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人間の俺が弱小魔族達の救世主になったわけ  作者: エコロジー毒電波
1/14

はじまり

 金属がぶつかる大きな音が聞こえると同時に痛みが体全体に広がっていくのを感じる。


 徐々に意識が遠退いていくのを自分はただ黙って受け入れるしかなかったのだった……



__________

________

______

___

_



 "ドタバタ"と目の前で男達が忙しなく動き回っている。



「敵の数は何人だ?」

 「何故接近に気付かなかった!」

「もうおしまいだぁ」



 怒号と情けない声が混じり合った煩いやり取りを尻目に私はその場を去った。



「何度見ても豪華な作りだなあ」



 私は辺りを見回しながらブラブラと歩き回る。


 ここは白くくすんだ石に囲まれた、まるで中世の城を思わせる造りをしていた。


 先ほど居た室内に比べ廊下は幾分静かである。



「そこ退いてくれー!」"タッタッタッ"



 時折今のような伝令を携えた兵士風の人物が走っていたりもするが……



「物見に行った者が戻ってきたという事は、戦がそろそろ始まるんだな」



 そんな事を考えながら元来た道を戻ると、


「こちらにおわしましたか」


 銀色の鎧を身に纏った騎士風の男が話しかけてきたのだった。



「あぁ、作戦室は煩くて居られないから」


「ハッハッハッ! 前線に出ない参謀達は騒ぐのが仕事みたいなものですからね」


「いや、流石にただ騒いでいただけじゃ無いと思うよ。敵を倒すための作戦を議論していたと思う……たぶん」



 先ほどの騒ぎを思い出しながら出来るだけ参謀達のフォローをしておく。



「将軍は今から出陣?」


「ええ。人間達がまた攻めてきましたからね。兵を集めて直ぐ動けるよう準備をしておかなくては」


「先週攻めてきたばかりだから、今回はだいぶ間隔が短いね」


「どうやら人間どもは我々を滅ぼしたくて仕方がないみたいですな」


(自分も人間なんだけどなあ……)



 そんな事を考えながら複雑な表情をしていると、


「申し訳ございません! マヒル殿のように魔族に親しくして頂ける人間も居るということ、もちろん存じております。マヒル殿の考える魔族と人間の共存の道、このユングも信じておりますとも!」


 魔族の将軍である目の前の男ユングは気合いが入った声で私に語りかけてきたのだった。



(ユング将軍は相変わらず熱い男だな)


「では私は兵達を鼓舞いたしますのでこれで失礼します」


「あぁ、気を付けて」



 将軍を見送ると私は再び作戦室を目指して歩き出すのだった。



 作戦室に着くとまず目に付くのが高さ2m位の木製の扉だ。



「サハラ平原に敵が布陣しているだと!」

 「城のすぐ傍ではないか」

「早くユング将軍を向かわせるのだ」

 「敵の数は我が軍の倍以上ではないか籠城しかない!」

「もうダメだあ」



 部屋の外からでも聞こえるほど参謀達の話し合いは過熱している。


 私は頭痛を感じながら扉を押し開き部屋に入った。



「早く本国に救援要請を出せ!」

 「そんなものとっくに出してるわ!」

「前回の戦いで負傷した兵はどのくらい復帰させられそうなんじゃ?」

 「そもそも籠城しようにも食糧の備蓄は少ないぞ。日照りも続いて飲み水の準備も少ない」

「にげようよぉ」



 参謀達は私が入室したのも気付かない様子で議論を続けている。



(敵が目前まで来ているのに方針が決まって無いのか。大丈夫かなぁ……)



 すると一人の老人風の男が私に気付いた様子で、


「マヒル様、どうか私達をお助け下さいませ」


 両ひざを突いて私の傍で懇願してきたのだった。



(来たか! 皆に不安を与えないよう頼りがいの有る人物に成りきるぞっ……)



 私は自分が想像する"頼りがいの有る人物像"を思い浮かべながら返答をする。



「もとよりそのつもりで来たのだ。安心して欲しい」


「おぉ、マヒル様。ありがとうございます」



 老人は私の靴にキスしそうなくらいの勢いで頭を下げてきた。



(流石に感謝のしかたが過剰すぎる。ドン引きだ……)


「くっ、人間ごときに頼らなければならんとは」


「こらっ! 誰じゃマヒル様に失礼な事を申すのは」


「俺だよ爺さん」


「サンボーン、貴様ぁ……謝罪をするのじゃ救国の英雄たるマヒル様に無礼を働くものではないわ!」


(英雄とか止めて! 恥ずかしいっ)


「ちっ……」



 サンボーンと呼ばれた男は舌打ちと共に私を一瞥し、部屋を退出していったのだ。



「サンボーンどこへ行くのだ謝るのじゃぁ」



 サンボーンを追いかけて爺さん、もといボルグ参謀も部屋を出ていってしまった。


 その場に残されたのは私と6人の参謀達と伝令役の兵士合わせて8人が居るだけだった。



「ごほんっ。では改めて軍義を再開致します」



 何事も無かったかのように、この場で一番の年長者であるアカトハルム(通称アカトさん)主導で軍義が再開された。



「その前にマヒル様には現状をお伝えしておきたいと思います」


「頼みます」


「まず我が軍の現状から、兵数は1300。先の戦いから半数程減らしております。また装備は過不足なく全員に行き渡っております」


「次に食糧の備蓄になります。節約すれば8日は持つと思われますが最近の日照りで近いうちに井戸が枯れる可能性が考えられます」


「敵軍の状況ですが、3000の兵が現在サハラ平原に布陣しており直ぐにでも攻撃してくる危険性がございます」


「最後に救援を本国に依頼しておりますが返事もなく援軍を期待することは難しいでしょう」


「あぁ、大筋は理解できた」


(正直敵の数は問題では無いな。一番気にしないとイケないのは味方を巻き込まずに魔法を打てるかどうか、これが問題だな)



 先の人間と魔族の戦いに強制的に参戦した私は、一度の魔法で5000近い敵を死にいたらしめたのだ。



(あの時は完全に味方が敗走してたら魔法に巻き込まなかったけど、今回は正面からぶつかり合いになりそうだしなあ)


「では議論を再開いたしましょう。野戦か籠城か皆様はどちらがよろしいか?」

 「そんなの決まってる籠城だ」

「兵数が劣っている以上しかたありませんね私は籠城を支持しますよ」

 「臆病者ばかりで困る! 前回も野戦で勝てたのだ。今回も野戦に出るべきだ」

「待て待て! ここはマヒル様に決めてもらうべきだろう」

 「籠城は無いなあ。味方の士気は高いし野戦で決まり」


(また煩くなってきたし、議論に熱中しているうちに退散しておこう)



 私は周りに気づかれぬよう静かに部屋を出ることにした。



(さて、サハラ平原は城の正門を出た所だったな。味方が出陣する前に決着をつけなくては)



──廊下を急ぎ駆け抜ける。


──真っ赤な絨毯が敷き詰められた石造りの階段を駆け降り高さ3mを越す木扉を力強く引っ張る。


──緑が青々と繁った庭を横切ると丁度屈強な兵士が規則正しく並んでいるのが見えたのだった。



「マヒル殿、そんなに慌ててどうされましたか?」



 列から離れたところに居たユング将軍からは丁度こちらが見える位置だったらしく、ゆっくりと近づきながら話しかけてきたのだった。


 私はこれからする事を正直に話すか少し悩んでいた。



(一人で戦うって言ったら付いてきちゃうよなあ)


「まさか今からお一人で戦いに行くつもりじゃないでしょうね?」


「ハハハッ。ユング将軍は鋭いですね」



 図星を突かれた私は乾いた苦笑いを浮かべるしかなかった。



「マヒル殿、何故我々を頼って下さらないのですか? 私たちは国を守るために鍛えられた軍人です。戦うことが仕事なのです」



 ユング将軍は真剣な眼差しで私を見つめていた。



「すみません。自分の力を過信してアナタ達に失礼な事をしようとしていました」



 私はユング将軍と、そして集まった兵士皆に頭を下げた。



「許されるなら共に戦うことを認めて頂けないでしょうか?」


「……」



 辺り一面に静寂が広がる。



「共に国を守ろう」

 「マヒル様も一緒に戦いましょう」

「魔族の栄光の為に!」



 兵士達の口々から徐々に大きな声が聞こえてくる。



「では、マヒル様も我が騎士団と共に戦いに行きましょう」


「あぁ、共に戦うことを許してくれて感謝します」



 ユング将軍と兵達に礼を伝えたその時、


「将軍! 参謀本部から命令をお伝えいたします」


「うむっ」


「騎士団はサハラ平原に出撃し敵軍を撃滅せよとのことです!」


「しかと承った!」


「皆聞こえたな。我が騎士団は領内に侵入した不届き者を一人残らず根絶やしにする! 皆心して出陣せよ!!」




「「「おおおおー!!!」」」




 兵達の雄叫びを背に私は兵を率いるユング将軍の横を歩き出したのだった。




──城門のすぐ側

──目の前には無数の敵

──だが私に恐怖心は無かった




(爆発よ、起これ)


 手を敵軍にかざし念じる。


 それだけで大きな爆発と共に眼前に居た敵達は砕け散ったのだった。


 そう恐怖心など感じる余地など無いのだ。


 なぜならば私はこの国で一番の強者であるのだから。

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