくないじゃろ?」
アンの方はというと、シアの急接近に特に何も感じていない様子であった。
シアとアンが"ワイワイ"やってる所、俺はというと専門用語の応酬に理解が追い付かず呆然と立ち尽くしているだけだった。
「世界魔導師ってなに?」
「うん? お主、コチラの世界の知識がまだ乏しいのじゃったな。そうじゃシアよ、良い機会じゃ。マヒルに、この世界について色々と教えてやるのじゃ」
アンはコチラに目をやると、不出来な生徒に教えてやるようシアに命令をしたのだ。
「はい、わかりました! では、マヒル様。まず始めに魔導師の階級について解説しますね」
俺の目の前で、シアの青空教室が始まるのであった。