オリジナル
「ほぅ……、お主もうそこまで魔法を使いこなしていたのじゃな」
突然、背後から声をかけられる。
「誰だ?!」
俺は驚き声を荒げてしまう。
「ふむ。先ほどぶりじゃな」
「?」
声のした方を振り返ったが、見知らぬ少女が一人居るだけだった。
(知らない人だよな……、ん? なんか見覚えが有るような気もする)
知らないような知っているような何とも言えない感覚に襲われる。
俺が複雑な表情をしていると隣に居たシアが、困ったような顔をしながらコチラに話しかけてきた。
「あの……、マヒル様には、お姉さんか妹さんが居たりしますか?」
「いや、俺は一人っ子だよ」
「そうですか」
「?」
シアからの質問の意図が分からなかった俺は、首を傾げてしまう。
その様子を見ていた謎の少女は、
「やはり、ワシはかわいいのう! その首を傾げた感じ最高じゃ!!」
と、興奮ぎみに話すのだった。
全く話しについてイケない俺に説明する事もせず、謎の少女は次々とまくし立ててくる。
「して、お主。この世界に転生したのは、なん度目じゃ?」
「え?」
(転生の事を知ってるのか? いや、そもそも俺の事を知ってるのは何でだ? 一体、こいつは何者なんだ?)
突然の質問に正直に答えて良いのか悩む俺に、謎の少女は焦れてきている様子であった。
「あまり待たせるで無いぞ。ワシは見た目ほど気の長い方では無いのだからな」
謎の少女は腕を組ながら、"プンプン"と言う擬音が聴こえてきそうな態度で俺を威圧してくる。
俺はその様子を見て、何かに気づくのだった。
「あーーーっ!」
「いきなり叫んで、なんじゃ一体?!」
「今の俺と姿一緒じゃん!!」
「……は~、なんじゃ今さらそんな事で驚いていたのか。どんくさいヤツじゃなぁ」
謎の少女もとい、ドッペルゲンガー少女は肩を竦めながら"やれやれ"といった様子でコチラを見てくるのだった。
「なんで姿、同じなの?」
「姿が一緒なのは当然じゃろ。ワシの身体を元に作り出したのが、お主なのじゃから」
「ほうほう。なるほどねぇ……」
『なるほどねぇ』と言ってみたが、実際のところ俺は少しも理解が出来ていなかった。ドッペルゲンガー少女の突拍子の無い発言に、俺の思考は停止していたのだった。
そんな俺の都合などお構いなしに、目の前のドッペルゲンガー少女は身を乗り出したながらコチラに質問を投げ掛けてきた。
「さて、ワシはお主の質問に答えたのじゃ。次はワシの質問にお主が答える番じゃぞ」
「しつもん?」
「おいおい。忘れてしまったのか? 転生したのは、『なん度目』じゃと聞いておるのじゃ!」
「あぁ、その事ね。俺が覚えている範囲だと、二回目だよ」
「なんじゃと?!」
ドッペルゲンガー少女は俺の回答に驚き仰け反ってしまう。
「用意した身体に相性の良い魂を召還した訳じゃが、まさか、たった二回の転生で魔法を使いこなすとは驚きじゃ……」
「お主、天才じゃな……」
「ありがとうございます!!」
前の世界では学校の成績は中の下で、運動も得意では無かった。
そんな俺が『天才』とおだてられて有頂天にならない訳が無い!
俺は、ドッペルゲンガー少女に"ウキウキ"でお礼を言ったのだった。
「マヒル様は千里眼も使いこなす、【世界魔導師】様です! 天才と言う言葉で表せない程の大人物です」
「あはははっ。シアも誉めてくれて、ありがと!!!」
さらに、シアからの称賛に俺のテンションはマックスにまで引き上げられる。
「どういたしまして!」
俺のテンションマックスなお礼を受けたシアは、まるで飼い犬のように存在しない尻尾を"ブンブン"振って喜びを表現してくれた。
その様子を見た俺は、ほっこりした気分になったのだった。
「ふむ? 千里眼などワシは使えなかったハズじゃが……。まさか、お主そんな技まで取得していたとは、ワシもビックリじゃ」
完全に浮かれていた俺は、ドッペルゲンガー少女の発言が耳に入る事は無かった。
そんな俺の様子を尻目に、隣に居たシアは"おずおず"といった様子でドッペルゲンガー少女に話しかけたのだった。
「あのぉ、私はシアと申すものですが貴女の名を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ワシか? 聞いて驚くのじゃぞ」
「ワシの名は、アンダルシア=バーンシュタインじゃ。気軽にアンとでも呼んでおくれ」
「バーンシュタイン?! 先年、人間達に滅ぼされた東の国の王家に連なる名では無いですかっ」
「あぁ。ワシ、ちょっと前まで女王をやってたからな」
『女王』という発言を聞いた俺は、夢心地の気分から現実世界に引き戻されるのだった。
「えっ……、女王様なの?」
「『元』女王じゃよ」
動揺して"シドロモドロ"になった俺を横目に、シアは続けてアンに質問をするのだった。
「申し訳ございません。疑っている訳では無いのですが、女王のお歳は『300』を越えていると伺った事が有ります。その……、見た目が若すぎる気がするのですが」
「300歳?!! 超おばあちゃんじゃん!」
シアの質問を隣で聞いていた俺は衝撃で、とんでもない顔をしてしまう。
「その顔やめるのじゃ」
よほど酷い顔をしていたのだろう。冷めた目でツッコミを入れられてしまった。
「まぁ、見た目を変えるのは簡単な事なんじゃが。まぁ、見ておれよ……」
アンは、"ドロンッ"と言う音と共に煙で姿を隠してしまう。
ほんの数秒の出来事であった。
煙が晴れたその先に立って居たのは、この世界に来て初めて出会った例のお婆さんだったのだ。
「あの時のお婆さん?」
「ふっふっふ。やっと気付いたのじゃな」
目の前のお婆さんは不敵な笑みを浮かべると不意に
「ワシは、お主をこの世界に呼んだ者じゃよ」
と、とんでもない発言をしてきたのだった。