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脇役の僕が主人公にたてついた理由

作者: 熊谷次郎

これは小池一夫先生の漫画寺合宿の課題「ライバル」で作った小説です。

 僕の名前は加藤康夫、この小説の脇役だ。

 主人公の大神正義は姿形は整っている上に身長も180センチを越えていて、その上スポーツ万能。無論頭も良くて高二の時の成績は学年一位と来ている。学校では下級生を中心にファンクラブができているという噂も聞くくらいだ。

 それに引き替え僕はというと、158センチの低身長、スポーツもまるで駄目、学校の成績は一生懸命勉強した上で、学年の真ん中くらいという体たらくである。

 幸い僕と大神は親友同士で仲が良く、喧嘩の一つもしないくらいだった。誰が見ても平凡な僕は大神を引き立てていけばいい。それが僕の役目だと、この小説が始まる前から何度となく思い込んできていた。

 しかし、その考えを一変させないといけないことが起こってしまった。

 僕が密かに恋い焦がれていたクラスメイトの渡瀬あいが大神のことを好きだと言うことを知ってしまったのだ。

 僕は大神がとてもいい奴だと言うことは知っている。僕が彼女のことを好きだと知ったら、もしかすると引き下がってくれるかもしれない。だが、僕はずっと脇役を演じてきたのだから、主人公を抑えて渡瀬の恋を遮るのはセオリーに反することだと思ったのだ。

 結果的にこの恋は実らない。そうだとしても、僕は彼女を好きでいれただけでも満足しようと思い込んでいた。

 そんな僕に神様がいたずらを仕掛けてきた。

 僕は放課後、体育館の裏で渡瀬に手紙で呼び出されたのだ。

 僕の恋が実る……

 いや、そんなことあってはいけないのだ。

 でも、もしかするともしかするとがあるかもしれない。それに少し期待を感じつつ、体育館の裏へ行った。

 そこにはセーラー服姿の渡瀬が立っていた。

「加藤君来てくれたんだ。ごめんねこんなところに呼び出しちゃって」

 渡瀬の言葉に僕は首を横に振った。

「いや、別にいいんだよ。渡瀬の頼みなら。

 でさあ、用件って何?」

 渡瀬は俯き加減で僕を見ながら言った。

「あのね、実は……」

 実は僕のことが好きなんだ。その言葉が来るのを期待していた。

 だが実際は……

「私ね、実は大神君のことが好きなの。加藤君は大神君と仲がいいでしょ? 私と大神君の仲を取り持ってくれないかな?」

 その言葉を聞いて僕はショックを受けた。

 でも、他ならぬ渡瀬の頼みだ。

 僕は知らず知らずのうちに首を縦に振っていた。

 

 その後、僕はスマホで大神に連絡をした。

 馬鹿正直に答えるのも何だったが、渡瀬が僕のことを好きだったとか、

大神にはもう既に彼女がいるとか、嘘の報告をして仲を取り込まないようにするのは、脇役の性格の悪い奴がやることだと思い、そのままの答えを大神に伝えた。

『渡瀬さんがお前のことを好きだって』

 大神からはしばらく返事が来なかったが、

『そうか。渡瀬も俺のことを好きなのか。

 俺ってモテモテだな。

 でも、俺、もう恋人がいるんだけどな。

 この際だから渡瀬とも付き合っちゃおうかな?』

 それを聞いて俺はカチンと来た。

『俺はずっと渡瀬さんのことが好きだったんだ。

 お前、曲がりなりにも主人公なんだろ?

 せめて二股はやめてくれよ』

 それを聞いて大神はこんな返事をしてきた。

『俺だって好きでこんな物語の主人公をしているわけじゃねえ。

 お前が脇役だからって今だとスピンオフっていう、

 物語の脇役がそのまま主人公になるケースだって多いだろ。

 文句があるのならば俺から主役を奪い取れ』

 僕は主人公になる?

 そんなケース、今の今まで考えてみたことがなかった。

『どうすれば主役をとれるんだ』

『俺は知らないぜ。何せ生まれたときからこの物語の主人公だったんだからな。

 でも、一つだけいえるのは、お前になんかは主人公をやらないって事だけだ。

 だって、これはラノベなのか知らないが、俺は格好良くて、スポーツ万能で、勉強までできて、その上、女の子にモテモテの設定なんだぜ? そんな人生の勝ち組設定、他人に譲るのは馬鹿な奴がやることだろ?

 それにお前なんかが主人公になったところで面白い物語ができるか? だってお前、顔も平凡、成績も人並み、スポーツに至ってはまるで駄目。おまけにチビだし、モテる要素がまるでない。そんな奴が主人公だって感情移入ができるのかよ』

 僕はその言葉を聞いて体がカッカと熱くなってくるのを感じた。

 大神は僕のことをそんな風に思い込んでいたのか。

 『それはお前の勝手な思いこみだ。

 確かにお前みたいな設定の人間になって人よりも優越感を感じたくてその小説を読む人間もいるかもしれない。

 でも、僕みたいに人よりも恵まれない状況の人間を主人公にして、その主人公と自分を照らし合わせてそれを克服する物語を読んでいきたいっていうニーズも世の中にはあるはずだ。そのニーズを無視してただ単に自分はかっこいいと思うだけの主人公の話では、その物語は腑抜けたものになる。感情移入がなされない。最低なクズの物語になる』

 大神はいった。

『……そうか

そこまで言えるのならば、お前は俺を打ち負かす存在だ。俺を打ち負かすって事はお前が主人公って事だ。誇りを持ってこれはお前の物語だと主張していくがいい』

 俺は新しい視界が開けるような感覚を覚えた。

 『渡瀬のことは?』

 『俺はもう既に付き合っている人間がいるって言っただろ? 元々付き合う気持ちなんてねえよ』

 大神が笑った。

 『ったく、やっとお前も人並みに自己主張できるようになったか。お前は自分が脇役だからって、俺にいいところを譲り過ぎだっつうの。こんなことでもない限りずっと俺の陰に隠れるつもりだったのかよ。そんな人生ストレスがたまって体に悪いぞ』

 『それもそうだな』


 その後、僕は渡瀬のスマホに電話した。

 僕が渡瀬と大神の仲を取り持つために教えられた携帯の番号だったのだろうが、本来の意図とは別のものだった。

 「あのさ、渡瀬か、実はさ、大神付き合っている人がいるんだって。だから、その子の手前、渡瀬とは付き合うことができないらしいんだ」

 「……そうなんだ……」

 スマホのスピーカー越しから暗い声が聞こえてきた。

 僕は思いっきり唾を飲み込んだ。

 「でさ、これはもしもの話なんだけど。もしも渡瀬が嫌じゃなければなんだけどさ。俺でよければ付き合って貰えないかな?」

 当たって砕けろの思い切った告白。

 しばらくの沈黙。

 そして、スピーカー越しに笑い声が聞こえてきた。

 「よかった。やっと由美の言ってた通りになった。

 実はね。私は最初っからあなたのことが好きだったの。

 でも、どうしたらいいかわからなかったから、モッテモテの大神君を経由して、君に近付くことを考えたの」

 僕は絶句した。

 「え? 何でそんなことをしたの?」

 渡瀬は言った。

 「だって、君が余りにも自分に自信を持ってないんですもの。こっちが好きって言っても『嘘だ』って拒絶しちゃうんじゃないかってくらい」

 僕の疑問符はまだ続く。

 「もしかすると、大神に彼女がいなかった場合、大神と付き合うことになってたかもしれないじゃないか。それでも良かったの?」

 渡瀬は笑った。

 「それはないわよ。だって私、最初から由美が大神君と付き合ってるの知ってたもの。だから、今回の件は君が自分に自信をつけるのをみんなで協力してやったのよ。大神君も含めてね」

 そうか、大神も一杯噛んでたのか。

 渡瀬は言った。

 「だから、いくら脇役だからって主役を食うぐらい自信を持ちなさいって。この物語の主人公がたとえ大神君でも、君の人生の主人公は君自身なんだからね!!」

 

 脇役の僕が主人公にたてついた理由 完

読了ありがとうございました。

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