~第四章・1~ポンコツ女騎士と謎肉の破壊力は抜群です。
俺たちは手ごろな飯屋を探しながら町を歩く、その間に彼女にいろいろ話を聞いておこうと思った。
ちらりと横の白銀女騎士を覗いてみると、その仏頂面からは俺に付き添わされることに対しての不満が読み取れた。
「いやぁ、なんか悪いな…付き添ってもらっちゃって。あんた見たところ俺とそんな変わらない年齢だけどかなり階級の高い兵士らしいな、すごいね。」
我ながら白々しいおべっかだと思った、言った後にしまった、むしろ気を悪くしてしまっただろうかと俺は思う。
「んなっ…べ、べ、別に良い、兵士長命令だからな。それに国軍の中では私より強いものもいる…ま、まぁごく少数だがな。」
彼女は少し慌てた後、エッヘンといった様子で自分の軍での実力を自慢してきた。
…この美人騎士様は案外ちょろいかもしれない。
おだてられたら調子に乗る性格だな、もう少し話したら警戒を解いてくれるだろうか。
「それで、道すがらこの世界のことを聞きたいんだが、ヤルパ国ってのは国の名前だよな、この世界には国がいくつくらいあるんだ?」
「本当に貴様は知らないのか…4つだ、私やグロー殿がいるのがヤルパ国、四国の中で最大の領土、軍事力、経済力を誇る。」
「残りはヤルパ国には少々劣るものの強大な力を持つガイス国、昨日国王様とともに会食を行ったはガイス国王だ、そして四国の中でレンノーに限って言えば最も先進的なノアル国、そして約20年前にガイス国から独立したライコル国だ、ライコルはいわゆる鉱石産業と観光産業で経済を支えている。」
「ふーん、ありがとう。この町はヤルパ国が統治してるんだよな、どんな食べ物がおいしいんだ?」
「…れ、礼など良い。そうだな、この辺りはブートン肉が評判だな、昨日の会食でもブートン肉が卓に並んだ、とはいえ今はそんなに時間がない、ちゃんとした店に座って食事をするのは諦めてもらおう。あそこの屋台でいいか?」
そういって彼女が指さしたのは「ブートン肉ケビス」と書かれた看板を掲げた屋台だった。
屋台の前にはいくつかの椅子と机が並んでおり数人の人が…おそらくケビスだろう、それをうまそうに食べていた。
…というかケバブだった。
俺たちは「ブートン肉ケビス・うまうまてんこ盛りカスタム」と「ノスタリカ」なる飲み物を二つずつ購入して店の前の机に着き遅めの朝食をとった。
ケビスはかなりうまかった、トルティーヤとパン生地の間のような生地に挟まれたブートン肉は甘辛いタレが塗られており、何となく名前から豚肉を想像したがどちらかというと俺がいた世界の鳥肉に近い食感だった、ブートン肉と生地の間に挟まっている野菜もとてもみずみずしく青臭さもなく食べやすい。
つまりケバブだった。
「ノスタリカ」はこの国ではよく飲まれている定番の飲料らしく、微炭酸で味は薄めのグレープフルーツジュースといったところだ。
俺はこの世界の飯がまずかったらどうしようと地味に心配していたので
内心ほっとした。
「うまいな…かなりうまい。」
俺が手元のブートン肉を見つめながらつぶやいた後、ふとカネサのほうを見てみると
カネサはケビスの中の野菜を一つずつ指で摘まんで取り除こうとしていた。
「………はっ!」
彼女は俺と目が合うと固まってしまった。
「違う!違うから!」
俺は何も言っていないのに彼女は顔を赤くして謎の否定を始める。
昨日俺に死ねといい放ち剣を構えた氷のように冷たくも美しい女騎士は
実は野菜嫌いでおだてられると気を良くするお調子者だった。
…つまり彼女はポンコツかもしれない。
「もったいないだろ、食べないなら俺がもらうよ。」
言いながら俺はブートンケビスが乗せられていた紙皿を彼女のほうへ向ける。
「いや、違うんだがな!?しかし貴様がどうしてもというならしょうがない…、違うんだがな。」
やはり何がどう違うのか全くはっきりしない言い訳をしながら彼女は器用にケビスから野菜をつまみ出すと俺の紙皿に乗せてきた。
食事を終えた俺たちは今、グローの待つ演習場へと向かっている。
はずなのだが…
「なぁ、さっきもこの通り来た気がするんだが。」
「そ、そ、そんなはずないだろう…大丈夫だよ…」
20分ほど歩いただろうか俺たちがたどり着いた場所は
「ブートン肉ケビス」と書かれた看板をドンと掲げた店の前だった。
「あっっっれぇぇぇ…?……なんでぇぇぇぇ??」
…つまり彼女はポンコツだった。
「な、なぁ…」
あまりにも彼女が哀れで俺は声をかけるのを少しためらってしまう。
「いや、だ、大丈夫だよ…。」
そう言う彼女は少し涙ぐみながら無理やり笑顔を作ってこちらに振り返って見せた。
「いや、そうじゃないんだ。俺、この町に来たばっかだろ?できるだけ覚えた道は忘れないうちに自分で歩いて確認したいんだよ…できれば俺に任せてもらってアンタには俺が今日通った道が間違っていないか確認してほしいんだけど、頼めないかな?」
出来るだけ彼女のプライドを傷つけないように提案する。
「し、し、しょうがないなぁ…そこまで言うなら前を歩いてもぉ…いいぞぉ…」
彼女の声はプルプルと震えていた。唇も震えていた。
俺はこのポンコツ騎士に対して愛着に似た何かを感じだしていた。
そこからグローのいる演習場までは5分ほどで着いた。
「お、お前ら来たか、思ったより早かったな、カネサが道案内をしてるんだ、3時間くらいは帰ってこないかと思ったぜ。」
「いやいや、私をなめてもらっては困りますよグロー殿、私はもう昔の私ではないのですよ。」
カネサはフッフッフッと不敵に笑いながらグローの顔を見ているがグローは彼女の目の周りが赤く腫れているのを見逃さなかった。
そしてあきれた視線をカネサに送る俺とカネサを交互に見た後…
「お前、まさか少年に連れてきてもらったのか…」
グローはため息をついた。